「苗字名前さんですか?」
そう尋ねる声に後ろを振り向けば、そこには一人の青年がいた。浅井ケイだ。
「……はい」
「僕は相馬薫の親友だと一度、相馬菫本人から聞いたことがあります。それは事実ですか」
「事実です」
「あなたは相馬菫といつ頃知り合ったのですか」
「2014年の、8月31日に」
当然、彼は困惑した表情を浮かべる。
「それは彼女が死んだ前日、ということになりますが。それで合っていますか?」
「はい。合っています」
「その日以前に相馬薫と面識は?」
「まったくない……というと嘘になります。直接面と向かって言葉を交わしたことは一度もありませんが、お互いにお互いが不協和を起こす存在であることをうっすらと認識していました」
「それは、能力が原因で?」
「はい」
「差し支えなければ、あなたの持っている能力についてお伺いしても?」
「……私の能力は【前世保持】です。自身の前世について記憶が可能です。そのことを他人に教えることや伝えることはできません。誰かに伝えようと思ったその瞬間、一時的に前世にまつわる記憶が薄れます。以前、書記の方に能力をコピーしてもらえるか試したこともありましたが、今のところ効果はありませんでした」
「……なるほど。ちなみに、それはあなたと相馬が親友であることに関係しますか?」
「はい。大いに関係すると思います」
「そうですか。答えてくださりありがとうございます。ちなみに、相馬薫本人の口から浅井ケイと美空という名前を聞いたことはありますか」
「……はい。どちらもあります。あなたはそれより以前から僕たちのことは知っていましたか」
「……認識は、していました」
(質問の意図が掴めない)
「あなたは学年が同じにも関わらず、一度も顔を合わせたことがない。普段から僕たちを避けていましたか」
「そういうことも、場合によってはあると思います」
「なるほど。聞いていた通りだ。あなたは随分と嘘をつくのが下手らしい」
「……なにが言いたいのですか?」
フッと彼が意味深に笑った。
(なんだろう。)
「話の逸らし方が露骨ですよ」
「は?」
「相馬薫の親友、というにはどうにも善良すぎる反応をしますね」
それは、相馬菫に失礼なのではないか。そんな考えが脳裏を過ったが、今話を遮ってまで尋ねるべきなのはきっとそこではない。
「……相馬薫から、なにか聞いた?」
「なにか?なにかってなんでしょう」
「私についての、なにか」
「ええ。聞きました。三回目の8月27日に、少しだけ」
(なるほど、リセット前ということか)
ああ、なるほど。と、私は納得した。
(そうだ。いつだって私は浅井ケイの次。なら、浅井ケイに私のことがすべて話されていても不思議ではない)
「……本当に、あなたはすべてを知っているんですね」
「いいえ、すべてではありません。あくまでも断片的に。大枠のみです」
「それでも十分だ。リセットをしても、相馬薫がいた記憶は、有るんですね。」
有るだけだ。有るだけじゃ、なにも変わらない。なにも救えない。私は、浅井ケイではない。
「……ええ。だからこそ彼女は、私に接触したのだと思う」
私はぎゅっと腕を握りしめ、浅井ケイから目を逸らす。
「それは違いますよ、苗字さん」
「え?」
思いもよらぬ否定の言葉に目を見開いた私に、浅井ケイは笑顔のままそっと目を伏せた。
「浅井ケイは、時々物事をすべて理解した気にして終わることがある」
「……それは、私の、」
「僕のことは好きでも嫌いでもないが、美空のことは好き」
「相馬薫か!」
「あなたは相馬薫を嫌っている。物わかりのいい女のふりをしていることが鼻につくから」
「……なんで、なんで?」
「相馬薫からひとつ、伝言を預かってきました」
相馬菫からの伝言は、こうだった。
どこかの世界線のあなたは、雨の中私を救おうと駆け付けてくれたり、抵抗した私の代わりに橋から落ちて命を落としたり、美空の友達になっていたり、浅井ケイを手助けするために浅井ケイやそのほかの能力者たちと交流していたりするのよ、と。
「彼女はあなたのことを話すとき、決まって穏やかな笑みを浮かべていました。きっと、あなたの優しさに彼女が触れていたからでしょう」
浅井ケイは、そう告げた。
相馬、薫。なぜ。どうして。
「相馬薫はたしかに君のことを想っていた。親友として、君のことを案じていた。変えられない未来を知っていることの辛さは、相馬が一番よく知っていたのでしょう。つい自分と重ねてしまうと、過去に一度話していたときの彼女の横顔を、僕はよく覚えています」
心の底から馬鹿な女だと思った。私のようなイレギュラーなんて、放っておけばいいものの。私のような人間でさえも、彼女は救ってくれていたのだ。
「っ、やっぱり、嫌いだ」
あの、他人のことばかり慮る愚かな女のことが、私はやっぱり、この世界≠ナ一番嫌いなのだった。
キャプション
アニメ「サクラダリセット」の相馬菫夢小説です。夢小説をご存知の方のみ閲覧してください。一応カテゴリーとしては友情夢だと思います。捏造しかありません。なにか問題があればすぐに消します。
私がもしも仮にサクラダリセットの世界に転生トリップをしたとして、私が相馬菫のことを救いたいと心の底から願ったとしても、そんな私の烏滸がましい想いすら、きっと彼女は救ってしまうのだろうなァと思ったので書きました。いいえ、ただ私が無力な自分自身を相馬菫に許してもらいたいだけなのかもしれません。唯一確かなことは、浅井ケイには勝てないということだけでしょう。需要がどこにあるかはわかりません。これを恋というのか、失恋というのかどうかもわかりません。ただ私は、彼女を救わせることすらもさせてくれない彼女に、恨みを吐かずにはいられないのです。