14:誤解にもほどがある


 昇は会長の親衛隊員である。
 いくら本人が恋愛感情はないと言っていても、尊敬してるだけと言い張っていてもだ。それでも親衛隊入りするくらい会長に特別な感情を抱いてるのは確かで、俺みたいな一般人が会長と仲良くしてるのを昇が嫌う可能性は多少なりともあった。
 もちろん昇のことだし、そんなことで俺と友達やめるとか、縁を切るだとか、そんなことは言わないことぐらいわかってる。
 けれど、もしもの場合を考えてしまうというかなんというか……ほんの僅かな可能性を完全には捨て切れなくて、会長と仲良くなったことはできる限り隠そうと心に決めていたんだ。

 まあ、とは言っても、いつまでも隠し通せるとは流石に思ってはなかったし、いずれは話さなきゃならないだろうとも思ってた。
 たしかに――思ってはいたんだけど。思ってはいたんだけどな。

 いくはなんでも、こんな早い段階でバレるなんて予想外にも程があるだろっていうね! アホか俺!



「……どういう経緯でこうなったわけ?」

 そんなわけで。会長とふざけ合っているところを昇に目撃された俺は今、リビングに会長を残し、自室にてひたすら正座中である。
 目の前にはもちろん不機嫌丸出しの昇さま。腕を組み仁王立ちする姿は地味に威圧感があって怖かった。……ちっこいのに。

 で。なんでこんな状況を作ったのかであるが、そこはまあ自業自得というやつでした。
 実は俺、学校でのお昼以外にも通い妻よろしく朝晩昇に作ってもらってたりする。
 ちなみに理由は昇が料理の練習になるから、お互い食費が浮くから、食堂がうるさいから、俺にたまたま同室者がいないしちょうどいいからと色々ある。作ってもらう方だし、食費はほぼ俺持ちなんですがね。それでも食堂で買うより安く済むから不思議っていう。
 とにかく。
 そんなこんなで、基本的に連絡しない限り昇が作りに来てくれることになっていて、今日はその連絡入れるのを失念してしまったってわけだ。
 ゲームに夢中で完全にド忘れしてたとか俺ってホント馬鹿すぎやしないですかね。


「いや、それはその――カクカクシカジカというやつでして」
「ふざけないでよ!」

 説明しようにも真面目な雰囲気に耐えかね、場の空気を和ませようと冗談を口にしてみたが、やはり逆効果だったらしい。
 声を荒げた昇はその後大きく息を吐き出すと、呆れたように「まったく」と言葉を繋げた。

「どうして僕に話てくれなかったの?」
「俺だって話そうとは思ったんだけどさ。親衛隊員の昇には話辛かったというか……」
「なあにいってんの。僕は親衛隊員以前に彼方の友達だよ? それに会長のことは尊敬してるだけだっていつも言ってるじゃんか」
「それはわかってるんだけど、やっぱりな」
「もうっ、彼方は馬鹿なんだから。僕は彼方が会長のこと好きだったなんて言っても軽蔑なんてしないんだからね!」

 ――うん? 今なんか……あれ?

「むしろ僕は応援するもん!」
「応援って……あの、昇さん? えっと今なんて仰ったのでしょうか……?」

 きっと、たぶん。いや、絶対気のせいだと思うんだけど、今さっき聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするんですが?

「だーかーらっ! 僕は彼方に会長のこと好きだって言われても軽蔑しないし、むしろ応援すりよって言ってるの!」
「いや待て待て待て待てお願いだから待って!?」
「待ってって何を?」
「色々と!! だっておかしい! 発想がおかしいんだよ昇は! 何故そうも話を恋愛に持ってこうとするの!?」
「ええ? だって会長のこと好きになったから僕に隠してたんじゃないの?」

「違うわぁッ!!!」

 今度は俺が声を荒げる番だった。
 仁王立スタイルのまま、こてんと可愛らしく首を傾げる昇に全力で反論すれば、納得がいかないのか眉をひそめられる。

「ウソ。絶対ウソだもん」
「嘘なわけあるか! 俺は本当になんとも思ってないからな!? たしかに会長と多少は仲良くはなったけど、それはあくまでも友達みたいなもんだから!」
「ふうん……?」
「昇が妙なこと言うから鳥肌まで立ったし。ほらコレ証拠。俺がノンケであるまごう事なき証拠ですよ!」

 学園色に染まることなくノンケでずっと通してきたこの俺が、美形とはいえ会長なんかに惚れるとかあり得なさすぎる。
 たとえ万が一に男に走ることがあったとしても、もっと女の子みたいなタイプに走るだろう。会長とか絶対ナイナイ。
 であるからして。
 ちょっと想像しただけでもゾワついてしまった肌をこれ見よがしに昇に押し付け、いかにあり得ない話かを力説してみるも、

「うーん、でもなあ」

と、何故かは知らんがまったく納得してくれず、むうむうと一人唸っていた昇である。
 それでも途中で考えるのを放棄したようで、「まあいっか」と、かわりに大きく息を吐き出したのだった。

「しょうがないから、そういうことにしといてあげるよ」
「なにもしょうがなくはないんだが、そういうことだと認識してください」
「ああ、でもやっぱりねえ……むう……」
「むうじゃない! ほらほら、いつまでも会長待たせるわけにもいかないだろ? なあ戻ろうぜ!」

 再度不満そうな顔をする昇に不満全開の俺だったが、とりあえずこのくだらない話を終わらせようとリビングへと急かす。
 そして急かすことばかり考えていたため、やけに重いドアノブに気にも留めず無理矢理引っ張れば、「うおっ」という短い悲鳴と共にごつんと鈍い音が響いた。



「ああ――その。会長……大丈夫ですか?」

 もちろん、ご想像通り眼下に広がるは、うつ伏せに倒れる我らが会長様のお姿である。
 冷静になった頭で考えてみると、時折ドアから聞こえてきた物音から、なんとなく予想できた展開だったのかもしれない。
 テンプレすぎるというか、非常に切ない場面を再び目撃することになってしまった俺は、あまりの申し訳なさに乾いた笑い声しか出すことができないのであった。
 



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