広間では初期刀の蜂須賀と初鍛刀の愛染が逐一報告にくる刀剣たちの取りまとめを行っていた。審神者は隙を見て手元のバインダーにペンを走らせている蜂須賀に声をかける。蜂須賀は審神者を確認するとすぐさまバインダーを手渡した。広間には指示を飛ばす愛染の声が響いている。燭台切は思ったよりも大事になっていることに少しだけ体を縮こまらせた。
「本丸内のほとんどは確認済みだよ」
「うんうん、さすが蜂須賀。ありがとう」
「仲間のことだからね」
蜂須賀に微笑まれ燭台切はまた涙を溢すまいと唇を噛んだ。
「あとは鍛刀部屋と……」
「見つかったのか!?」
愛染のよく通る声に燭台切たちは一斉にそちらを見た。報告しに来たのだろう青江と愛染は瞬時に審神者と燭台切に元へ駆け寄るが、その顔はどこか困惑しているように見える。
「主、大倶利伽羅は刀解部屋にいたよ」
「え!?」
青江の報告に思わず燭台切は声を上げた。どうしてそんな場所にいたのだろうか。何とはなしに鶴丸を見たが、鶴丸も困ったように首を振るだけだった。
「部屋の前で石切丸が様子を見てる」
「俺がいなきゃ刀解は出来ないから大丈夫だとは思うが……とにかく行くか、燭台切」
「うん、行くよ」
迷うことなく燭台切は頷く。すぐに審神者の提案で蜂須賀は広間に残り、長谷部と愛染でまだ捜索をしている刀剣たちを集めることになった。審神者、燭台切、鶴丸は駆け足で刀解部屋に向かう。
部屋の前では石切丸が開かれた扉から中をうかがっていた。駆けつけた燭台切たちは無意識に息を潜めながら石切丸に手招きされるまま、同じように部屋の中を覗く。そこには扉に背を向けるようにして立つ大倶利伽羅の姿があった。ばたばたと本丸を駆け回ったことに加えて、興奮と緊張から燭台切の息が少しだけ上がる。
「何をしているんだ?」
「それがわからないんだ。私がここに来たときからずっと部屋の中で佇むだけで何かをする様子もない」
こそこそと背後で会話する鶴丸と石切丸の声を聞きながらも燭台切は大倶利伽羅の背中から目を離さなかった。そこに大倶利伽羅がいる。しっかりと目にその姿を捉えているのにどこか実感がわかず、緊張で強ばる体とは裏腹に心はぼんやりと落ち着き始めていた。
不意に大倶利伽羅が何かに気がついたようにぴくりと体を動かした。そしてゆっくりと燭台切たちを振り返る。ごくりと誰かが喉を鳴らす音がやけに響いた。
「燭台切」
「光坊」
小声で名前を呼ばれながら燭台切は審神者と鶴丸に背を押され、大倶利伽羅の前へよたよたと歩み出た。大倶利伽羅は何も言わずじっと燭台切を見つめている。
「あ、えっと……」
最初は「おはよう」と声をかけると決めていたはずがその一言がどこかにつっかえて出てこない。それどころか胸に何かが込み上げてきてまともな言葉すら燭台切は話せなくなっていた。
何か言わなければ。「おはよう」「待ってたんだよ」「お寝坊さんだね」「どうしてここに?」「お腹は空いてないかい?」「君に見せたいものがたくさんあるんだ」頭の中にたくさんの言葉が浮かぶもののどれも口から発せられることはない。燭台切はぱくぱくと声のでない口を動かしながらぐっと拳を握りしめた。
「光忠」
大倶利伽羅の声が聞こえた。
「……倶利ちゃん!」
燭台切は衝動に駆られ、両腕で大倶利伽羅を抱き締めた。大倶利伽羅から感じる温もりに目から涙が溢れる。
「僕、君が起きるのを待ってたんだよ」
「光忠」
再び大倶利伽羅は燭台切の名を呼んだ。うめき声が漏れそうになるほど心臓が強く鷲掴みされる感覚に、呼吸が苦しくなりながら燭台切は笑った。そんな燭台切の胸の辺りに大倶利伽羅は両手を当て、
「倶利ちゃん?」
自らの体から燭台切を引き剥がすように押し返した。大倶利伽羅から拒まれたことに頭が真っ白になる。燭台切は唖然としたまま瞬きを繰り返した。
「私を刀解しろ」
大倶利伽羅の視線は燭台切をこえ、本体を持つ審神者へと向けられている。燭台切はただ喘ぐように呼吸をするのが精一杯だった。