人の顔と名前は覚えましょう

「14番………14番………あった」

手元にある紙切れに書かれた番号と黒板にある番号を照らし合わせていると、探していた数字はすぐに見つかった。

「(うんうん、なかなか良い席)」

長いようで短かった夏休みが明け、いよいよ2学期が始まった今日、突然担任が席替えをしようと提案をしてきた。思い返せば3年に進級してから席替えも無く、名簿順の席で7月までは過ごしてきたので、そろそろ頃合いが良いのかもしれない。勿論それに賛同する者もいたが、それは前の方の席の連中であって、窓側や後ろの席だった面々からはブーイングの嵐だった。しかし担任は意向を変える事もなく、公平にくじ引きでの席替えを決行した。
私が引いたくじというのは所謂当たりくじで、廊下側の後ろから2番目の席だった。冬場だったら隙間風で寒かったりと少々懸念されるが、今の季節は夏だ。教室内はクーラー完備なのでそんなことは関係ない。さらに真横は壁になっているので寄り掛かれるという特権がある。
位置的には当たりくじだったが、あとは周囲を固める面子だ。クラスメイトの中に特別苦手としている人物がいるわけではないが、だからと言って全員と会話をしているわけでもないので、未知な部分が多い人も勿論いる。仲が良い人が近くの席である事が本望なのだが、この教室には40人もの生徒がいる。なかなかそうもいかないだろう。
先生が「んじゃ、移動しろー」と言ったのを合図にガタガタと机とイスを引き摺りながら周囲を見渡していると、明らかに窓側や教卓前の列の方面に向かっている事から、どうやら友達とは離れてしまったようだ。
廊下側まで机を持っていき席に着くと、私の前の席はサッカー部の中村くんだった。彼はとても背が高いのでちゃんと黒板が下まで見えるかが少々不安だ。近くの席になったのも何かの縁なので中村くんに「よろしく」と声を掛けると、あの爽やかな声で「よろしく!」と返ってきた。サッカー部というのはクラスのムードメーカーやお調子者と言われている人が多かったので、ちょっとチャラそうな集団というイメージがあったけれど、中村くんはそんな事はないような気がしてきた。
さて、次は隣の席になった女の子に挨拶をしようと声を掛けようとしたその時だった。ポンポンと軽く後ろから肩を叩かれた。振り向くと私の後ろの席は座高の高さからして、これまた中村くんと同じく背の高そうな男子が座っていた。強いて言うならば髪型がもの凄く個性的で厨二臭が半端ないヴィジュアル系バンドにいそうな感じの人。この髪型を例えるならそうだな…………トサカ、だろうか。もしかして彼は軽音部なのだろうか。あんな感じの男子の集団が眼帯したり包帯巻いてたりチェーンじゃらじゃらしてたりとそんな格好で文化祭のライブで演奏していた気がする。確かバンド名は「此ノ世ノ終ワリ」
なんかいろんな意味で衝撃的だったし、どこかで似たようなバンド名を聞いたことがあったような気がしなくもなかったので今でも覚えている。はっ……もしかして彼もあのメンバーの一員なのでは。
ところで呼ばれたのは良いけれど、大変な事に私はこの人の名前を知らないのだ。人の顔と名前を覚えるのが苦手というのもあるのだが、もう3年になったというのに、しかもクラスメイトなのに人一人の名前すら覚えられない私は今まで何をやっていたんだ私は!!と自己嫌悪に陥っていると、私の心の声を知ってか知らずか彼はいかにも"作っている"かのような愛想笑いで私に言ったのだ。

「俺、黒尾鉄朗。よろしく、椎名さん」

今度からちゃんと人の名前は覚えようと思いました。

(2014.11.04)

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