記憶




記憶

記憶とは過去に経験した事を忘れずに覚えていること。また、その覚えている内容

いちばん古い記憶は私の不運の始まりでとても幸せな記憶


私の恋人否、もとい旦那はとても有名な人だった

ケルト神話の中の1つフィン物語群の中に登場する


ディルムッド・オディナだ

妖精だか女神様だかに魅惑のチャームという加護を付けられ

上司の婚約者と婚約の祝宴の日に駆け落ちした騎士

それだけ聞くととても不誠実な人に聞こえるが

そのチャームとやらは加護とはいうが彼には災難しか呼ばなかった

かくいう私も物語的に婚約者の部下以外を眠らせ

彼に駆け落ちを迫った悪女だ

神話とやらに自分がなるとは思いもしなかった


そんな彼の恋人だった私も彼と同じ立場であった

私はある国の王と女王の間に生まれた

私は神様に祝福され過ぎたか、

昔から男も女も良くも悪くも惹き付けた

よく武力で脅し私を人質に妻に

商人やならず者で誘拐、など日常茶飯事な生活を送っていた

そんな中でも父も母もとても私に大きな愛情を注いでくれた

いつか大事な愛するものと生涯を歩むのだと

政略結婚などは無理に勧めたりしなかった

そんな幸せな時間は長くは続かない

父と母は戦争で死に、

生き残ったのは私のチャームに惹き付けられた父の部下だ

彼は私を父に託されたと周りには話していたらしい




ディルムッドとの出会いは、私が12になった頃だった

その時彼は17だった

少し肌寒い春先、彼は庭先で稽古をしていた

父も母もディルムッドをとても気に入っていた

武芸に秀でていて、真面目で広い心を持ち優しく
仲間や国中に慕われておまけに見目もよい

昔から危ない目にあってばかりの私を父は心配し
また同時に母の娘へのほんの少しのお節介の様なものだった

護衛役と同時に指南にとディルムッドを私に寄越したのだ

私はその時にはもう外に出られず城か屋敷の中で

本を読み編み物をし、侍女と少し語らうだけの日々だった

彼はとても優しかった、私を怖がらせぬように初めは

扉越しに一方的に話しかけてなるべくの接触を控えてくれた

私にとっての彼は安心できる安らげる場所になった

穏やかで優しく同じ悩みを持つ彼に惹かれるのは

そう時間はかからなかった

彼もまた同じように私を思ってくれていたのだ

中庭の木下の木陰で背中を預け合い本を読んだり

彼の指南で槍をふるったり、剣も教えてもらった

馬に乗って少し離れた花畑を見に行ったり、

今で言うデートだ

彼と出会って3年くらいだろうか

自分だけに向けてくれる笑顔が素敵だと思ったのだ、

花が綺麗だと楽しそうに話す弾んだ声が好きだと思ったのだ

貴方が安らげる場所に、大切だと思う場所に、

幸福だと思う場所になりたいのだと

共に生きて幸せになりたいと彼は言ってくれた







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