09:委員長はこんな奴/風紀A


 時は変わって、多少もめつつも事情聴取が無事終了し、生徒会の面々が退室した後のことである。
 事情聴取時、罵倒が飛び交い騒がしいくらい賑やかだったはずの会議室。しばらく経った今では嘘のように鎮まり返っており、まるで葬式会場にいるかのような重苦しい空気をまとっていた。
 そんな会議室内には当たり前のように風紀委員全員が集合し、皆席に着席している。もちろん、転校生を保健室に連れて行ったメンバーも当然のように会議室にやってきていた。

 皆一様に口を固く閉ざし、静かに一人の一声を待ちわびる。
 誰もが見つめる視線の先には俯く男の姿がある。その強く握りしめた拳は怒りに震え、歯を噛み締める音が聞こえた気がした。


「――っ、畜生ッッ!!」

 必死に耐えていたのだろう。それでも耐えきらなかったのだろう。決壊し、怒涛のごとく溢れた思い。叩きつけられた拳の鈍い音が、静かな会議室に反響した。

「いつもだ! いつもこうなっちまう! どうしていつもあんな高圧的な態度しか取れねぇんだ俺は――!!」

 畜生、ちくしょう。
 そう何度もテーブルに拳を叩き込む姿は相変わらず微妙というか、無様だった。
 先ほどまで椅子にふんぞり返って座り、散々生徒会長と罵り合ってたくせに何を今更と思うだろうが、これが彼なのだからしょうがない。
 生徒会長と一、二を争うほどの人気を誇る、我らが風紀委員会のリーダーこと風紀委員長。
 ドエスで高圧的で俺様で、常に偉ぶってる普段からは想像もつかない程、ひっじょーに情けない姿。
 そんなあまりにも残念すぎる姿をこれでもかと見せつける委員長に向けられた目は、哀れみでも呆れでも気不味さでもなく、まるで息子を見つめる親とか孫を見る老人のような、そんな暖かさを多分に含んでいるのだった。


「まあまあ、待ってくださいよ委員長。嘆くにはまだ早いと思いますよ!」
「そうですって! 前より断然良くなってたと思います!」

 約一名の頭上を除き、穏やかな空気を取り戻した会議室。いつものように委員長を励まそうとした俺達は、皆一様に首を縦にふって肯定した。
 一方、ピクリと体を震わせ、やっと俯いていた顔をゆっくりと前に向ける委員長だったが、その眉間には未だ刻まれたままのシワがあった。信じきってないっていうか、疑っているんだろう。
 でも大丈夫。問題はない。

「だって以前より半歩分位近づけてたじゃないですか!」
「それにいつもより一秒も長く目線合わせてられたんですよ!」
「なあみんな、すごい進歩だと思うよな?」
「「「うんうん」」」

 もう一、二押しということで、具体的に以前との差を説明すればいいだけの、簡単なお仕事。ちなみに笑顔で嬉しそうに話すのがポイントである。
 そうすれば訝しげに眉をひそめていた委員長だってイチコロ。ほら実際、周りにぐるりと目を向け全員の表情を確認したのち、ふんぞり返ってフンと鼻を鳴らし始めただろう? 相変わらずチョロいチョロい。
 手慣れた連携技のおかげでやっといつもの姿になった委員長は偉そうにしつつも、褒められたせいかどこか嬉しそうだった。
 きっと訓練された委員には、ないはずの犬尻尾が嬉しそうに揺れているのが見えていることだろう。もちろん俺は見えてる。


 ――ああ、そうそう。

 今更なんだが、この場を借りて訂正しておきたいことがある。
 学園中で風紀委員長と生徒会長は犬猿の仲なんて言われているが、それはまったく……でもないな。半分くらいは間違っていると述べておこう。うん。
 さっきまでの流れで理解しちゃった人もいるだろうが――まあ簡単に言ってしまうと、委員長は会長にホの字なのである。ラブだラブ。しかも一目惚れらしい。
 だから会長が委員長を嫌ってる可能性はまったく否定出来ないというか、むしろ肯定の域なんだが、委員長が会長を嫌ってるということは絶対にないのである。
 出会い頭に罵倒するし、端から見たら片想いしてる奴なんかにはまったく見えないだろうが……そこはほら、好きな子の前じゃ素直になれないというか? 好きな子程いじめたいというか? まあそんな感じだ。
 恋愛に関しては初心者な委員長。
 大好きな会長の前ではテンパってつい罵倒しちゃったり、恥ずかしくて直視できないため眉間にシワを寄せて耐えたりしてるというわけなのだ。
 そして会長と顔を合わす度にやらかしてしまう委員長はこうして毎回嘆くため、俺達風紀委員総出で励ましている。今回もそのためこの場に集まっていたのだ。
 ――ぶっちゃけ、面白半分なんだが。まあそれは内緒で。


 委員長が元気を取り戻した後は、真面目に今後の対策について考える。
 学園一の人気者である会長と、オタクルックな転校生のキス。
 この大事件はきっと明日には高等部中に広まってしまうことだろう。そしてこの事件を切っ掛けに学園中が荒れること確実だ。
 転校生にどんな考えがあって会長にキスしたのかは謎だが、彼の身に起こる悲劇を、風紀を守る者として見逃すわけにはいかなかった。

「オイ、太田。てめぇはたしか転校生と同じクラスだったな?」
「あーはい、そうですけど」
「ならアイツを見張っとけ」

 ほんの少しだけ、顎に手を当て考える素振りを見せた委員長から向けたれたのは、ギロリと突き刺さる視線。その目からは腹の底が煮え繰り返る程の怒りの色が見て取れた。
 それは今後の展開を予見して、面倒ごとを作った転校生に向けられたものなのか。はたまたキスくらいで制裁だなんだと騒ぐだろう親衛隊どもに向けたものだというのだろうか――

「……ちなみに、理由は? 護衛的な?」
「あ? ンなモン、もちろんこれ以上アイツに近付けさせねぇために決まってんだろ。キスとか許さねぇ。――絶対にだ」

「ですよねー」

 悲報。
 ただの嫉妬だった。


 ホント会長関わるとこの人ダメダメすぎる。
 というか副委員長。いい加減傍観して笑ってないで、どうにかしてくれ。




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