王都に到着してからエドラスのガジルと一度別れた。それから私たちは街を見て回ったり、地図や歴史の本を読んでみたりとこの世界、自分たちでもエドラスについて調べてみた。
エドラスは魔力を失わないためにアースランドからアニマを使って定期的に魔力を取り込まないといけない。また、空に浮かぶ島、エクスタリアに住むエクシードという存在だけが魔力をもっていて、翼で空を飛ぶことが出来る。しかもエクシードは神として崇められているらしい。
エクシードの挿絵はハッピーとシャルルによく似ていた。エドラスのガジルからも話を聞いていたけれど、自分で読んでみるのでは実感が違う。この世界がわかったようで、わからないことが増えた。ハッピーたちは本当にこの世界のエクシードなんだろうか。
「おい」
挿絵のエクシードをじっと見つめているとガジルから声をかけられ、私は本から顔を上げた。ガジルはこっちに来いというように手招きする。身を隠すため路地裏にいた私は呼ばれるままガジルについて行った。
ガジルは街の広場まで歩き、物陰に隠れるようにして広場を覗き込んだ。私も同じように騒がしい広場に目を向ける。広場には多くの人が集まり、音楽が流れ、紙吹雪が舞っていた。そしてその中央には巨大な魔水晶が置かれている。
「あれって……」
ガジルは私の言葉に黙ったまま頷いた。あれが探していた魔水晶に変えられてしまった妖精の尻尾のみんなだ。私はぐっと拳を握りしめる。
「陛下ー!」
広場の誰かが叫んだ。続けて歓声が上がる。魔水晶の前にさきほど歴史の本で見た現国王が立つと、歓声は一層大きくなった。
「我が神聖なるエドラス国はアニマにより10年分の“魔力”を生み出した」
国民の歓声に迎えられたエドラスの王は大げさな身振りで演説した。エドラスには魔力を得る権利があり、これからも魔力を得ていくと。この巨大な魔水晶がゴミに思えるほど強大な魔力を。
国王が振り上げた杖が魔水晶にぶつかると、その弾みで魔水晶が欠けた。あれは妖精の尻尾の仲間たちだ。今、仲間が傷つけられている。
でもその欠片を気にする人はエドラスの住人にはいない。彼らにとってこれはただの魔力の塊だった。
「くだらねぇ。あんな安い言葉で民衆を煽ってやがる」
ガジルのその言葉で私はいつの間にか止めていた息を吐き出した。無意識に強く握り込んでいた拳も解く。力を入れすぎていたのか、指先が少し痺れていた。
「これからどうするか……」
「エドラスのガジルに協力してもらおう」
「だな」
兵隊が多くて、このままじゃ近づくことは出来ない。ガジルと私は作戦を立てるために一度広場から離れた。
その時、物陰から小さな声で呼び止められる。私とガジルは一度顔を見合わせ、軽く身構えながら物陰に近づいた。ゆっくりと物陰をのぞき込むと、そこにいたのはエドラスのガジルだった。
「驚いた……どうしてここに?」
「いえ、お二人がこの状況にお困りではないかと思いまして」
「さすがオレ、気が利くな!」
どちらのガジルも得意げに笑いあう。私はそれにちょっと引きつつも、ちょうど助けを求めに行こうとしていた矢先だったのでガジルが来てくれたのは本当に嬉しかった。
「来てくれてありがとう」
「いえいえ、いいんですよ。ではさっそく、作戦会議と行きましょうか」
私とガジルは力強く頷いた。
・・・
私とガジルは多くの人で賑わう広場の中に立っていた。魔力を抽出する式典が始まり、人々の歓声も大きくなっていく。早く行動を起こさなければ……と気持ちが焦り、私はエドラスのガジルを探した。
エドラスのガジルは目立つと都合が悪い私たちに代わって、この広場の警備を調べてくれている。そして準備が整い次第、合図を送ってもらう手はずだ。けれど予想よりも広場にいる一般人が多く、それもどうにかしなくちゃいけない。私のすぐそばに立っているガジルもキョロキョロと辺りを見回していた。さすがのガジルもこうも見物人が多いと暴れるに暴れられないらしい。
そうして私たちが早く行動しなければと焦り始めたとき、パァンっと小さな爆発音が響いた。続けて誰かが「花火だ!」と叫ぶ。歓声は大きくなるけれど、警護をしている兵隊たちは明らかに予定外のことに慌てていた。
「花火なんて聞いてないぞ!」
「いいぞ!」
「もっとやれー!」
その間にも続けざまに花火が打ち上げられた。
「NORTH……北?」
「……そういうことかよ」
私は打ち上げられた花火の意味に首を傾げる。けれどガジルは何かに気づいたのかにやりと笑って、兵隊に背中を向けるように立った。
「広場の北だ!怪しい奴が魔水晶を狙ってるみたいだぜ!」
「三分の一を残して北へ向かえ!見物人をもっと下がらせろ!」
ガジルが叫ぶと、兵隊たちは少人数を残してほとんどが広場の北、魔水晶の裏側へ向かう。兵隊長の言葉に魔水晶を取り囲んでいた兵隊たちが動き出し、観客を押していく。エドラスのガジルが花火で誘導してくれたのだと理解した私はガジルと一緒に兵隊の前へ飛び出した。
「あのミストガンとかいう野郎はうさんくさい奴だが、ひとまず今は信じてやるぜ!」
「ガジルは魔水晶を!」
「ああ!」
少なくなったとはいえ残っている兵隊たちを私が蹴散らす。その隙にガジルは鉄竜の鉄拳で魔水晶を砕いた。
砕かれた魔水晶は光を放ち始める。私とガジルはその様子を食い入るように見つめていた。エドラスの兵隊や広場にいた観客たちも呆然と輝く魔水晶を見る。そして、光は徐々に人の形へ変わっていった。