約束の時間になり、女が鍾離の部屋に訪れた。女から仄かに香る石鹸の甘い匂いに、鍾離は本当にこれで良いのかと己に自問する。答えが浮かぶ筈もなく、固い表情のまま、寝具のほうへと一直線に向かう女の背中を見つめた。
女の表情は、至って普通だった。緊張感は見られない。
「あまり自信がないので、ここはこうするものだとか、こうして欲しいとか、なにかあれば教えてください」
そう言って、女は寝具の縁に座り、鍾離を待った。鍾離は女を待たせまいと足を動かそうとするが、踵が粘って踏み出すことができない。やっとの思いで女の近くへ到達するも、見上げる二つの瞳が鍾離の心を揺らがせた。
「……鍾離さん?」
己が望んだことだ。誰に唆された訳でもなく、何に影響を受けた訳でもない。彼が、彼自身のために欲しがった唯一のものがそれだった。
鍾離は女の身体をゆっくりと寝具へ倒し、優しく寝かせた。すると、女がくすぐったそうに笑うので、鍾離は少しだけむず痒い気持ちになった。
「なんだか不思議です」
「うん?」
「鍾離さんは、あまりこういうことに興味がないものだと勝手に思っていたので、意外というか」
「……きみと出逢うまでは、確かに」
「あはは、」
流すような笑いに、鍾離は口をつぐんだ。己が目の前の女を渇望しているのは、決して肉欲に対する興味からではない。これと交わり成せるものもなく、生物的にそれをする必要もないとなれば、事象に関わることもない。愛欲とは、人と人の間に生じるものであり、人の形を真似ただけの己にはなんの意味もなく、価値もないものだと思っていた。言を解し、穀を口にしても、雌の胎の中に己の種を植えることだけは叶わない。したところで、できたところで、どうなる訳でもない。
ただ、彼には女の心のほかに望むものがあった。
「きみが少しでも嫌だと感じることを俺がしてしまったときは、その場で拒んでくれ」
「まさか。ないですよ。……好きにしてください」
彼は、女に拒絶されたかった。かけられていた期待と信頼を裏付けるものが欲しかったのだ。ひどく失望して欲しかった、そんな人間だとは思わなかったと声を荒げて、この屋敷から飛び出ていく背中を見つめたかった。女から溢れた激情を浴び、先に空けておいた心をそれで満たしたかったのである。
すべてを許されたくて、すべてを拒まれたいと思っている。彼女は、岩王帝君のために鍾離を拒まない。故に、鍾離が望むものは女の身体ではなくて、その内側にある目には見えないものだ。女は、鍾離の言うことを聞けば、安定した生活と最適な環境の中で研究を続けることができる。だから、それを失ってでも、鍾離という男を取って欲しかった。彼は、女の特別になりたい。唯一にはなれなくてもいいから、唯一に近いものになって、女に愛されていたい。ただそれだけなのだ。
鍾離が顔を寄せれば、女はそれを黙って受け入れた。漏れた吐息で女のくちもとを濡らし、桃の唇をゆっくりと啄む。二人が唇を合わせるのは初めてのことではないし、その先のことも、これで二度目になる。ただ、女はそれを憶えていないし、思い出すこともない。鍾離の体内で溢れた激情のままにその肉体を犯され、辱められた記憶は女の中には存在しない。
こうして震える舌を絡めあったことも、ぎこちない仕草で唇を食み合ったことも、鍾離は昨日のことのように憶えている。漏れた吐息の色も、心臓の鼓動も、舌のぬめる感覚も、腹の奥で疼く欲求も、すべてに憶えがある。
「……、ふ、う、」
呼吸を求める声は既に鍾離の耳に届いていて、それなのに唇を離そうとはしない。「ん、」肩を軽く押されたことでやっと止まった口付けは、鍾離の理性がまだ残っていることを示唆している。「っ、は、……」呼吸を整えようとする女の仕草を見て、鍾離は唾を飲み込むことも忘れてその様子を眺めていた。
「……苦しいです、」
乾いた笑いは色に濡れて、鍾離の心を揺らす。噛み合わない会話は流れ去って、また二人は唇を重ねた。
鍾離は、女の身体の形を確かめるように服をまさぐった。柔らかい肉の輪郭をゆるゆると撫でられ、女は笑い声をあげる。「くすぐったいです、あ、ふふ、」「嫌か」「いいえ、ぁふふ、まさか、」口を交わし合いながら、呼吸の隙間を縫って小さく会話をして、鍾離だけが傷ついたような顔をする。
「嫌じゃないですよ、」
そうやって、本心ともとれる言葉を聞くと、鍾離は眉を下げて唸るしかなくなってしまう。女は初めからこの行為を受け入れているのだから、ここで嫌だと騒ぐ筈もない。女は彼を信頼していて、それ故に、彼自身にはさほど興味がない。己の身体に対しては、交渉道具の一つ程度にしか考えていないのかもしれない。鍾離はその可能性に酷く気を落とした。女が鍾離に対し好意的になればなるほど、その裏側の真実がちらついてしまう。
彼女をモラで買えたならばと考えて、いざ手に入れたところで輪郭さえもそこに無く、本当に欲しかったものは天秤の皿の上には乗っていなかった。狡猾な奴だと憤ることもできず、鍾離は差し出された供物に口をつける他にない。だって、この状況は以前の鍾離自身が望んだことであり、そして最も正しい姿で彼の目の前に現れている。
鍾離は女にとって必要なもののすべてを揃えて、それが女のためになれば如何に扱われようと構わないと思った。鍾離は女の傍に居ることさえできればそれ以上は必要ないとして、女の心の在処を探ることを諦めた。鍾離は女の特別としてそこにあることを望み、唯一であることを求めるのをやめた。その筈だった。
「鍾離さん?」
女の肩に顔を埋めて、何を考えることもなく、ゆっくりと呼吸をする。人らしくあるために用意した人並みの肺を使い、人らしくあるために繕った肉体に熱を宿す。
今からでも激昂して咽び泣いてほしい。なんと浅ましい男なのだと突き放して欲しい。かつての情欲をむき出しにした己に組み敷かれ、その身体に触れられたときと同じように、明確な拒絶の形を目元に浮かべて欲しかった。
もしもこの矮躯の内側に少しでも己への好意があるというのなら、どうかこの行為を拒んで欲しい。仮初の肉体の中で恐ろしいまでに膨れ上がった欲望を否定して、鍾離という人間に価値を見出して欲しい。
「きみ、」
「はい」
「きみの素直な気持ちが聞きたい」
「気持ち、」
女は一度復唱して、大きく瞬きをした。「俺に、きみの大切な時間を割くだけの価値はあるか」「価値、」「研究の手を止めて俺の相手をすることは、この生活環境への対価を支払うようなものか」「なんでそんなこと言うんですか」女は少しだけ怒った顔をした。それを見た鍾離の瞳は瞬く間に熱を持った。
「きみは、」
「わたしは鍾離さんのこと、好きですよ」
大嘘吐きめ、と喉を抉ることは簡単で、けれども決してそれを成せることはなく、鍾離は絶望の中で押し黙った。なんと非情な言葉だろうと、目を乾かしては胸に穴を開けている。身が砕けるほどに渇望していた言葉であった。ただ、いざそれを目の前に出されると、どうしようもない虚無感に襲われてしまう。
岩王帝君よりも?
