海兵になったガープの孫娘の話

※モブ視点あり ※エース救済



 豪傑のなまえ。海軍の大佐。自身の身の丈の倍以上の大剣や斧を振り回し敵をなぎ倒していく姿からついた二つ名が豪傑。けれどその二つ名からは想像できないほど朗らかな人物。
 任務では民間人の安全を優先し、どれほど下っ端であろうと傷ついた海兵を見捨てることはない。大将赤犬からはそこが甘いと叱責されていることもあるが、海軍の中で評価はそこそこ高く、密かにファンクラブもある。

「おじいちゃん!おかえりなさい!おせんべい買っておいたよ!後でお茶しようね!」
「おお、なまえ!元気そうじゃな!後でわしの部屋に来い!」

 任務帰りのガープさんを出迎えたなまえさんが満面の笑みを浮かべる。そう、何を隠そうこの人は英雄ガープの孫だった。外見は似ていない。けれど豪快に戦う様は血筋なのかと海軍ではもっぱら噂されていた。

「海賊船を2隻沈めたそうじゃな!」
「うん!軍艦も1隻やっちゃった!」
「ぶわっはっはっはっ!わしの孫は元気じゃろう!」

 いや笑い事じゃないだろという空気が流れていたが自分を含め、周囲にいる海兵たちに口を挟める者はいない。ガープさんに同意を求められた海兵も苦笑して誤魔化すのに精一杯そうだった。

「でもちゃんと海兵のみんなは救助したし、ケガ人は少しいたけど……死んだ人はいなかったよ!」

 なまえさんはファンクラブ会員から評価の高い朗らかな笑顔でそう言った。そのあとには「そもそも離れてって言ったのに海賊船の近くにいるんだもん」と文句が続いたが、これもガープさんに笑い飛ばされる。こういう祖父譲りなのかかはわからないが、大雑把なところが危険視されていて大佐より上にいけないというのが海兵たちの中での定説だ。
 爺孫そろってこのひとたちは……と呆れが顔に出そうになり、慌てて表情を引き締めた。

「わしはこれからセンゴクからの説教じゃわい。そうじゃなまえも来るか?」
「行く!せっかくだからこれからみんなでお茶しよ!」

 説教だって言われてんだろ……と並んで歩きだした2人の背中に向かって心の中でツッコミをいれる。
 そこで急に振り返ったなまえさんに心臓が跳ねた。まさか心の声が漏れていたのかと体が強張るも、なまえさんは笑って海兵たちに大きく手を振る。

「みんなもお疲れ様〜!おじいちゃんのことありがと〜!」

 ……これだから嫌いになれないんだよなとガープさんとなまえさんが去ったあと自分含め海兵たちは笑いあった。


・・・


「おじいちゃぁああああああああああん!」

 なまえさんが戦場で叫ぶ。戦場だというのにどこからでも聞こえそうなその大声に海兵も、海賊も何事かとなまえさんを注視した。

「わたしぃいいいいいいいい!海軍やめまぁああああああああす!!」

 衝撃の宣言になまえさんの部下だけでなく海軍全体がどよめく。まさか戦争のさなかに?裏切るのか?と混乱は止められなかった。
 なまえさんは大剣を振り上げ、火拳のエースと麦わらのルフィを追う大将赤犬に向かっていく。大将は額に青筋を浮かべ、なまえさんを迎え撃った。

「こんの……裏切りもんがぁあ!!」

 赤犬のマグマによって大剣はいとも簡単に溶かされていく。けれどなまえさんは一歩も引かなかった。このままでは赤犬に殺される。思わず足が動き、何ができるわけでもないのに駆け出した。

「私の……」
「ここで全員処刑しちゃる!」
「私の拳は!おじいちゃん譲りなんだから!!」

 なまえさんは右手を握りしめ大きく振りかぶった。赤犬に素手で立ち向かうなんて無茶すぎる。背中に庇われている火拳と麦わらも必死な様子で名前を叫んでいた。

「拳骨衝突!!」

 なまえさんの拳が赤犬の顔にめり込んだ。ガープさんの威力には程遠いものの、赤犬を退けるほどの力はあったらしい。自分もなまえさんの攻撃による衝撃の余波で後ろに転がる。
 なまえさんは赤犬が後ろに吹っ飛んだ隙をついて火拳と麦わらを急き立て共に戦場の喧騒の中に消えていった。もちろんすぐに立ち上がった赤犬が追いかけていったものの、その後のことを自分は知らない。


