恋とはどんなものなのか

 空とパイモンは旅に慣れていて、私が1人でモンドを目指していた時とは大違いだった。野営地を探すのも、火をおこすのも、限られたもので食事をするのもテキパキとこなす空を私はただ見ていた。何か手伝おうと手を出す方が邪魔になりそうだったからだ。

「お前、稲妻からモンドまで1人だったんだろ?その時はどうしたんだ?」
「今より幼かった……とはいえ、たった3年ほど前なのですが」
「3年ってけっこう前じゃないか?」
「死に物狂いでモンドにたどり着いたことしか覚えていないんですよね。月が明るい夜に疲労と空腹で倒れたことは覚えているんですが」
「ええ!?」

 パイモンは驚きの声を上げる。それを聞きつけた空が怪訝そうにしながら食事にしようと私たちを呼んだ。

「続きは食べながら話そうぜ!」
「俺にも聞かせてよ」

 空とパイモンに促され、2人と同じように焚火を囲うように座る。すぐに空から出来立ての料理が手渡させる。おいしそうだけれど、モンドでは見慣れないそれに私が首を傾げるとすぐに空が「璃月の料理だよ」と教えてくれた。

「チ虎魚焼きだぞ!璃月じゃ屋台でも売られてて、いろんなところで食べられるんだ。でも旅人が作ったやつもおいしくてオイラは好きだぞ」

 ニコニコと笑いながらパイモンも料理について教えてくれる。そして私が何か返事をする前にチ虎魚焼きへかぶりついた。これがゲームでの見ていたあの料理なのかと感動を覚えながら、私もパイモンの真似をして大きく口を開けてかぶりついてみる。思わず感嘆の声が漏れるほどおいしい。

「それでさっきは何を話していたの?」
「あっ、おいしすぎて忘れてたぞ……綾那がモンドに来た時の話を聞いてたんだ」

 食べることに夢中になっていた私はおかわりを空から受け取りながら、そうだったねと続きを話し始める。
 家から持ち出したお金はコツコツとお小遣いを貯めたもので、それなりの額だったものの船に乗るときにほとんど使ってしまった。食料もある程度は持って行ったけれど、璃月港についてからモンドまでの道のりで必要なものを買い足す際に残りのお金を使い果たしてしまった。
 それからは璃月からひたすらモンドに向けて歩き続けた。道中、ヒルチャールや宝盗団に襲われることもあった。それは神里家で刀の扱い方を学んだことや、真正面から挑まず隙を見て逃げることでどうにか対処していた。川で体を洗ったり、魚を釣ったり、木からリンゴを取ってどうにか野宿生活を続け、モンドにたどり着いた。

「お前……生きててよかったな……」
「たどり着いたときはもう疲労困憊で、しかも道に迷って気づいたらアカツキワイナリーにいました」
「ええ!?」

 アカツキワイナリーで力尽き、地面にうずくまる様に倒れた私はディルックさんに保護され、アデリンさんにお風呂に入れてもらい、他にもいろいろと面倒を見てもらった。稲妻に帰りたくないと泣く私をディルックさんは騎士団に連れていき、生活の相談をしてくれた。
 それから私は騎士団には入らなかったものの、その時はまだモンドにいたファルカ団長の計らいでモンドに住めることになった。もちろん、家賃や生活費は必要だったので冒険者組合に入って毎日依頼をこなして生活していた。

「それでやっと旅行に行くお金が貯まったってことか」
「旅行というか、引っ越しというか」
「え?」

 パイモンと空の声が重なる。驚いた顔もどことなく似ていて私は笑ってしまった。

「私、フォンテーヌに行きたいんですよ」
「完全に引っ越すつもりなのか?」
「モンドのみんなに挨拶もなく?」

 パイモンも空もどこか不安そうだ。確かにモンドの友人たち、特にお世話になったディルックさんやジンさんにもちょっと出かけてきます程度のことしか伝えていない。家だってまだモンドにある。

「まだ完全に引っ越すと決めたわけじゃないんですよ。今回は下見みたいな」
「でも引っ越すつもりはあるんだろ?モンドが嫌になったのか?」
「まさか!私はモンドが好きですよ」
「じゃあ、なんで……」
「パイモン」

 まだまだ私に質問したりない様子のパイモンを空が止める。パイモンもはっとして、口を閉じた。
 本当にまだ引っ越すことを決めたわけじゃない。会いたい人もいるし、できればそこで暮らせたらいいとは思う。けど、会えたからと言って他のことがすべてうまくいくかはわからない。だから今回は本当に下見だ。でも、もしも、フリーナとフォンテーヌで暮らせたらどれだけ幸せだろう。

「もし、引っ越すことになったらちゃんと挨拶しますよ。お世話になった人ばかりですから」
「そうか……いっぱい質問して悪かったぞ。綾那なりの考えがあるんだもんな」
「いいえ、大丈夫ですよ。私の生活のこと気にしてくださったんですよね」

 私とパイモンは笑いあい、食事を再開した。空が作る料理は本当においしかった。
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