01


 ――嫌な予感は確かにしていた。
 寮から校舎へ向かう途中、何度もかけられたその祝いの言葉や賛美たちに「そんな馬鹿な話があるわけ」と内心笑ってはいたんだが、それでも心のどこかで、ぬぐってもぬぐいきれない予感めいたものをたしかに感じてはいた。いたんだが――
 掲示板に張り出された紙。
 そこにでかでかと書かれた「前橋 和也(まえばし かずや)」という文字を見た瞬間、俺の意識が遥か彼方へと羽ばたいていくような、そんな感覚に陥った。

− − − − −


 俺がこの学園に初めて足を踏み入れたのは高等部1年の春のことだ。
 本来ならば初等部の頃からここにいたはずだったんだが、そこは頑なに拒否し続けた俺の努力の結果であろう。まあもしも入学先が他の学園だったならば、俺だって大人しく中等部くらいには入学を決めていただろうが……。
 ならどうして俺が入学を拒み続けたのか。
 それは男子しかいないムッサイ環境な上、全寮制とかいうふざけた制度のある学園にくそくらえと思ったからである。
 しかもホモがうじゃうじゃいるとの噂が流れてるような場所なんだぞ?
 そんな危険地帯にいくらステータスアップになるとはいえ、大切な息子を放りこもうとする両親の考えが俺には理解できない。
 できることなら一生関わりたくない学園だったんだが、しかしそんなこと俺には許されず、結局、高等部入りが決まってしまったわけである。

 そして入学を1カ月後に控えたある日のことだった。
 俺のもとに天使のような笑みを浮かべた妹が爆弾抱えて現れやがったのは。

 「お兄ちゃんもそろそろ学園の勉強しないとね」と語尾にハートをつけながら、ライトノベルやら同人誌やらが詰まりに詰まった段ボールを突きつけられた時は正直目がくらんだ。
 その時の心境といえば、可愛がっていた妹がなぜ腐女子にという嘆きよりも、妹に語られた「王道ストーリー」に対する絶望の方がはるかに勝っており、「お兄ちゃんなら王道主人公にも会長にもなれると思うの!」ときらきらした顔で言われた時は素で泣きそうになったのを今でもよく覚えている。
 まああくまで作り話だろとか流しつつ、王道主人公にならないよう、ちゃっかり気をつけながら学園生活を送った1年の時が懐かしい。
 だが主人公を回避したところで俺には次が待っている。

 ――そう、生徒会長の座だ。

− − − − −


 俺は今、重い腰を上げ顔合わせのために生徒会室へと向かっている。
 別に朝倒れたことを理由に欠席してもよかったんだが、そんなことをしたところで役職が変わることはないだろうという結論に至ったからだった。
 コンコンとドアを叩けば「どうぞ」という声が掛る。
 どうやら俺がラストだったらしく、中に入れば生徒3人と教師1人がいた。

「………」
「なにぼうっとしてんだコラ。さっさとこっちこい。始めらんねーだろ」

 眉間にしわを寄せたホスト面した教師に急かされるも、俺がその場から動くことはない。

「ちょっとあなた聞いてるんですか?」

 と、同じくしわを寄せた金髪王子。

「おーい、ねー大丈夫なのー? そういえばオレ今朝倒れたって聞いたんだよねー」

 と、いかにも軽そうなチャラ男。

「……体調……悪い?」

 と、眠そうな顔をしたどこか犬っぽい奴。

 その顔触れを見て朝と同じく絶望を感じた俺には

「――なんだこの最凶すぎる布陣は……」

と、そう呟くことしかできなかったのである。



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