それはきっと口に出してはいけない言葉なのだ。だから、鍾離は瞼を閉じて、静かに女へと口づけをした。
数十分、或いは数時間か、身体を好きにさせればこの環境が維持されると思っているのだろう。何不自由ない生活への見返りとして身体を差し出せと言われ、特に不都合がないから素直に応じているだけで、謂わばそれまでの関係だ。
彼は脳裏で静かにそう考えて、ゆっくりと女の唇に舌を這わせた。女の身体が一瞬だけ強張るが、すぐに解けた。
「……、っ、あ、鍾離さん、ふ、う、待って、」
「なんだ」
「怖い、です」
「きみは俺の好きにしろと言った」
「……、……。そう、ですね、すみません」
今の一言で、彼女の信頼を失うことはできただろうか。鍾離は女の身体をまさぐりながら、如何にして己の価値を下げられるかを懸命に考えていた。乱暴に服を剥ぎ、女の下着を力任せに下げては、細い二本の足の間へ身体をねじ込んだ。強引に足を開かせ、粘膜の色を覗かせた性器に視線を這わせる。「や……」驚いて声を上げては恥ずかしそうに陰唇をひくつかせる、そのいじらしい仕草が鍾離の心をくすぐった。
丁寧に女の性器を慣らしながら、彼はふと考える。このまま乱暴に自身を押し込んでしまえば、激しい抵抗の末に彼女の涙を見ることができるのか。己の心を隠してまで積み上げてきた信頼と、紳士的な男の皮を切り崩し、剥き出しになった激情を正面から否定されることができるのか。未だに抵抗らしい抵抗もなく、驚いた声と僅かな嬌声を上げるだけで、それ以外には何もない。
「わたしは鍾離さんほど、ん、経験があるわけじゃ、ないんですよ」
「……きみが思っているほど、経験は無い」
「そう、なんですか。手慣れているように感じたので、てっきり……あっ、」
何千年も生きてきた中で初めて心を狂わされて、初めて欲を植え付けられた。人ならざるものであるが故に備わっていなかった欲の情、そのひとつひとつが、鍾離の身体の中で弾けている。鍾離は服を脱ぎ、既に大きく膨れ上がっている自身を取り出すと、女の性器に自分のものをぴたりと寄せた。
「えっ、待ってください、待って、つけてください、避妊具……」
「必要ない」
「っ、そんな、必要、必要です、待って、」
「必要ないんだ、」
「待ってください、ぅう、いや、」
ここまで来て初めて上がった拒絶の言葉に、鍾離は少しだけ口角を上げる。濡れたそこを貫くために腰を押し出し、その拍子にぎしりと寝具が悲鳴を上げた。
「……、……っ!!」
きつく締まる女の膣道に、鍾離の膨れ上がった剛直が押し込まれる。ぬめる膣肉を掻き分け、狭い洞の中を強引に押し広げていく。「……、は……、っ」鍾離の喉からこぼれた吐息は思考と共に宙に溶けた。達成感と征服感が入り混じった、感嘆の溜息にも似た声が漏れる。「あ、あぁ……、っ」女の潰れた悲鳴を聞きながら、鍾離は身体中を駆け巡る多幸感に打ちひしがれていた。
圧迫感に痛みを訴える女の頬に両手を伸ばし、愛おしそうに肌を軽く撫でる。鍾離の顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。「ッあ、うう……っ」押し込まれたあまりの質量に、女は声を上げることしかできず、辛うじて鍾離の手首を掴んでは抵抗に励んでいる。
「しょ、おり、さ、あ、」
「うん」
「いたい、いた、い、うあ、あ、」
「うん、」
女の目元からこぼれ落ちる大粒の涙を眺めながら、鍾離は目を細くする。「うぅ、あ、」鍾離の大きな手の甲に絡みついてこようとする細い指先の形に、彼の心はゆっくりと爛れていった。
己に怯える女の瞳は鍾離にとって格別だった。慾を孕んだ視線でそれを刺しとめ、鍾離は腰を押し進めながら女の唇に吸い付いた。
唇を舌先で強引に割り、女の舌を捕まえては逃げるそれを追いかけた。頬を撫でていた手のひらは女の耳元へと滑り、耳の穴を塞ぐ。鍾離が興奮のままに激しく舌を絡ませると、頭の中で響き始めた粘着質な水音に、女の身体が何度も跳ねた。
舌を絡め、唾液を吸い上げて、吐息を漏らしては女の唇を貪った。それは彼の気が済むまで続けられた。女を想っていた時間と比べれば、こんな一時のもので満足できる筈がない。小さな口に舌を詰め込んで口腔を荒らし回り、甘い唾液の滲む粘膜を犯しても、結局は、それらすべてを受け入れられずに拒絶されることを望んでいる。
「ぁう……」
目元を涙で飾りながら、頬を真っ赤に染めて、軽く震えている。半開きの口の奥には、彼の唾液がたっぷりと染み込んだ小さな舌が見え隠れしている。
「待って、待ってくださ、」
「……どのくらいだ?」
待つのは構わない。ただ、女の呼吸が整うのを待っていれば己の望みが叶うわけでもない。「すこし、」鍾離は返答を喰らうように再び口付けをして、女から酸素を奪った。「ぅぐ、」舌をねじ込み、粘膜をなぶり、歯列をなぞって女の口内を舐め尽くす。
鍾離の思う少しの時間と、女の思う少しの時間にはどうしても差違がある。ただ、今の鍾離にとって、一分や一秒はあまりにも長すぎる時間だった。
その一分一秒の間に、女の頭の中が岩王帝君に支配されてしまったら……そう考えるだけで、鍾離は身体の芯が怒りで煮えていくのを感じていた。
柔らかい唇を食みながら、女の身体に優しく腰を押し付ける。強引に広げられた膣口は何度も剛直を拒もうと締め上げられたが、その締め付けは鍾離を引き込むためのもののように作用した。すべてを女の肉の中に収める為に、鍾離は腰を揺らしては口付けを続ける。
「ふ、う、ぁ、しょ、お、り、ぁあ、」
「ッ、はあ、きみ、……」
「……っ、い、ゃあ、」
「きみ、っ」
水音が跳ね、聴覚を支配する。こうして口を吸っている間ばかりは、己のことで頭の中をいっぱいにしてくれていることだろう。鍾離はそれを期待して、たくさんの口付けを女に与えた。人と人とが行う愛情表現のひとつを無理やり押し付けて、これが愛だと思い込んだ。
逃げる舌を舐めしゃぶり、腰をゆるく振って女の中を出入りする。細い身体を掻き抱いて、腕に絡まる抵抗の手を気にも止めずに女の肉体を求めた。暫くすると女は暴れるのをやめて、時折静かに抵抗するだけになった。
手を、と言われれば鍾離の指を絡めるための手を差し出し、舌を、と言われれば口付けの際に自分から舌を滑らせる。鍾離は女の従順な仕草が気に入らなくて、張り詰めた自身のそれを女の奥深くに押し込んだ。
「う、あ、」
「は……っ、ッあ、あ……っ」
女の潰れた悲鳴を耳元で聞きながら、鍾離は薄く、満足そうに笑った。穴の大きさに見合わぬ太い肉棹は愛液の役割を薄めることはなく、女の内側にあるすべての性感帯を擦り上げた。奥の一点を重点的に圧迫されると、女の身体は鍾離の形を思い出すように、少しずつ甘い快楽に呑まれていった。
