「ねえ、ルーシィ。モニカ見てない?」
「え?モニカ?見てないけど……ラクサスたちと一緒じゃないの?」
ミラさんは困ったように眉を寄せ、片手を頬に当てて小さく首を傾げ「いないのよ」とため息交じりに言う。反応からして一緒にいないことは察しがついたけれど、あたしはどこか信じられない気持ちでギルドの中を見回した。
「あれ、ラクサスたちもいない」
「ラクサスたちならモニカと連絡がつかないからって朝から探しに行ってるわ」
「ラクサスや雷神衆も居場所を知らないなんて……家出!?」
あたしは自分で言っておきながらモニカがそんなことをするはずないとも思った。モニカは傍から見ていても妖精の尻尾が好きだし、何よりもラクサスのことを大切に思ってる。
「いやでもラクサスに嫌気がさして……?」
「もうルーシィったら。多少のことでモニカがラクサスのこと嫌いになるはずないじゃない」
「そうかもしれないですけど……わからないじゃないですか。つもりにつもったものが爆発することもあるだろうし」
「ルーシィ家爆発したの?」
突然のハッピーの発言にあたしは驚きから体が跳ねた。きょとんとした顔で見上げてくるハッピーに「そんなわけないでしょ」と返す。ハッピーは「つまんないなぁ」なんて言っていたけど無視した。
「まだモニカ見つかんねえのか?」
「ナツ!あんた知ってたの?」
「さっき他の奴から聞いたんだ」
「オイラも聞いたよ!一昨日から帰ってないんでしょ?」
ミラさんが「そうなのよねぇ」とまた困ったように息を吐く。そこに上半身裸のグレイが顔を出した。
「仕事なんじゃねえのか」
「それが仕事を受理してないのよ」
「モニカが姿を消すなんて初めてのことだ。少し心配ではあるが……大人なのだし大丈夫だろう」
下まで脱ぎだしたグレイへ誰かが何かを言うことなく、今度はエルザも話の輪に加わった。いつの間にかウェンディとシャルルまで集まって来ている。
確かにモニカは一人で出かけて心配されるような年齢でもない。それにあたしなんかよりすごく強い。水の滅竜魔法と治癒魔法だって使えるし、S級クエストに一人で行くこともある。きっとみんなそんなことはわかっていて、でも仲間がどこに行ったのかわかならなくて心配なんだ。
「ええ、もちろんモニカは無事だと思うわ。でも……」
「でも?」
言い淀んだミラさんにその場の全員が首をかしげる。
「ラクサスの機嫌が悪いのよ。心配なんだろうけど酒場のお客さんが怖がっちゃって」
誰ともなく口から「ああ……」と声が漏れた。
ラクサスはモニカと幼馴染で、ギルドに戻ってきてからは以前の行いを改めものすごく仲間想いになったし、モニカへの態度もわかりやすく変わった。ようやく一緒にいられるようになったのに、突然何も言わず姿を消してしまったら心配になるのも仕方ない。
「ラクサスにも言いにくい用事ってことかしら」
シャルルがウェンディの腕に抱かれながらそう言った。もしそうだとしたらその用事って?まさか浮気じゃないよね?
「ラクサスに言えなくても雷神衆の誰かに伝えるんじゃないか?エバーグリーンなら同性だし話しやすいだろう」
「でも雷神衆の誰もモニカさんの行先知らないんですよね……」
「やっぱり仲間にも言えない用事ってことか?」
エルザ、ウェンディ、グレイが困惑したように眉間にしわを寄せる。ナツはさっきから一人で顔をしかめ、うんうんと何か悩んでいた。
「ラクサスたちも探しに行っているし、今はちょっとだけ気に留めておいて。きっと大丈夫よ」
重くなりかけた空気を取り払うようにミラさんが笑う。あたしたちもつられて小さく笑いあい、話題を変えて今日の仕事の相談を始めた。
・・・
「オレたちも行くぞ!