・・・


「おじいちゃんのこと、ひとりにしちゃった」

 地面に座り込み、海を見つめたまま、なまえは静かにそう言った。包帯を巻かれた右手を左手でさすりながら潮風に吹かれているなまえからはいつもの明るい笑顔は消えている。エースはそんななまえの隣に腰を下ろした。

「エースもルフィも海賊になるっていうから……私だけは海軍になろうって」
「ああ」
「おじいちゃんが一人にならないようにって」
「ああ」
「でも、結局ひとりにしちゃった」

 それきりなまえは黙り込む。泣いているかと横顔を確認しても涙は出ていない。ただずっと光のない目で海に沈んでいく太陽を見ている。

「後悔してるか?オレを助けたこと」

 エースは自嘲気味にそう言った。ルフィが聞いたら怒り出しそうだが、今は自分のことを医者だと言った海賊の潜水艦で治療を受けている。白ひげの仲間も今は親父の墓を囲んでいるはずだ。だからエースはここに怒る奴はいないと思っていたし、なまえは後悔しているだろうと思っていた。

「ぐえっ!」

 唐突に横から拳が飛んできた。すぐになまえに殴られたのだと理解する。

「何すんだ、よ……」

 怒鳴りつけようと声を出したものの、ポロポロと涙を流すなまえの表情にエースの声は尻すぼみになった。

「後悔なんかしてない!エースが死んだほうが後悔してた!」
「お、おう」
「でもおじいちゃんがひとりになっちゃったことは別だし!」

 ついになまえはわんわんと泣き出した。まさかこんなことになるとは思わずエースは慌てる。

「あのじじいはひとりでも並大抵のことじゃ死なねえだろ!それに部下もたくさんいて、そのなんだ、弟子もいるんだろ!?全然ひとりぼっちなんかじゃねえよ!」

 エースが必死に慰めてもなまえは泣き止むどころか、ますます泣き崩れる。どうしたものかとエースはなまえの頭を乱暴に撫でまわした。

「じじいだって生きてんだからまた会えるだろうが!」

 その一言に泣きじゃくっていたなまえの動きが止まる。エースはゆっくりと刺激しないようになまえの頭から手を離した。その直後、勢いよくなまえが顔を上げる。その顔はぐしゃぐしゃで酷いものだった。

「ごめんなさい。エースだって白ひげさんのことで悲しいのに……ごめんなさい」

 エースは苦しくなった胸を誤魔化すように首を振る。

「寂しかっただけなの。おじいちゃんに会えなくなるって思ったら寂しくて」
「お前は昔から寂しがりやで泣き虫だったもんな」
「……エースも寂しがっていいんだよ」

 何を言ってんだとエースは小さく笑った。けれどなまえに優しく背を撫でられると不思議と涙があふれてくる。

「オレにはまだ白ひげの家族がいて」
「うん」
「ルフィやお前がいて」
「うん」
「親父の意志はオレたちが受け取って」

 そこでエースの目から涙が零れた。ポタポタと地面に落ちていくそれを見ながらエースは唇を震わせる。

「……ねえ、私が海賊になったらおじいちゃんは怒るかな」
「そりゃそうだろ。今だって怒ってんじゃねえか」
「だよねえ。でもおじいちゃんが捕まえに来てくれるなら嬉しいかも」
「それはお前だけだ」

 エースはなまえと小さく笑いあう。いつの間にか涙は止まっていた。

「オレと一緒に来るか?」
「ううん、私乗るならルフィの船にする」
「なんでだよ」

 なまえは涙で赤くなった目を細めていつものように明るく笑った。


・・・


 麦わらの一味が戻ってきたという知らせは瞬く間に海軍全体に伝わった。新しく発行された手配書にはあの"豪傑のなまえ"の顔もある。恐る恐るガープさんの反応をうかがうと両目に涙をためながら豪快に笑っていた。

「バカ者がひとり増えおったわい!」

 手配書のなまえさんはあのファンクラブ会員から評価の高かった朗らかな笑顔を浮かべていた。