「っ……、う、あ……、」
「きみ……、」
「待っ、う、う……、」
鍾離の肉棹を強く締め付けながら、女は泣いて訴える。「うぅ、」濡れた瞳はキラキラと光って、真っ赤に染まった頬の上で鍾離の視線を独り占めにするために輝いた。
それを見た鍾離は、恍惚とした表情を静かに歪めながら笑った。暗がりの中で熟れた黄金の瞳が煌めく。しゃくりあげる女の唇を優しく食みながら、ゆるゆると腰を前後して狭い膣道を蹂躙し始めた。締め付けは強く、しかし内側の肉は柔らかい。膣襞の蠕動は鍾離の剛直を丹念に甘やかし、この行為から与えられる快楽を求めた。
「……、ふ、はは、」
彼女の身体は、己の肉の形を覚えている。どこにどれほどの刺激を与えれば良いか、何をすればこの身体の持ち主が深い快楽を得られるか、しっかりと記憶している。
鍾離は女の奥深くに自身を埋め込み、強張ったままの矮躯をそっと抱きしめた。首筋に顔を埋め、肌を吸っては鬱血痕を残す。抵抗の声が上がると、どうしても興奮してしまうのか、その白い肌に歯を立てて腰を振って応えた。
「ふっ、ふ……っ、」
「あ、あぁっ! っ、しょ、うり、さ、ぅあ、っ、」
決して乱暴に奥を突くことはなく、内側をゆっくりと慣らしていく動きである。肌を叩く音もなければ、体液の跳ねすら見られない。雄の身体を押し付け、己の色で染め上げようとしている。
「っ、ほん、とうに、ああ……っだめ、え、」
「うん、」
「あ、あ、」
「うん」
「ぅう、鍾離さ、ん、」
「……、」
女の声を噛み締めるように聞きながら、鍾離は口付けを落とした。先ほどよりも明確に女の身体を揺さぶり、潰れた悲鳴を食う。押し広げられた膣口に熱く反り返った激情をねじこみ、想いのままに女の身体を貪った。
どうすればこの女が己のものになるだろう。どうすれば、己はこの女の信じる神と同列に扱われることができるのか。「きみ、」女を呼ぶ声は冷たく、しかし驚くほどに湿っていて、奥に熱を宿している。「あ、」続けられた言葉は、すべての始まりの音だった。
「愛して、いる、」
鍾離の瞳は女だけを見つめていた。「愛しているんだ、」いつか己だけを見てくれる日を信じてここまでやってきて、終ぞそれが叶うことはなかったから、こうやって無理にでも己を見つめさせようとした。醜い私欲と劣情に染まり、魔としてそこにある己の姿を晒すことになろうとも、愛されたいと願っている。
「え、……、ぁ……」
「愛している、愛して、いる、」
絞り出すような声で鍾離は言う。「愛して、いるんだ、」それは静謐な絶叫であった。それは無音の咆哮であった。
「きみを、愛しているんだ、」
鍾離は女の頬を両手で包み込むと、角度を変えて何度も口付けをした。女が酸欠で鍾離の肩を叩いても、それがやめられることはなかった。
唇が重なり合うたびに二人の吐息は混ざり合った。女の頬を捉えていた鍾離の手は次第に矮躯の肌をまさぐるようになり、頭と胴をきつく抱きしめては腰を振って女の内側を堪能した。「きみ、……きみ、」「う、ぐう、う」腕に触れる女の手のひらは、鍾離の心を燻ぶらせた。身体を押し付けあい、性器を捏ねあってお互いの愛を確かめ合っている。女の身体に纏わりつく鍾離の四肢は強かで、細い肉体を力で押さえつけては離さない。膣道を前後する肉幹は太く、張った雁首でぬめる肉びらを強引にめくり返し、再び膣奥へと捩じ込まれていく。
「あう、ふ、う、……っあ、」
「ふ、っ、……ふ、っう、」
ぐち、ぐち、と粘着質な音が二人の頭蓋の中で響き渡った。もう既に性器の交わる音なのか、唾液の跳ねる音なのかさえ分からない。鍾離が唇を離すと、一瞬だけ透明な糸が引いた。対象の繋がりを表すそれは、鍾離の心にじんわりと熱を広げさせていく。跳ねる心臓を女の身体に押し付け、鍾離は白い肩口に顔を埋めた。そして、今度こそ強かに腰を振り始めた。
「っ、あ、あっ、ぁ、あ、っ」
「きみ、きみ、」
「う、う、鍾離、さん、……っ、」
鍾離は歪んだ笑みを浮かべながら、白い肩にかじりつく。「っ、痛、あ、」「ふ、うう、っ」寝具の軋む音は乾いているのに、二つの重なり合う音は湿っていた。鍾離の激情は乱暴な抽送に表れ、女の身体を雑に揺さぶる。
「きみ、っ」
「うあッ! っ! や、あっ!」
「っ、ああ……っ、は、……っ、」
呼吸は乱れているのに、律動ばかりが規則的だった。体液で濡れそぼった柔らかな陰唇は何度も鍾離の肉体で押し潰された。皮膚の間で跳ねる汗も、自身の肉棹を濡らす愛液も、宙に溶けていく二つ分の吐息も、鍾離にはかけがえのないもののように感じられた。金箔色の瞳は翳りを見せて尚、眼前の光に照らされて輝いている。「っく、うう、はあっ、ッ……っ、」濡れた内壁を擦り、女の最奥を何度も突き揺らして、鍾離は心を震わせる。
このまま彼女の中に己の欲を煮詰めた白濁を打ち出して、ぬかるみの中に身を置きながら幸福の余韻に浸りたい。何故これほどまでに無意味な行為に対し満たされた気持ちになるのか分からないまま、鍾離は抽送を続けた。ゆっくりと膣奥を突き、女の性感帯を攻め立てる動きであった。この矮躯の隅々までを知って尚、まだ知りたいという欲求が鍾離の中にはあった。
「きみ、きみ、」
「っ、あっ! うあああ……っ! ああっ! 鍾離さ、」
彼女の内にある例の探究心に影響されたのか、鍾離は女と同じように、一つのものを延々と追い続けた。「ん……、」唇を追いかけて、舌を絡めあい、お互いの気持ちを確かめ合った。二人は愛し合っている筈なのに、目の前のものしか見えてはいなかった。
やがて鍾離は女の身体を強く抱きしめ、己を押し付けるように強く腰を打ち付けた。吐息を散らし、呼吸を乱して女の身体を蹂躙する。「はあっ、あぁ、ッ、」奥を突き揺らし、膣壁で肉棹を扱きながら、精を放った。陰嚢は引き上がり、瞬く間に熱い精漿が女の膣内を満たした。
「――……っ! ああ……、ッ、……は、……っ、」
女の身体を押さえつけ、快楽に震えながら吐精を続ける。声を上げて嫌がる女の膣奥に多量の精を流し込み、膣口から白濁が溢れても、鍾離は腰を揺らすことをやめなかった。「ああ……、」鍾離は止まらなくなった女の涙を愛おしそうに眺め、再び女の身体をじっくりと揺さぶりながら、閉ざされた瞼に唇を寄せた。
このときの鍾離の内にあるものは、単純な支配欲であった。目の前の女に鍾離という男のことだけを考えて欲しい。それが叶うのならば恐怖や嫌悪が連鎖されようが構わず、寧ろ失望されることを望んでいる。もしそれすらも叶わないのなら、女の頭の中を埋め尽くし、片時も忘れることのなかったそれそのものになるしかない。
