生徒会と風紀委員会は不仲。特に生徒会長と風紀委員長は犬猿の仲。
王道学園ものではそう描かれることが多い仲であるが、その理由は単純にそりが合わないからなのだろう。
不良系主人公が特に流行った時、生徒会と風紀委員は敵対するチームとして描かれており、生徒会長と風紀委員長はそれぞれチームの総長であった。その仲の悪さが、それ以外の王道系ものにも影響を与えたのかもしれない。まあ元々仲が悪い設定があったのかもしれないが。その辺はどうでもいいだろう。
とにかく。物語ではそういった扱いを受けているが、流石に仲までも設定通りの展開になるとは思えねえ。そう高をくくっていた時が俺にもあった。
しかし、現実は非情である。
気が付けばまさに犬猿の仲と呼ばれる仲になってしまっていたのだ。
これもすべてあのクソ野郎が原因だろう。
なんせこの俺が自ら歩み寄ってやったというのにも拘らず、野郎は出会い頭から高圧的な態度をとってきやがったのだ。そんなヤツと仲良くなろうという方が無理な話である。むしろ殺意が芽生えたほどだ。
だからこそ、できれば風紀委員長とは顔も合わせたくなかったのだが――立ち位置が悪かったせいもあるのだろうか。一歩踏み出しただけで、野郎に見つかってしまった。
俺を視界に入れたソイツはこれでもかと顔を歪め、俺にもわかるようなトーンで舌打ちし。副委員長を伴い、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくきた。
「オイオイ。本来生徒の見本であるべきてめぇらが元凶とはな。これはどういう訳だ生徒会長さんよぉ?」
大股で約二歩分といったところだろうか。それくらいまで接近し制止したクソ野郎は、嫌味ったらしく口を開く。白い手袋を装着した手には乗馬用の一本鞭が収まっており、癖なのだろうか、それを弄ぶ音が辺りに響いた。
思わず風俗店に帰れと口走りそうになったが、どうにか持ちこたえる。代わりにハッと鼻で笑った。
「現状把握もできてねえ癖によく言うじゃねえか。聞く相手間違ってんだよクソ風紀委員長が」
「あ? 何言ってやがる。こっちはてめぇが騒ぎ起こしたって聞いてんだよ」
「バカ言ってんじゃねえ、耳鼻科でも行ったらどうだ? 俺はなにもしてねえ。むしろ被害者だっつうの」
というか、あの光景を見て俺を加害者だと思うヤツがいるわけねえだろうが。どう見ても被害者だろ。頭沸いてんじゃねえかコイツ?
見当違いなことを吐かすバカ野郎には余計苛々してくるが、ここはしっかりと説明してやろうではないか。なんたって俺はコイツと違って慈悲深いからな。
てなわけで、後ろにいるであろう元凶の転校生を指差し――――固まった。
「は?」
なんとなく背後に違和感を感じ指差しながら振り返ってみれば、何故かビニール袋と友好を深める転校生の姿があった。どういうことだってばよ。
気づけば鼻に付くツーンとした臭いが辺りに漂っており、周囲が微妙な空気に包まれる。
「…………とりあえず、出ねえか?」
「そうだな」
なんともいえない状況に眉を潜めながら提案してみれば、同じことを考えていたらしいソイツが即座に頷く。
潰れた転校生は平風紀委員と転校生のお供に任せ、残りのメンバーで同じフロアにある会議室に向かうことにした。
− − − − −
「結局、食堂の騒ぎは何が原因だったんですか?」
そんなこんなで会議室にて始まった事情聴取。
切り出したのは椅子でふんぞり返っている野郎ではなく、風紀副委員長であった。
ちなみにコイツは一見人畜無害そうな、物腰柔らかそうな見た目をしているが、実際はただのキチガイだから気をつけた方がいい。血を見ることが何よりも好きな、メリケンサックをアクセサリーのように身に付けている畜生だ。
まあ普通にしている分には無害なので、輝くメリケンからは目を逸らし説明をしてやろうと口を開く。
「それはだ「それは旭が……!! 旭が僕の会長にききききキスしたからですっ!!」
――と、言うわけだ」
「ハァ?」
何故か怒りに震え身を乗り出した副会長に遮られてしまったが、言ってることに間違いはないのでそのまま放置する。僕の会長とか聞こえた気もするが、きっとなにかの間違いだろう。ていうかキスぐらいちゃんと言え。
そして力の篭った副会長の説明にクソ野郎はこれでもかと眉を潜めた。
「オイてめぇ……随分ふざけたこと吐かすじゃねえか」
やけに低いトーンで紡がれた言葉。まあそう言いたくなる気持ちは正直わからんでもなかった。
なんせキス程度であそこまで大騒ぎになったのだ。当事者としては抹消したい記憶ではあるが、客観的に見たらふざけんなと思うはずだろう。
委員長は顔を歪めた表情のまま副会長を睨み付ける。
固く閉ざされていた口をゆっくりと開き、ヤツはこう言った。
「いつから――いつからコイツがてめぇのモンになったって?」
と。
「オイコラちょっと待てや」
そこじゃねえだろ、そこじゃ。