秘密の特訓 (1/3)

それは昼休みの事だった。飲み物を買おうと外にある自動販売機まで私は足を運んでいた。さて、何を飲もうか。そういえば影山君が今朝、ぐんぐん牛乳を飲んでたっけ。彼曰く「うまいからおすすめだ」と言っていたのを思い出した。
よし、私もソレを飲んで身長伸ばそうか。先日あった身体測定では去年と比べると殆ど背丈に変化は無かったが、成長期が止まったなんて私は信じないよ!まだ!

「……試しに買ってみるかあ」

独り言を呟きながら私は自動販売機の方向へと歩みを進める。
新学期が始まって数日。昨日の一件で話すようになった隣の席の影山飛雄くん。高身長で顔がキリッとしていて、クラスでは殆ど無口な彼は早くも密かに女子生徒から人気があるらしい。そんな彼は中学は北川第一のバレー部でセッターをやっていたそうだ。だから高校もバレー部に入ってセッターをやるつもりでいたそうなのだが、初日から早々1組のヒナタという男子生徒と問題を起こしては主将に怒られ、今は部活に参加させてくれないとか。一体何やらかしたんだ彼らは。そういえば中学の話になった途端、彼は物凄く不機嫌そうだった。何か苦い思い出でもあるのだろうか。まぁ、何にしろ誰だって言いたくない事の1つや2つある。そこはあえて触れないでおいた。

「あ」

目的の自動販売機が見えてくると先客がいた。しかもたった今私の中で話題になっていた影山君だ。

「おーい、影山く………」
「危ない!!」

小走りになりながら影山くんの元へ行こうとすると私に対し何かを叫んでいる灰色の髪をした爽やかそうな男子生徒。もう1人いたらしく、橙色の髪の背丈の低い男子生徒もこちらを見るなり顔を青ざめていた。さらにこちらの様子に気づいたのか、影山くんも目を丸くしながら上を見上げていた。

「上?」

つられて上を見ると、空にあるのは私にとってはあの見慣れたバレーボール。此処で脚を止めないといずれ私の頭に直撃するだろう。しかし本能的にだろうか、気付いたら私の脚は加速していた。ある程度助走をつけると腕を振り上げ、身体は勢いよく空へ飛んでいた。

――――バシン!!

「!!」

打ったボールは灰色の髪の男ん子生徒の横を風を切るように過ぎていった。そう、この感覚だ。スパイクを決めた時の爽快感。あの時を思い出すんだ。

「あ゛」

我に返ると、自分がしていた事を今更ながら理解し、二人の元へ向かい急いで謝罪した。

「ああああいきなりすみません!!その、無意識で身体が勝手に…………」

未だ口をポカンと開けたままの彼らだったが、第一声を発したのは意外にも影山君だった。

「椎名!!」

何故か鬼のような形相でズカズカと早足でやってくる影山君。やばい!コワイコワイコワイ!後ろで先程の二人が「あれ、影山?なんでいるの?」とか言っているが影山君の耳には届いていなかった。私の肩をがっしり掴むと、彼はこう言い放った。

「お前、バレーやってる事何で言わなかった!?」
「え!?あー……やってるというか、中学の時やってた?」
「ごちゃごちゃうるせえ!あとちゃんとこっち見ろ!」
「……スミマセン」

影山君の問いかけに目を泳がせていると怒声を浴びせられた。彼に怒られる理由は全く分からないが、反論するどころかあまりの迫力に気圧され、ただ謝る事しか出来なかった。そして影山君の言い分はまだまだ続いていた。

「バレー、もうやる気はないのか」
「……ないです」

少し間はあったものの、自分の意思を伝えると彼は更にこれでもかというくらい眉間の皺を濃くする。それから何かを考える素振りを見せた挙げ句こう言った。

「じゃあ、マネージャーやれよ!俺らの!」
「はぁ!?」

彼の突拍子もない発言に耳を疑った。私に?マネージャーをやれと?なんで?しかも今俺らのって言った?まさかこの二人もバレー部なの?そういえば跳んできたのバレーボールだから当たり前か。

「俺からもお願い!」

私たちのあまり噛み合ってないような会話に口を挟んできたのは先程の背の低い活発そうな彼だった。

「その身長であれだけ飛んで、尚且つあの威力のスパイクが打てるってすげえええって思った!まるで"小さな巨人"みたいで……もうバレーやらないって勿体ないって思う!俺もこの通り、身長低いからその、似たようなものを感じたというか……。兎に角!見学だけでも来てほしいんだ!……でも俺と影山は今部活参加出来ないけど」

もしかして影山君と問題起こしたヒナタって人は彼の事だったのか。
ああ、彼も同じなのかな。何となく彼とバレー部だった中学の時の私が重なった。
確かに私は身長が150pそこそこで平均を下回っていてバレーには不向きな身体だ。最初の頃は試合でよく他校の選手から奇怪な目で見られていたりもした。「あの小さい子がウイングスパイカー?」って。だけど小さくても跳躍力はあるし、空中戦での戦い方を見つけた私は負けなかった。身長なんて関係ないんだと。それをバネに3年間バレーを続けてきた。そりゃあ、あの時はバレーに対して本気で取り組んでた。でもね、

「俺からも頼むよ」
「菅原さん…」

その時、灰色の人がヒナタくんの前に現れた。その人はとても真っ直ぐな目をしていた。そして二人は私にこれでもかというくらい頭を下げてきた。

「ごめんなさい」
「「えっ」」
「今の私にはバレー以上に熱中してる事があるから。……だから、マネージャーは出来ない!あと、ボールごめんなさい!」

それじゃ、と私は逃げるようにその場を立ち去った。冷静になって考えてみると影山君は隣の席だから逃げてもほぼ無意味だったし、何よりバレーが好きな人の前でバレーより熱中してる事あるから、と断るのはとても失礼だったような気がする。嗚呼、やってしまった。

「あー……」

憂鬱だなあ。
昼休みが終わると影山君とは嫌でも顔を会わすわけで案の定、授業中彼からずっと睨まれていた。やっぱり怒ってるよなあ……。
休み時間もお互い会話を交わす事はなかった。あ、そういえばぐんぐん牛乳買ってないじゃん。


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