「……、ぁ、」
「愛している、」
「う、う……」
「きみを、愛している」
「…………、は、い、」
光の失われた瞳は目の前の女以外を捉えてはおらず、彼の肉体もまた、この女以外を求めてはいなかった。鍾離は譫言のように愛の言葉を囁いては、硬度を保ったままの肉棹を女の中で前後させた。白濁の絡まる長大が小さな膣口から引き抜かれ、また押し込まれる。
「愛しているんだ、ッはあ、きみを、きみのことを、」
金箔の瞳には涙こそないが、女に注がれる視線はあまりにも熱っぽい。「愛している、」愛欲の塊を埋め込み、芽吹くはずもない種を打ちつけ、無意味な行為に明け暮れる。
「わたし……、も、ですよ、」
女の瞳は、鍾離のことを見つめてはいなかった。ぼんやりとした様子で、鍾離の目のあたりを眺めている。「だから、次は、もう少し……優しくしてもらえたら、嬉しい、です、……避妊も、」遠くを見ているのか、近くを見ているのか、何も見てはいないのか、何も見たくはないのか、女の瞳の色はひどく濁っていた。
「きみは、」
ふと、鍾離が言う。
「本当に、俺のことなどなんとも思っていないんだな」
「……そんなこと、ふぅ、ないですよ。鍾離さんの、ことは、好き……、です」
「きみの嫌だと言う言葉をすべて無視してこの行為に及んだ俺のことを、軽蔑しないのか」
「軽蔑なんて、しません。鍾離さんが、こんなに性欲が強いほうだったなんて、知らなくて……」
己の激情を性欲の一言で片付けられた鍾離は、あまりのもどかしさに奥歯を軋ませた。
「……きみと出逢うまでは、無かったものだ」「どういうことですか、」女は少しだけ笑ったように言った。
「凡人になることが、凡人であることが、これほどまでに難解で、終わりの見えないものだとは思っていなかった」
「……? なんですか?」
「本当にきみは、どこまでも俺自身に関心がないんだな」
「そんなこと、っあ、」
「俺に関心がないから、きみは俺に何をされても許せるんだろう。それこそ、どんなことでも。何も期待をしていないから、失望することもない」
「違います、っ、あ、」
「俺のことを愛しているなら、何故、俺のことを何一つ知らないままでいられるんだ、」
女は結局、岩王帝君にしか関心がない。璃月を統べる神であったもの以外に興味がない。鍾離という人の男にどれほど愛情を注がれても、同等のそれを返そうという発想までには至らない。女が真に愛しているのは岩王帝君であり、モラクスであり、岩の魔神である。「俺は、」それらであるにも関わらず、女は鍾離から本質を見出すことができなかった。正解までの手掛かりをどれだけ散らしても、全てが無駄であった。
「俺を知ってほしい、俺のことを、俺自身のことを」
窓の外の景色が一切無くなり、照明の光が弱まった。部屋のものが小刻みに震え始める。鍾離の毛髪の先が黄金色に煌めいた。
女の頬を包み込む両手は黒へと変わり、それは鍾離の肩まで続いた。夕景の瞳は瞬く間に魔の色を差して、女の双眸を射抜いた。
枝分かれの角で頭を飾り、唇の隙間から鋭く尖った牙をちらつかせる。鍾離は熱気のこもる吐息を吹きながら、黄金の瞳を光らせた。それらは意図せずして発現したものではなく、女を抱いているものが一体何なのか、女に分からせるためのものだった。
「俺が何か分かるか」
それはこの女に対する二度目の問いかけであり、一度目よりも深く熱く、芯の詰まった声であった。
「知らないとは言わせない、俺のことを誰よりも知るきみに、知らなかったとさえ言われたくはない、」
彼は興奮気味に言った。普段の鍾離とは似ても似つかなかった。女を食い殺さんとばかりに猛り、湿った想いを垂れ流した。
彼の溢れ出た激情を受けて、女の瞳からは押し出されるように涙が溢れた。「いや、」桃色の唇からこぼれた言葉は小さく、掻き消えてしまいそうなほどに脆い。この弱い存在を己の腕で包み込み、傷の一つもつかないように丁寧に愛でてやる、彼はたったそれだけのことがしたかっただけだった。しかし現状はと言えば、今にも壊れそうな女の心を砕こうとしている。
「俺が魔神であることも、岩王帝君であったことも、きみの前では鍾離としてあろうとしていたことも、すべて、余す所なく、きみに知っていてほしい、」
震える黒い指先に涙が垂れる。彼がそれに熱を感じてしまえるのは、愛しいとさえ思えてしまえるのは、彼が女の心を渇望しているからだった。ただ、女が欲しいのは誰かの心ではなく、何かから受けられる愛でもない。
叫ぶことも、取り乱すこともなく、女は静かに目の前のものを拒絶した。「いや……」女は現状から目を背けようと首を捻ろうとしたが、両頬を掴む大きな手がそれを遮った。
「愛している、」
自由を奪われ、彼の膨れ上がった想いを受けることしかできなくなった女は、乱暴にぶつかってきた唇を引き剥がすことさえできなかった。くぐもった悲鳴があがり、肉厚な舌が女の口腔をなぶる。それを皮切りに彼はゆっくりと腰を揺らし始め、女の中を前後しながら長い口付けに耽った。「ふう、」「っ、う、ぅうっ、」漏れる吐息は呼吸をするためのものではなく、女が彼の口付けを拒んだ際に生じたものだ。それから女が嫌がるたびに、彼は嬉しそうに濡れた唇を喰んだ。角度を変え、また深く舌をねじこみ、女の舌を絡め取って遊ぶ。薄く開かれた瞼からは欲にまみれた瞳が、目の前の光を受けて輝いていた。
「愛しているんだ、」
そうに違いないと、己に言い聞かせるような声色だった。愛欲で張り詰めた剛直で女の中を擦り、奥を突いて性感を共有しようとする。先端が膣奥を突き揺らすたび、濡れた襞は彼の肉棹に絡みついて応えた。彼の受け入れ方を覚えてしまった女の身体は、持ち主の意識に反して再び熱を帯びていく。「愛している、」憂いを滲ませた黄金の瞳は女のことだけを見つめていた。
荒い呼吸が女の肌を撫で、優しい視線が女の輪郭のかたちをなぞった。「いや、」小さな拒絶は彼の唇によって無いものとされ、穏やかな揺さぶりと共に捩じ伏せられる。
「きみ……っ、ぁあ、っ」
「嫌、嫌あ、ッ! いや、ッ、いやぁあ、」
「ふう、っ、あ、……あ、あ、ッ」
愛欲を糧に太く育った彼のものは、女の内側を強引に押し広げ、何度もめくりあげることで性感を受けた。鍾離の打ち出した精を掻き出すため、肉襞の隙間を探るように内側を前後する。きつく締まるそこの様子はまるで彼の肉棹を喜んでいるようで、彼はどうにも興奮を抑えきれそうになかった。
「嫌っ! やめて、嫌ああっ! なんで、ちがう、いや、いやああ、」
