大事な3文字 (2/2)

曲が始まった間、体育館内は一気に歓声が上がる。そこから皆、彼らに釘付けだった。

「すげえ……!」

思わず口に出たのはその言葉だった。俺がバレー以外の事に関心を持ったことはあっただろうか。たった5人でこんなにも多くの人間を魅了してしまうのだ。……音楽ってすげえものなんだな、素直にそう思った。
ステージでギターを弾いている夏芽の姿はあの日、偶然日向と見かけた時のようにとても楽しそうで、生き生きしていた。よくもあんなに細い弦を器用に指で押さえながら弾けるのだろうか。不器用な俺にはきっと無理だ。音楽の授業の時に一度だけクラシックギターの授業があったが、まともにコードを押さえる事の出来なかった俺には到底向いていなかったのを覚えている。
しかし、時折だがあいつは少し寂しげな表情を見せていた。軽音部はこの文化祭が終わると3年生が引退をしてしまう。そんなことをいつの日か言っていた。バンドメンバーで自分以外は皆3年生なのできっと思う所があるのだろう。それなら……

「―――こっち来ればいいのにな、」

バレー部に来れば、いいのに。なんて思ってしまう。






ライブが終わるのはあっという間だった。人も、楽器も、機材も、一気に空っぽになり、閑散とした体育館のステージに座り、俺たちは焼きそばを静かに食していた。俺たち以外に人は誰もいない。先ほどの余韻すらも、もう感じられなかった。すると突然、ステージにいたはずの夏芽がストンと下に降りた。

「あんなに人がいっぱいいて、賑やかだったのに、なんか嘘のようだ」
「…おう」
「……これから、居場所ないなあ」

そう言った彼女はどこか遠い目をしていた。こいつの言う"これから"とは大方部活の事だろう。きっと先ほどの言葉の意味もライブのことだけじゃなく、部活のことも含まれての意味だったのだろう。今のコイツのこの様子じゃ他のバンドに入る気や新しくバンドを組み直す気はさらさらないようだ。だったら俺が言うことは一つだ。

「来ればいいだろ、バレー部」
「…別にマネージャーは増えたんだし、もう私じゃなくてもいいでしょ?仮に、だよ。先輩がいなくなったから軽音部辞めて今度はバレー部行くのって虫がよすぎるよ。それに、そんなの中途半端だし部員や他のマネージャーが……」
「夏芽!!」

俺は覇気がない夏芽の姿を見て何を思ったのか、自分の気持ちを正直に伝えるのは今しかないと思った。焼きそばが入ったパックを置き、ステージを飛び降りては夏芽の目の前に立つ。そうだ、言うんだ。早く、言わないと絶対後悔する。
トクントクン、と心臓の鼓動が次第に速まっていく。すごく、五月蝿い。こんなにドキドキするのは初めてだ。たった3文字の言葉を発するだけなのに、こんなにも緊張する。
すうっと深呼吸をして、覚悟を決めた。ぎゅっときつく瞑っていた目を開けて、

「俺はお前が………"好きだ!"だから傍で支えてもらいたい!それじゃだめなのかよ!?」
「!」

夏芽は驚いたように暫く目を見開いていた。やがて自分の中で何か納得したのか、口を開いた。ごくり、と生唾を呑む。その答えは、

「……わ、私も、好き」

無意識だった。気付いたら夏芽は俺の腕の中にいて、ぎゅ、と彼女を強く抱きしめていた。改めて感じるけど、やっぱり夏芽は小さかった。身長差約30センチ。当たり前だがこいつは俺の中にすっぽり収まっていた。ふとゆでだこのように赤く染まった顔を上げた夏芽と目が合った。

「……飛雄のことは好き、だけど…。マネージャーのことは少し考えさせて、」

そう言って夏芽は恥ずかしそうに自分の顔を俺の胸に埋めた。

……ああ、そうか。これがウワサの文化祭マジックってやつか。

fin.
(2014.09.06)

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