ギルドに顔を出したとたん、目の前に飛び出してきたナツに驚いてあたしは尻もちをつく。ハッピーが「大丈夫〜?」と歩み寄ってくれたものの、ナツは今にも走り出しそうな勢いだった。
「ちょっと待ってよナツ!行くってどこに!?」
「モニカ探すに決まってんだろ!」
あたしはつい大声で「ええ〜!?」と叫んだ。
その声を聞きつけたのか何人かあたしたちの周りに集まってくる。
「どうしたんだルーシィ。そんなに大声を出して」
「エルザ!ナツがモニカを探しに行くって言って」
「ラクサスたちが探してんだろ?」
エルザとすでに服を脱いでいるグレイが不思議そうに顔をしかめる。ナツはそんな様子を見て眉を吊り上げた。
「仲間が行方不明になってんだぞ!じっとなんかしてられるか!」
そう言ってナツは本当に荷物を抱えてギルドから出て行く。あたしはエルザたちと一瞬顔を見合わせて、すぐにナツを追いかけた。
結局、あたしたちはウェンディとシャルルにも声をかけてモニカを探しに行くことになった。まずはラクサスたちと合流するというナツの案にのり、あたしたちはモニカの情報を集めながらラクサスたちが向かった街を目指す。
ミラさんによればラクサスたちはモニカが姿を消す前に受けようとしていた仕事の依頼主を訪ねているらしい。そこでも情報がないのか、逆に新しい情報が手に入ったのかはわからないけれど、ラクサスたちも戻ってこないのは心配だからとマスター直々にあたしたちはモニカを探す任務を言い渡された。
「全然情報がないじゃない!」
シャルルが苛立ちを隠さずそう言った。その隣では立ち寄った町の中を歩き回り疲れた様子のウェンディがため息をついている。
「ラクサスたちが向かった街へ行くにはここを経由するはずなんだが……」
「もうけっこう日も経ってるからみんな忘れちゃったのかも」
エルザにハッピーがそう答える。
そう考えたくはないけれど確かにモニカがギルドに来なくなってから1週間近く経っていて、実はそれよりも前この街に立ち寄っていたのだとしたら町の人たちが覚えていないのも仕方ないと思う。
「とにかくラクサスと雷神衆に合流しようぜ」
暗くなりかけた空気を払うようにグレイがそう言った。あたしたちは頷きあい列車に乗る。ナツとウェンディは少し嫌がったものの、モニカのためだと言い聞かせれば大人しくなった。
あたしたちは列車の中でモニカがどうしているか話した。ただ深刻な状況になっていないことだけを願って迷子になっているだとか、とにかくくだらない理由を考える。
そうしてあたしたちはラクサスたちが滞在している街にたどり着いた。
・・・
「モニカらしき人物を見た住人は何人かいたが、全員行先まではわからないそうだ」
「宿もとってない。列車にも乗ってない。この街に来てからの足取りがわからねぇ」
「近くの森が怪しいからって探してるけど何も収穫はないわ」
街の宿の一室でフリード、ビックスロー、エバーグリーンは疲れた様子でそう言った。ラクサスはまだ森の中を探しているらしい。
あたしは一緒に話を聞いていたエルザたちの様子をうかがった。みんなは険しい表情で状況を飲み込もうとしている。ただナツだけはラクサスが森にいると聞いたとたん走って行ってしまって、ここにはいない。ハッピーもナツについて行った。
「パッと消えるはずがねえんだから人が少ない深夜とかに街を出たんじゃねえのか」
「列車に乗っていないのなら徒歩で移動になる。列車から見ただろう?隣町といっても列車に乗らなければ1日以上かかる」
「それにオレたちも周辺の町には探しに行ったぜ。誰もモニカを見てねえ」
フリードとビックスローから反論され、グレイは口を閉じた。
まるでミステリー小説のようだとあたしは「う〜ん」と唸った。この場にいる全員、あたしと同じように考え込んでいる。
「お前たちはモニカが受けようとしていた依頼の内容を知っているのか?」
「これよ」
エバーグリーンが1枚の紙を取り出す。エルザがそれを受け取り、あたしは横からそれを覗き込んだ。
「えっ?なにこれ……」
「どうしたんですか?そんなに大変な仕事なんですか?」
エルザは無言でウェンディに依頼書を渡す。ウェンディはそれを受け取り、グレイやシャルルにも見せた。
「水竜の力求む?なんだこれ」
「明らかにモニカを指名してるじゃない」
「モニカさんは何か考えがあってこの怪しい依頼を受けようとしていたんでしょうか……」
あたしは困惑したまま雷神衆へ顔を向けた。けれど3人とも何も知らないのか首を振るだけ。
依頼書には水竜の力を使い、湖のそこにある魔力の宿った古代の遺物を回収することと書いてあった。そもそも古代の遺物って何?しかも竜の力を求めるなんて依頼者は何者?依頼を受けるにしてもモニカはどうして誰にも何も言わなかったの?考えれば考えるだけわからないことが増えていく。
「この湖を探してるわけね?」
シャルルの確認に雷神衆は同時に頷く。確かに湖なら森の中が怪しい。街中はもちろん、あたしたちが乗ってきた列車から見えるところに湖なんてなかった。
その時、外から轟音が聞こえた。あたしとウェンディは小さく悲鳴を上げて縮こまる。他のみんなは弾かれたように窓に駆け寄った。
「ここからじゃ見えねえ!」
「外に出るぞ!」
グレイとエルザが叫ぶようにそう言いながら部屋を飛び出していき、雷神衆もそれに続いた。あたしとウェンディもシャルルに急かされるまま、宿の外に出る。道行く街の人たちは怯えた様子で空を見上げていた。
あたしも同じように空を仰ぐ。晴天だったはずの空には分厚い雲が立ち込め、今にも雨が降り出しそうだった。でも、それだけしかない。さっきの轟音の正体も、人々が怯える理由もわからなかった。
その時、空から雷が落ちる。街の近くに落ちたそれは物凄い音を立てた。
「ラクサスだ!」
フリードが叫び、駆け出す。あたしたちも同じ方向に走り出すと今度は空に向かって炎が立ち上るのが見えた。
「ナツさん!」
「まさか戦ってるの?」
「私、先に行きます!」
ウェンディはシャルルに抱えられ、雷と炎が見えた方向に一足先に飛んで行った。
「我々も急ごう!」
エルザは走るスピードを速め、あたしも必死について行く。あたしたちが走る間にもゴロゴロと雷の音が鳴り響いていた。