「何が違う? きみは、魔神モラクスを、俺のことを、」
愛しているのだろう。
そう言って、彼は目を三日月のように細めて薄く笑った。
今度こそ女の愛を受けられるに違いないと、そう信じてすべてを曝け出したのだ。女の前では鍾離という男であろうとしていたのに、その皮を剥ぎ取ったのはお前だろうと言わんばかりの微笑であった。「俺も、きみのことを愛している。きみのすべてが知りたくてたまらない、」博学と謳われた彼が此度新たに飲み込んだ知識は、少し歪な形で表れた。「だから、俺のなにもかもを、きみに知っていてほしい、」その身体の中に溜まる人並みの欲も、あるはずのなかった劣情も、それらを手に入れることとなった過程も要因も、すべてを女の中に閉じ込めようとした。
感情ばかりを含んだ人らしい表情で彼は笑う。
「きみが俺を愛してくれるのなら、俺がきみを愛してもいいだろう?」
女は鍾離の愛を受け入れることができても、己の神の愛までは受け入れることができなかった。女が岩王帝君に望むのは博愛の精神であり、決して鍾愛などではなかったからだ。
ただ、魔神モラクスは女という人間にそのように愛された。″きみ″の愛とはそういうものなのだと、身を以って知っている。知ることこそが女の愛であるのなら、女にすべてを知られた彼は、この女というものにこの世界で一番愛されているに違いない。
女の愛を受け続けた彼が愛を返そうと考えたとしても、さほどおかしなことではなかった。だってもうすでに、彼は璃月の神の座を降りていて、本来備わっていない筈のものまで女に植え付けられてしまっている。彼が望むのは人と人との間に生まれる愛であり、それを女以外のものから与えられ、女以外のものに与えたところで到底満足出来る筈もない。
「嫌……、っ」
女がどれだけ嫌がろうと、彼にはそれが真の愛からなるものであることを知っている。彼はそう信じている。女に信じられてきた分を、女に返そうとしているだけだった。
それでも虚しく思うことがあるのか、彼は憂いの瞳を浮かべては哀しそうに眉を下げた。
「俺がきみを愛することは、きみの中でそんなにも認められないものなのか」
「離して、」
「それは、できない、」
「っいや、いやああ、いや、」
彼は頭を振って嫌がる女に手を伸ばし、涙で濡れた頬を撫でた。「嫌あ、」首を捻ってもがくそのさまは、完全な拒絶に他ならない。そうやって触れることさえ許されなくなっても、彼は女に愛されている確信があった。この異常なまでの拒絶は愛の裏付けであるとして、彼の中で幾度もゆっくりと煮詰められているのである。
信仰心とは人が人に向けるような愛とはまた別のものだが、女から向けられるそれは、己に対する真の愛に違いない。凡人の身となっても手に入らなかったものが、別の姿であれば手に入るとするならば、この形に収まるのが最も正しいのだろう。彼は目を細め、恍惚とした表情を浮かべながらそう考えた。
「愛している、」
彼は指先でぬるい涙を優しくぬぐい、そのまま寝具に手をつくと、ゆるゆると腰を動かしては女の中を前後した。「はあ、」吐息には濃い熱が込められていて、女の中を出入りする度に少しばかり上擦った声が滲んでいた。
彼は一度も休むことなく、女の身体を辱め続けた。陰核の皮をめくり、肉粒を嬲って遊んではほくそ笑んだ。勃起した陰核を優しい手付きでじっくりとねぶったり、指の腹で圧迫して芯の部分を捏ねて見せたりした。その度に膣道はきつく締まり、彼を喜ばせる。
「っああ……っ、きみ、っ、」
「いやっ、やめ、て、やめてくだ、さ、」
「…………ふ、ふふ、」
暴れる女の膝を掴み、強引に足を開かせては狭い膣道を蹂躙して、拒絶の言葉を受けて笑う。「はは、……っあ、ぁ、」膨れ上がった肉棹で何度も女の最奥を突き揺らし、声色に悦楽を込める。
「……、……っ、ぁあ、あ、嫌、いやああっ、う、う……」
鍾離の愛欲は簡単に受け入れて、モラクスのそれは徹底的に嫌がろうとする。彼はそれが震えるほどに嬉しかったし、同時にひどく悲しくもあった。ただ、女の愛がそれだと言うならば、彼は拒絶の言葉を何度でも受け止め続けられる。それに耐えられるだけの精神と肉体を持ち合わせているが故に、女のことをいつまでも、例えば百年でも千年でも待つことができる。女の肉体が壊れてしまうのが先ならば、新しい肉体を与えようとさえ思っている。
そうやって、女の愛をさまざまな方向から、然し一心に受けようとしている。いずれ訪れるであろう終わりを夢見て、矮躯の内側にあるそれが摩耗する未来を望んでいる。
「鍾離さん、嫌、鍾離さん、っ、あ、ぁ、」
「……今は違う、」
「っひ、あっ! く、う、あ……っ、あ、」
咎めるように何度も最奥を突き、締まる膣道を緩やかに前後する。肌のぶつかる音は軽く、肉と体液を捏ねる音は重い。「はあ……っ、」「う、う、ぅ、」己であり、今の己ではない男の名がその口から出てきたことが気に食わないのか、彼は少しばかり乱雑に腰を振った。嫉妬の念が黄金の瞳の奥で燃えている。
「……鍾離のことを愛しているなら、何故鍾離のことを一つも知ろうとしなかった、」
「ッあ、う、うぅ、」
「それほどまでに、鍾離という男に関心が向かないほどに、きみは俺を愛しているのではなかったのか、その短い生涯のすべてを捧げるほどに、愛していたんだろう、何故、何故……、」
女が愛した二つのものは初めから一つのものだった。たったそれだけのことが女には理解できず、未だに考えを改める気配もない。
「嫌ッ、あ、鍾離さん、鍾離さん……、」
「……、……」
「鍾離さん、っ」
女の声は、確かに鍾離を探していた。既にそこにはなく、初めから存在してはいなかったものの名前を呼び続けている。視線は遠く、意識は全く別の方向へと向いていた。
奥歯を噛み締め、悋気の念に呑まれた彼は、女の身体に覆い被さると、張り詰めた剛直で以って濡れた膣奥を貫いた。「ふう……ッ、」「ッ、嫌、あ!」子宮口に先端を乱暴に押し付けられ、女はあまりの衝撃と快感に、大きな声をあげてはその感覚を嫌がった。
そこから行われたのは、暴力的なまでの激しい抽送だった。決して快楽を貪るためのものではなく、己の昂った感情のみを叩きつけるようなそれが、女の肉体に何度も打ち付けられる。
「う、くぅ、あ、ッ、あ、ッ、」
「はっ、はあっ、……っ、あ、っ」
「ぅ、っあ、ッ! あ、あッ!」
鍾離であったときはあれほどモラクスが憎くて仕方がなかったのに、モラクスとして女の前に姿を現した今は、鍾離という凡人の男が憎くてたまらない。女の愛を疑おうとしても、二人で過ごした日常から滲み出るそのどれもが本当の愛から来るものであったと確信を持ててしまう。
