ガジルの鼻を頼りにしばらく歩いていくと、小さな町を見つけた。小さな町といえど行き交う人はそこそこ多く、商店やカフェなどお店もいくつかある。それなりに栄えている様子だ。
「おい」
「どうしたの?」
私がきょろきょろと周囲を見回している間にどこから見つけて来たのか、ガジルの手には大きな布が握られている。しかも2枚。そのうちの1枚を私の方に差し出しており、私は受け取るか一瞬悩んだ。
「なにこれ?」
「あ?ローブだよ」
「なんで……?」
「目立たねえようにだ」
得意げに笑うガジルから一応ローブを受け取る。ガジルはローブを身に着け、フードをかぶるとさっさと歩き出した。
私は受け取ったローブを着るか悩んだものの、結局これを着ている方が目立つような気がして、かと言ってそこらに捨てるわけにもいかず手に持ったままガジルを追いかける。ガジルは道行く人に声をかけては無視されていた。
そんなガジルにはすぐ追いついた。けれど、すでに柄の悪い男たちに絡んでいる。ニヤニヤと笑っていた男たちは一発殴られるとすぐにガジルに恐れをなし、大人しくなった。
「最近ここらにデカい魔水晶が現れただろ。それがどこにあるか……教えろォ!」
ガジルに胸ぐらを掴まれている男は「知らない」と言って必死に首を振る。さすがに傍観したままではいられないと、私はガジルに駆け寄っった。
「ちょっと、ガジル!」
「じゃあもう一発……」
「ガジル!」
胸ぐらを掴まれたままの男は、本当に知らないのだと主張する。男の仲間も何度も頷いていた。
私はそれでも手を離さないガジルの腕に触れる。それから、無抵抗で降参するように両腕を上げている人を脅すなとガジルを睨みつけた。
「チッ、しょうがねえ。別の奴に聞くか」
ガジルが男を開放したので私もガジルの腕から手を離す。男たちは安堵のため息を吐くと、ガジルについてどこか感心したように話し始めた。男たちが言うには、ガジルはつい最近まで喧嘩はめっぽう弱かったらしい。
私はガジルと顔を見合わせる。なんのことを言われているのか全くわからないけど、ガジルは何か思うことがあったのかハッとして男たちにそのガジルのことを聞き出し始めた。
「ガジルはフリーの記者だよ」
「王の批判ばっかり書くからみんなに嫌われてんだ」
ガジルが記者?私の頭には疑問符ばかりだけれど、ガジルは「会ってみたい」だなんて言って笑っている。
「おし、行くぞ」
「ちょっと待って、記者のガジルって……?」
「道中教えてやるよ」
そう言ってさっさと歩き出したガジルを私は小走りで追いかける。ガジルの隣に並ぶと、軽く目を見開かれた。私がさっき渡された布をまだ手に持っていることに気づいたらしい。
「お前!着てねぇじゃねえか!」
「今さら?それより、記者のガジルって?あの人達ガジルと同じ顔って言ってたけど」
「アースランドとエドラスには同じ顔の人間がいんだとよ」
イマイチ想像がつかずに私は首を傾げた。でもガジルのそっくりさんがいるのは確かなようだし、私もいるのかもしれない。もしかしたら妖精の尻尾のみんなも……?
・・・
立ち寄った町で手に入れたこの世界の地図や、ガジルが聞き出してきた情報を頼りに私たちは王都に移動していた。そこで情報収集と休憩のために酒場に立ち寄る。ガジルと私はカウンターに並んで座り、人々の会話に耳を澄ませた。
ちょうど傍のテーブルに座っている客たちが王や王都について話していた。それから魔力のことも。私とガジルは一瞬だけ目を合わせ、ほとんど同時に立ち上がる。
「その話もっと詳しく聞かせてくんねぇかなぁ」
「その話もっと詳しく聞かせていただけませんか」
「「「え?」」」
ガジルと同時に声を発した人物に目を向ける。そこにはガジルと全く同じ顔の男が立っていた。
でも髪型は違うし、服装も違う。手にはメモ帳とペンを持っている。
「まさか、エドラスのガジル……?」
私は思わず口を片手で覆った。ガジルたちは顔を見合わせ、笑っている。自分の顔見て笑うってどういうことなのか私には感覚が全くわからなかった。
とりあえず私たちは空いているテーブルに移り、お互いに知っていることを話すことになった。なった、というよりはガジルたちが勝手に話を進め、移動してしまったのでついていくしかなかった。
私が知っている方のガジルがこの世界に来た経緯を簡単に説明する。エドラスのガジルは興味深そうにその話を聞いた後、自己紹介をしてくれた。国王や政府に都合の悪いことも記事にしてしまうため嫌われていることは本人もわかっていたらしい。でもそうなってでも真実だけを書くという信念は素直に尊敬できると思った。
「しかし元の世界とは色々違うと聞かされていたが……」
ガジルがおもむろに口を開く。お互いに話してみて、顔は全く同じでも全然違うと実感したのだろうか。
「そんなに違ってないな!」
「そんなに違ってないですね!」
ガジルたちは肩を組み、すっかり意気投合している。私は心の中で「嘘ぉ!?」と叫んでいた。本当に声を出して叫ばなかったのを誰かに褒めてもらいたい。
しかもそのままガジルたちは笑い合いながら店を出ていってしまう。私はあの2人と一緒に行くか悩んだ。
ガジルとガジルの、片方はエドラスの人だとしても会話を横で聞いているのはなんだか変な気分だし、でもエドラスのことを知っている人が手伝ってくれるのは心強い。別々に行動するよりは一緒にいた方がいいだろうし、でもこれからもあの2人の妙なテンションについていかなければいけない。
「……も〜!」
私は頭を抱えてしばらく悩んだけれど、仲間を助けるためにはエドラスのガジルの協力を得るほうがいいと思い、急いで店を出て2人を追いかけた。仲間のためだ、仕方がないと自分に言い聞かせながら。
「モニカ!こっちの俺が色々協力してくれるってよ!」
2人に追いつくやすぐにガジルにそう言われた。エドラスのガジルも微笑んでいる。ガジルたちが何を話したのかはわからないものの、協力してくれるならと私は軽く頭を下げお礼を言った。エドラスのガジルはにこりと笑っていえいえと手を振る。
別世界のガジルとわかってはいても、ガジルの穏やかな笑みに違和感は拭えない。でもそんなことを気にしている場合でもないと私は軽く頭を振った。
「失礼、あなたのお名前を聞いていませんでしたね」
「私はモニカです。えっと……ガジル、さん?」
「さんだなんて。呼び捨てでかまいませんよ」
「いえ、あの、こっちのガジルと混ざると言うか……」
ガジルをチラ見すると首を傾げられる。エドラスのガジルは「そういうことでしたらお好きにどうぞ」と返してくれた。やっぱり顔は同じでも全然違う。
「では、お気をつけて」
「お前もな」
無駄にカッコつけてガジルたちはお互いに背を向ける。ずっとこんなノリなんだろうか。改めて考えるだけでため息が出た。