04:食堂にてアクシデント


 噂の転校生がついに学園にやってきた。
 どんな人物なのか気になった俺たちは夕食を部屋で取るのをやめ、食堂へとやってきている。
 相変わらず無駄に広々とした室内はいつも以上ににぎやかで、時々聞こえる話題が転校生のことばかりということから、もしかした俺たちと同じことを考えている人間が結構いるのかもしれない。
 まあ正直、転校生が食堂に来るかどうかなんて俺たちにはわからないから、無駄足になる可能性だってあるんだけど。
 でもたとえ転校生が来なくても、食堂の料理は一流シェフが作ってるからおいしいし、損することはまずないはずだろう。

 ――なーんて思っていたのは最初だけで、実はものすごく後悔している自分がいたりする。


「「「いやあああああ!!」」」

 たしかに転校生は食堂に現れた。
 けれどこの転校生、いろんな意味で規格外な存在だったようで、ちょっと動くたびに周りの生徒の神経を逆撫でするもんだから、悲鳴やら罵倒やらが食堂内を常に反響するなんてことになっていた。
 もうそれがうるさいのなんのって。食欲が半減しそうな勢いだった。
 俺でさえそうだってのに、その元凶である転校生――高橋康太(たかはしこうた)は食堂の中心でのんきに談笑しているつわものであった。ちなみに名前を知ってるのは先程本人が大きな声で宣言してくれたからである。
 でもってその高橋少年、とんでもないセンスをお持ちのようで、見るからに重そうな黒髪と顔のサイズにまったく合ってない分厚く大きな黒縁眼鏡を装着しており、今時好き好んでそんな格好にするか?というような姿に身をやつしていた。
 まあでもそれだけなら関わらなきゃいいだけだし、たしかにひそひそ話は飛び交うだろうが、こんな堂々と罵倒やらなんやらが飛び交うなんてことにはなかっただろう。
 ならば何故そんなことになったのか。
 その原因は転校生の周辺を見ればよくわかる。

 席に座る転校生を取り囲むように立つ1年の人気者達と生徒会。
 みな眩しいほどに美形である。
 しかも転校生に対する態度が異様だった。
 一般生徒は媚び売る人間と勝手に決めつけてるらしく、ひたすら嫌悪していたはずの副会長は転校生にとろけそうな笑みなんか浮かべちゃってるし。
 誰にも懐かない一匹狼として前々から有名だったはずの1年の不良くんなんか、そんな副会長から転校生を奪おうと必死になっている。
 他の彼らも似たり寄ったり。
 まあ会長は少し違うようだけど、イケメンホイホイスキルを持った転校生に興味深々のようで、面白そうに転校生と周りのやり取りを眺めていた。

 一方俺はというと食事が終らない昇を待っている間、周りにならってそんな転校生と愉快な仲間たちをひたすら観察していたわけだけど、会長が動きを見せた瞬間「あ」という声を上げた。

「会長が転校生に近付いた」
「え、ウソほんとに!?」

 もしも会長に何かあったら教えてという昇の要望に応え、ニヤつきながら転校生に近付いたことを知らせると叫ぶように声を上げる。

「え、どうして!? え、なんで!?」
「んーなんか話しかけてるだけっぽいけど――あ、今度は転校生がキレて立ち上がったぞ」
「ちょ、どんな状況なのソレ!? ああああ、僕も見たいけどやっぱこの位置じゃよく見えないーッ!!」

 ガッタガッタ揺れるテーブルの音に昇が必死こいて彼らを見ようとしているのがわかるが、でも食事中話しても立つなという親の言いつけ的なのを律義に守っている小柄な昇にはどう足掻いても不可能に違いない。
 まあ一部くらいは見えるかもしれないが、同じく小柄な転校生はどうやっても見えないだろう。ここから結構距離あるし、人めちゃくちゃいるし。
 だから代わりに立っている俺が実況してやってるわけだけど――。

「おお、会長の胸倉掴んだぞ………あ、」

「「「いやあああああああ!!!!」」」

「え、なに!? なにが起こったのねえ!?」

 勢いよく会長の胸倉を掴んだせいで、会長の体勢にブレが生じた。
 というか、前方方向に倒れた。
 まあ、だからなにが起こったかというと……アレだ。

 まさかのアクシデントに今日一番の悲鳴が食堂中を埋めつくし、これでもかと耳をつんざく。
 なにが起きたのかわけわからないと周りをキョロキョロする昇に、俺はゆっくりとこう告げてやった。 


「会長と転校生が……キス、した」


「えええ!?」

 いくら恋愛感情がないとはいえ、昇が目を見開くのも無理はない。なにせ相手が相手だ。昇は俺が撮った写真で一度転校生を見てるわけだしな。

 最早流石というかなんというか。
 うれし恥ずかしハプニングまでも起こしてしまうなんて……転校生は本当になにかの物語の主人公なのかもしれない。



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