「鍾、離さん、っ、う、ぁあ、嫌ああっ、しょうりさん、」
助けを求める悲痛な叫びは、彼の爛れた心を掻きむしった。
「俺は、モラクスだ、お前がその灯火のような生涯の中で唯一愛したものだ」
「嫌、ぁ、ッあ、」
「俺を見ろ、俺が何に見える? お前に聞いているんだ、きみ、」
彼の瞳は瞬く間に怒りの色に染まった。「あ……」その眼光で瞳の奥を貫かれた女は、一瞬だけ息を詰めた後、眼前のそれから目を逸らすようにぼろぼろと涙をこぼした。
「いやああ……」
女は彼の名を知って、名を呼ばない選択をした。彼には、そうとしか考えられなかった。
その口から愛の言葉が吐かれずとも、すべての行為を拒まれようとも、彼はこうやって女の愛を実感することができた。女はまだ、信じていたいのだ。自身の中にある岩王帝君の尊さを、岩神の高潔さを、モラクスの輝かしさを、失いたくないと思っている。
これが愛でなければ何なのだ。彼は滲む視界の中で、やはりこの女の愛を正面から受け止めたいと強く願った。
彼は女に覆い被さり、挿入の角度を変えると、自身の欲望を女の奥深くに何度も打ち込んだ。矮躯を手繰り寄せ、激情のままに女の身体を掻き抱いた。
逃げる唇を捕らえ、舌をねじ込んで粘膜を嬲る。これは彼が快楽を得るための行為ではなく、彼の欲求を満たすための行為だった。女の中にある数多の特別ではなく、唯一になるための行為だった。
酸欠で女の視界がぼやけた頃、彼はゆっくりと舌を引き抜いて、女の身体を抱き止めながら腰を打ちつけた。細い胴を抱え、肌を擦り合わせて、求めていた熱を傍に感じては虚しく腰を振り続ける。白く柔らかな肩口を噛み、濡れそぼった肉洞でその長大を丹念に扱かせた。
「ぐ、うう……、はっ、はあっ、ッあ、……ッ、」
「っ! あぁああっ! あ¨! あ¨ー……っ!」
「ふうう……ッ」
抽送は激しさを増してゆき、彼の腰は女の身体を何度も弾いては膣奥を深く貫いた。足を閉じることも許されない小さなからだに、彼の玉体が重くのしかかる。陰唇は限界まで広げられ、彼のものを受け止めるためだけに開かれていた。二つ分の体液が入り混じり、快楽ばかりが得られるようになったそこに、搏撃が容赦なく叩き込まれる。
「ぎっ! ぃ、いっ! 嫌ああっ! た、すけ、て、ぁあっ! たすけ、ッ! うああ¨あっ!!」
「きみ、きみ、愛している、」
「嫌ッ! あ¨! いやああっ!」
汗ばんだ女の身体に己の肉体を押し付け、暴れることもできないようにきつく、強く拘束し、浅い肉穴を強引に出入りする。広がりかけた膣奥を加減の効かなくなった愛欲で穿ち、嬌声の滲む悲鳴を耳にねじ込みながら、彼は精を放った。
「……、……ッ! ぐ、うう……っ!! お¨……っ、……おお¨…………っ!!」
脈動する長大から、粘ついた白濁が打ち出される。膣内を蹂躙する剛直と、さんざん辱められた肉襞が、流し込まれた精液を挟んでお互いを慰め合った。
彼が女の中で絶頂し、狭い膣から溢れるほどの量を吐いた頃、彼は深い絶望の中で、まだ己の光を求めていた。「俺を、」彼は悲痛を飲み込んだ声で言う。
「愛していると言え」
自ずと人間を愛する核を持って生まれ、己を信仰する民を幾千年と愛し、愛されて、此度たった一人の凡人を愛し、愛されようとして、今はそれが叶わない。「俺を、愛していると、」欲しいのは言葉ばかりではないくせに、解語の岩は顔を歪めながら、まずは耳を癒すための音を求めた。
「愛していると、言ってくれ、」
深く差し込んでいた陰茎が引き抜かれそうになり、また奥へと押し込まれる。精液に塗れた肉穴の中で水流が乱れる。粘膜と粘膜の間を泳ぐ生ぬるい体液の感覚が、二つの性感を緩やかに刺激した。
溢れ出る白濁が女の尻を伝い、寝具の上を汚しても、彼は抽送をやめなかった。自分より幾分も小さな身体を、加減のひとつも知らずに抱きしめて、痛苦を与えながら愛の言葉を求め続ける。
「きみ、」
己を慰めるような機械的な抽送の中、女の骨が軋む。「う、」潰れた悲鳴を腕の中で感じて、やっと力を緩める程度には、彼にとってきみというものは至極大切に扱うべき対象で、傷ひとつつけてはならないものであったのに、此度は砕いて壊してしまおうとしている。女が壊れてしまったとしても、その女であることに変わりはない。寧ろ、壊したのが己であって良かったとさえ彼は思うだろう。
薄く、形の整った唇が、女の唇に近づけられる。ひゅうっと、細い管に風の通る音がしたかと思うと、「愛しています」と、それはもう小さな声で、彼の求めていた言葉がこぼされた。
「愛、して、います、」
彼はその言葉が逃げて行かないうちに、女の唇と共に口の中に納めてしまった。ふたつの吐息は混じり合い、舌は絡められ、心は一つになった。ただ、肝心なところが抜けている。「誰を?」唇を離した彼がそう聞くと、女は少しだけ黙り込んで、嫌そうに唇を歪ませた。
「その言葉は誰に向けたものだ」
「……あなたさまに」
「名を」
「…………モ、ラ、クス、さま……です、」
彼の世界に光が差し、色があふれた。「ああ、」漏れた音は肯定のそれではなく、感動の溜息によく似ていた。彼は己の心が瞬く間に熱を帯び、その目に見える世界が開けていく感覚に襲われた。
「愛しています、愛して、います、」
「うん、」
「愛しています……」
「うん、」
彼の傷ついた心を癒す、温かい言葉だった。「愛しています、」虚な瞳は彼のことだけを見つめているようでいて、その実、どこも見てはいなかった。
彼は女の言葉にひどく喜んで、再び自身の熱源を奥へと押し込むと、女の身体をきつく抱きしめて軽く揺さぶった。
「う、あ、あ、っ、あ、」
「もっと、聞かせてくれ、」
「っ、あ、う、愛、して、あ、う、」
「……ふふ、」
「あい、あ、あいして、います、」
女の耳元で嬉しそうに笑い、「俺もだ、」熱い肉の中を前後する。女の泣きどころは瞬く間に解されて、嬌声ばかりが上がるようになった。「あ、ふ、ぅ、う、うっ」指先は絡まり合い、唇は重ね合わされる。やがて律動が少しばかり激しいものになると、女は何かを嫌がって暴れたが、彼はそれを押さえ込んで肉を揺さぶり続けた。
女に絶頂を与えるために、彼は何度も奥を穿った。「もう少しだ、」「う、ええ、あ、あ、」「ほら、」「っ、いや、ああ、」子宮口を丹念にこすり、奥の蜜だまりを掻き回した。肉襞は何度もめくり返され、性感ばかりが増幅していく。
「きみ、」
