秘密の特訓 (2/3)

「「「「「さようならー」」」」」

帰りのホームルームも終わり、部活やアルバイトなどと用事のあるクラスメイトたちはわらわらと教室を出ていった。軽音部に所属している私もスクールバックとギターケースを背負い、個人練習をする為に音楽室に向かおうと動き出すと、目の前に相変わらず眉間に皺を寄せたままの影山くんが通り道を塞ぐように立った。まるで逃がしはしない、というように。

「椎名!!」

影山くんの思ったより教室に響いた声に残っていたクラスメイトたちがこちらに注目していた。

「えっと………なに?」
「今から付き合え!!」

そう言うなり、彼は有無を言わさず私の腕を取っていきなり走り出した。教室を出る際、誰かが「なに?告白?」「影山くんって肉食系かあ……」などと言っているのが聞こえた気がした。やばい、恥ずかしいんだけど。てか影山くん走るの速っ!スクバとギター背負って全力で走ってる私の事も少しは考えてくれよ!あと体格差も!

「影山くんんんん?!私これから部活なんだけど!?」
「俺もだ!だから今から俺と日向の特訓に付き合え!」
「話噛み合ってねぇええええ!!いやだから私軽音部だからあああああ!!!」

たった今理解した。影山くん、いや、彼に最早"くん"なんて付ける必要など無い。影山って少し………いや、かなり俺様というか横暴というか……そういう気質があるのかもしれない。いや、あるな。
しばらく走っている(走らされている)とグラウンドのバックネット裏にやって来た。そこにはバレーボールを抱えた昼休みに会った橙色の男子、もとい日向くんがいた。私を見るなり彼は目を輝かせこちらに向かって来た。

「来てくれたんだ!」
「ゼェゼェ…………昼間のオレンジ君……じゃない、日向くんじゃん。……………あっいや、自分の意思で来たわけじゃないんだけど……!」
「俺、日向翔陽!日向でいいよ!」
「あ、私は椎名夏芽です…………じゃなくて……!」

あぁ疲れた。大荷物の人間を全力で、しかも無理矢理走らせる影山ってどういう神経をしているんだ。しかもそんな二人は私に構わず話だって進んでるし……。

「よし、特訓すっぞ!」
「おう!」
「じゃなくて!」
「「えっ」」

二人はとぼけたような顔をしてこちらを見る。

「大体なんで私が此処に連れてこられなきゃならないのさ。マネージャーはやらないって昼に言ったよね?」

マネージャー業に関しては昼に断ったはずなのに懲りない影山と日向くん………じゃない、日向に不満を漏らすとまたまた彼らの口から新たな要望が出てきたのだ。

「マネージャーはいい。代わりに「俺たちの特訓に付き合ってほしいんだ!」……おまっ、日向!遮るんじゃねぇよ!」

二人が初日から問題を起こして部活に参加出来ないのは影山から聞いてはいた。日向曰く、他の新入部員+先輩で土曜日に3対3の試合をする事になり、そこで勝ったら今まで通り部活が出来るらしいが、もし負けたら――――

「影山は、セッターをやらせてもらえない」
「……!」
「俺はまだまだ下手で、悔しいけど試合でもきっとこいつの脚を引っ張ると思う。でも今日の椎名さんのスパイク見て、この人ただ者じゃない!って思ったんだ。俺も小さな巨人や椎名さんみたいになりたい!その……俺、同じ境遇の椎名さんからバレー教わりたいって思って……。だから、俺たちに―――」

「「力貸してほしい!!」」

ぎゅっと目を瞑り、必死に頭を下げる二人。"同じ境遇"とはきっと、私も彼も小さいけど、それでもなお高さが必要なバレーを諦めなかったこと。どんなに高い壁にぶつかっても飛ぶことをやめなかったこと。きっと日向の言っている"小さな巨人"もそうだ。私の場合は過去形になってしまったけれど。
彼らの熱意はひしひしと伝わってきた。ホンキだ。……なんだよ、そんな二人見てたら私だって、

「……付き合ってあげなくもない。でも、教えるのは今回の試合までだから」

そう言うと、彼らの目がぱあっと輝いていくのが分かった。そんな目で見られたらちょっとやる気出ちゃったな。

「「あざっス!!!」」

思ったよ。私ってお人好しなのかな。
ああ、こんなことが無かったら今頃音楽室でギター弾いてたんだろうなあ。


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