紙屑の恋慕。旧友の独占欲。

空から降り注ぐ灰色の日差しが容赦なく彼の体を差し貫く。少年はこの暑い日差しから逃げるように、常時被っている帽子を目深に被った。

黒髪の少年はベンチに座りながらグルリ、と周りを見回すが目的の人物の影すら見当たらず溜息を吐く。
遅れると先程連絡が来たがどれ程遅れるのかは記載されておらず、そのため彼女が来るまで彼はずっと待ち続けている。

「あ、おい! ⬛︎原!」

そんな彼を呼ぶ聞きなれない声を聞いて少年は我に返り、立ち上がって声がした方向に向かって顔を動かすがその動作はブリキの人形を連想させる程にぎこちなかった。

「えっと、なんですか……?」

彼が持つ人見知りが発動してしまい、同級生だと言うのに敬語で返してしまう。
同級生という同じ立場に対していささか他人のように接してしまっていることは⬛︎原も理解しているのだが、それは昔から現在まで変わらないものであるためこんなことを考えるのは今更すぎるだろう。

だがそれ以上に春原学院では“暴君”として知られている同級生に──というより誰かから話しかけられるということ自体が⬛︎原にとっては珍しいことであったため、そうなってしまうのは仕方のないことなのだが。

本当に暴君として知られているのか、とそんな考えが浮かび上がってしまう程、彼は⬛︎原の言葉を聞いた途端に耳が真っ赤に染まる。

「お前、名字と幼馴染なんだよな。だからその、なんつーか…………」

妙に歯切れの悪い言葉と、今ここにいない名字の名前を出されて少年はほんの僅かに苛立ちを覚えた。
それは彼女がここに来ないことか、はたまた目の前の男が彼女の名前を口に出したことから湧き出る苛立ちなのかは不明だが、彼を見るたびにその焦燥は増していく。

「コレ、名字に渡してくれねえか?」

意を決した男が彼に投げた言葉と一通の封書は、少年にとっては一番踏んではいけない地雷であった。