優しい声が女の耳元に届いたころ、女は深い絶頂を迎えた。声は千切れ、背をのけぞらせ、腹の奥に溜まった性感を一気に引き裂かれる感覚に全身を震わせた。最奥を押し込む彼の剛直は、絶頂を味わう肉壁によって刺激され、女が今まさに達しているこの瞬間を喜んでいた。
肉棹を嵌め込まれながら快楽に喘ぐ女を、彼は満足そうな顔で眺めた。そうして何度か口付けをしたあと、「はあ……、」深い吐息を女の耳に詰め、頭を撫でてやった。
「あ……、……ぁ……」
びく、びく、と跳ねる女の身体は湿っていて、薄桃色に色づいている。彼は首筋の皮を唇で挟んで遊びながら、また腰を揺らした。
「ッあ、嫌、やめて、やめて……」
「……辛いか、」
「嫌、もう……、もう、……っ、いや、です、嫌……」
これ以上の行為を泣いて拒もうとする女に対し、彼はにんまりと笑って、「俺もだ」と言うのである。女体を犯して遊ぶ己の神に失望し、それでもまだこれが現実ではないと、或いは暗闇の中で見た夢である期待に縋っていたのに、いつまで待っても世界が割れる兆しはない。「きみ、」彼は女の名を呼んでは、夜空に滲む三日月のような微笑みを与えた。
彼の手のひらが女の身体を撫でる。絶頂の余韻で跳ねている腰を掴めば、女は瞬く間に全身をこわばらせた。多量の精がこぼれ落ちる結合部から、ゆっくりと肉棹が引き抜かれようとした。ある程度のところでそれは静止し、彼は浅い呼吸のまま女の目元に視線を落とした。
「これからは、書架へ書籍を取りに行ったり、史料を読み込む必要はないな。俺がそれらの代わりになろう。きみは俺に知りたいことを聞く、それだけでいい。本も、もう戻す必要はない」
彼は黄金に光る目を細め、吐息を混ぜながらそう言うのである。女の耳元に唇を近づけ、甘く低い声で囁く。
「時間をかけて情報を精査する必要も、他の学者と意見を交換する必要もない。俺は記憶力が良いほうだ、大抵の質問には正確に答えられるだろう。聞きたいことがあればいつでも聞くといい」
女の耳を食み、唇を擦り付ける。「どんなくだらないことでも構わない。俺の持つ知識と記録は既にきみのものだ」それは慈愛のようで、然し純粋な施しとはまた違うものだった。
「俺はきみのものだ。きみだけの……」
それを聞いた女は、途端に暴れ始めた。彼の胸を押し退けようと強く腕を伸ばし、強引に転がろうとする。しかし、滑りのよくなった性器がゆるりと引き抜かれ、弱々しいばかりの逃走劇が始まろうとしたところで、すぐさま女の荒い息は寝具へとねじ伏せられた。
「うう……ぅ、う、」
「……、」
向けられた白い背中を見て、彼はこの狭く愛おしい背中に視線を送っていた日々のことを思い出した。璃月にいた頃こそ、どんな喧騒の中でもひとたび声をかければ振り向いてくれていたのに、この屋敷に来てからは、二度に一度は返事のみで済まされてしまっている。
「きみ、」
「……っ、う、ぁ、いや、」
今は返事すらもなく、この腕から逃げていこうとさえする。それで、今度は己以外のものに手を伸ばそうとしているのだから、彼の瞳は翳りの中で細く光っていくばかりだった。
薄く肉の乗った尻に、彼の熱源が押しつけられる。固い肉棹を反発する柔らかい肉の形を見て、彼はさらに興奮したように軽く腰を揺すった。熱り勃った剛直に浮き上がる血管のかたちを押しつけながら、女の湿った肉びらに指をかける。ぴったりと閉じられた陰唇を左右に開けば、女の腰は物欲しそうに小さく跳ねて、彼の劣情を煽った。
彼は自身の昂りを女の中にゆっくりとねじ込みながら、膣襞を掻き分けていく感覚に甘い声を震わせた。「は、……ッあぁ、……っ」彼が散々吐き出した精が粘膜の間を泳ぎ、結合部から溢れる。「い¨や、あ、あ、ぁ、」びくびくと跳ねる腰を優しく掴み、深く深く挿入していく。
「う、っ、く、ぅう、う、あ、あ、」
弱々しく泣きじゃくる声が寝具へと吸われていくのを見て、彼は悲しそうに眉を少しだけ下げた。暴れて拒絶されることのないこの体勢は、女の声の波を肌で感じることができない。深い挿入を可能にしたところで、彼の得物をもってすれば、どんな角度からでも女の内側をそれだけで満たすことができた。
「ふっ、……ふう、っ、」
この腕から逃れようとした罰を与えたところで、女の考えはきっと変わらない。彼は興奮の息を漏らしながら、如何にして己に向けられた理想像を完璧に壊せるかを懸命に考えていた。
辿り着いた先がここであったのは、すべての要因が複雑に絡み合った結果であり、もしそれが運命といったものであるならば、彼にとってひどく残酷な褒美である。けれども確実に彼の当初の望みは叶えられているものだから、唇をかんで唸るほかにない。
「きみ、」
口から愛しい女の名をこぼし、一度奥を突いてしまえば後は簡単で、弾き出された女の嬌声を聞くなり、彼はもっとその声が聞きたくてたまらなくなった。弾力のある尻に向けて何度も腰を叩きつけ、張り詰めたそれで女の膣を掻き乱す。
「っ、ああ、ッ、……! っ、……う、」
「ッ! あ、あっ! あ、ッ! ー……ッ!」
「ぐううっ、あ、――あぁ、……っ」
しなる腰で尻肉を弾き、乾いた音を立ててそれを女に聞かせた。粘着質な水音を撒き散らし、太く育った肉棹を最奥に向けて叩き込む。「うあっ! ぁああっ!!」膣奥を抉り抜き、思うままに腰を振って女の身体で肉を扱く。こうして同じ箇所を穿ち続けることで、この手元の身体にどのような変化が起きるのか、彼は良く知っていた。一定の間隔で丁寧にそこを突き続けていれば、「あっ、あああっ! ひっ、い、うう、っ、」女の身体は熱を帯びて湿り、内側で彼のものを強く締め付ける。視界の端で握り締められたシーツにさえ彼は嫉妬して、よりいっそう丁寧に女の泣きどころを突いた。
「ッあ! ぃやっ! ああっ、あっ、う、」
「……、く……ッ、おおお……っ」
「あぁああっ! あ、あ、ッ……! 嫌ッ! 嫌ああっ!」
「は……、ぁ、ははは……っ、」
彼が誰になろうと、そこが何処であろうと、状況が変化することはなかった。鍾離は女の特別で、モラクスは女の唯一であった。
「きみ……ッ、っあ、ぁあ……ッ!」
熱くぬかるんだ膣肉を愛欲のために犯し、弾ける声を聞いて背筋を震わせる。最奥を抉り抜き、深く差し込んで内臓を圧迫する。「はあっ、ッ、あああ……っ、」女の背に吐息を散らし、無防備な肉穴に何度も腰を振り下ろした。彼は女の絶頂の前触れを感じると嬉しそうに目を細め、的確に弱点を責めて応えた。
「嫌ああッ!! っ、――……ッ!!? っ、あ、ああ、っ――――……、……っ!!」
嬌声に混じった拒絶が寝具へと吸われていく。彼の精を受け止めるために膣奥は広がり、それを粘膜で感じた彼は嬉しさに頬を緩ませた。びくん、びくん、と女の腰が大きく跳ねて、「ッあ、」女は苛烈な絶頂の感覚に、何度も情けない声を漏らした。
「う……、ぁ……、あぁ……っ、」
敏感になった膣内に残る肉の形を受けて、女は辛そうに身じろぐ。そうやって揺れた腰を彼は優しく撫でて、まるで求められているかのような動きだと吐息を垂らした。
実際に、女の身体は彼によって随分と慣らされている。このままゆっくりと奥を小突き、子宮を揺らし続ければ、間延びした嬌声を聞いて耳を癒すことができる。こうして女を犯し続けることでその心が壊れてしまうことも、この行為を続けたところで決して己の思い通りにはならないことも、すべてわかっている。
わかっているのに、彼は人間の持つ可能性を信じているからこそ、これを諦めることができない。彼は人間のことを愛しているし、女のことも、心の底から愛している。人ではない彼の核が初めからそのようにできているとして、個からの愛を手に入れるためにはどうすれば良いのかがわからない。
彼は女の背を己の身体で押しつぶすと、腰だけをゆっくりと動かし始めた。密着した肌同士が擦れ合い、性器の交わりと共に深い快感が生まれる。「ああ、……っ、」「ッ、う、ぁあ、」シーツを握り込んだ女の指を奪い、両手を繋いで背後から抱きすくめる。小さな耳元に流れる熱い吐息は、女の敏感になった神経を緩やかに刺激した。
「あ¨っ、あ、……っ、」
「……ッは、あ……っ」
「う、うう、」
白濁で溢れたそこで自身の肉棹を扱かせ、女から得られる快楽を楽しんでいる。絶頂を迎えたのだから、女もこの行為で快感を得ているに違いないと、彼は口元にある耳殻をそっと噛んで微笑んだ。
「……ふふ、」
熱い息は女の耳と肌をゆっくりと撫でて、再び彼の喉に戻って行った。そうして甘い声とともに吐き出されたぬるい吐息に、女の身体は敏感に反応した。
「ぁ、う……あぁ、あ、」
「この体勢は……、お前の、弱いところがとても突き易い。っはは、深く、入るだろう。ここを、どうされるといいのか、教えて欲しい」
「ッあ、あ…………っ、」
「既に俺が知っていることだろうと、遠慮する必要はない。お前の口から直接聞かせてくれ、どんなことでも構わない、それこそ何度でも、お前の口から聞きたいんだ」
女は何も答えることはなく、啜り泣く声が続いた。けれども、彼はそれで構わなかった。どのようにすればこの女が快楽を得られるのか、既に熟知している。「こうだな、うん、」自身の先端を押し付けるように腰を突き出し、女の内臓を押し上げた。
「ッ、……! あ……っ!」弾き出された嬌声を聞いて、彼は静かに笑う。膣壁に絡まる体液が滑り、ゆるやかな締め付けが彼の肉棹を襲った。
「っはは、ここだな……っ、」
「あ、…………ッ」
ごつりと奥が突かれると、女の声が甘く震えた。同時に膣内が収縮して、彼は満足そうに腰を揺らめかせる。「きみのことがもっと知りたいんだ。どうされるのがいい。何をすれば……きみが満足するのか、教えてくれ」暗闇の中で響いた低音は、女の身体のことなど知り尽くしているくせに、それ以上を欲しがった。
女が口で嫌がると、彼は悲しそうな顔をして、その引き締まった肉体を女の身体に強く打ちつけ始めた。肉同士がぶつかり合い、乾いた音を立てる。「……ッ、ぁあっ、」「嫌、いや、ッ、嫌あ、っ」「きみ……、きみ、」女を何度も呼んでは奥を穿ち、開ききったそこを蹂躙する。「嫌ッ! 嫌あぁ、っ! ぁああ……っ!!」嫌がる声を押し潰すために激しく腰を振り、弱点を突いて快楽を押し付けた。「ああっ、ッ……、きみ……っ、」彼は背筋を這うそれの感覚を受けて、女の肉で己の竿を扱き続けた。玉体で女の尻を弾き、激しい抽送で狭い膣内を犯し尽くす。
「ッ、おお…………っ! ……ッ、は、あ、ァ……っ!」
女の身体に力強く腰を打ち付け、彼は精を吐いた。固い勃起から放られる熱い白濁が膣奥へと叩きつけられ、女はその刺激を受けて軽く絶頂した。女の身体は彼から与えられる刺激に敏感に反応し、手元の黒い手を握りしめて絶頂の快楽に耐えている。
「ふ……っ、ふう……ッ、」
吐精は長く、絶頂の余韻も長い。女の膣内が精で溢れても尚、彼の射精は続けられた。興奮で肉体の感覚の調整ができていないのか、未だに勃起は固く、精も垂れ流しのままだ。
「……、ああ……」
彼は幸せそうに微笑んで、女の身体を優しく、けれどもしっかりと力を込めて包み込んだ。
彼の凌辱は、人の感覚で随分と長いと感じられるほどの時間をかけて続けられた。ぐったりと寝転んだ女の脚を強引に開かせ、持て余した愛欲を再びねじ込み、またどちらかが果てるまで押し付けるような抽送を繰り返す。完全に抵抗をやめた女の様子を見るなり、彼はいたく感動して、上機嫌で女の身体を犯し続けた。「きみ、」「ぅ、」「俺の背に、腕を」矮躯に覆い被さって軽い抱擁を命じ、それが達成されないと分かると激しく奥を突いて怒っているふりをした。「……、」観念した女が彼の身体に触れると、途端に優しい抽送が始まるのである。
「きみ、きみ……俺はお前のものだ、好きなときに好きなだけ、俺に過去の出来事を問うと良い。ああ、そこから推測される未来のことでも構わない。何が知りたい? 俺はお前の力になりたい、」
「……もう、」
女は小さく言った。彼は女の声を聞き漏らさないよう、慎重に耳を傾けた。
「もう、鍾離さんは、帰って、こないのです、か」
彼はそれを聞くなり、瞬く間に感情的になって、その口から炎が漏れ出るのではないかと思うほどに舌を回して激昂した。怒りと嫉妬が瞳の色と呼吸に表れる。神ほどに傲慢で、魔神ほどに人の心を解せず、凡人ほどに直情的で、魔物ほどに暴力的だった。「あんなものは初めから存在しなかった。お前はあれと出会ってすらいない、心を許したこともない、あれはお前に近づくために己の知識を披露し擦り寄って、望みが叶わないと知った途端間違った選択をし続ける愚か者だ、あんなものがいいのか、あんなものが、」あれほど凡人らしく生きた上で女の愛を手に入れようとしていた彼が、己の選択さえも否定してみせた。鍾離に対して罵倒を重ね、暴言を吐き散らし、鍾離という凡人を女から遠ざけようとした。
女の目元は、既に涙でいっぱいになっていた。彼から放たれる言葉の数々を聞いて、ひどい、と一言こぼし、涙を溢れさせた。「ああ、酷い男だ。きみをこんな狭い屋敷に閉じ込め、自分ばかりが得をする交換条件を出し、欲望のままにきみを抱こうとする、浅ましく下劣な男だとも」「ちがいます、」「何が違う、」「やめてください、」今の己と何が変わらないのかさえ彼は気がつかないふりをして、先程まで己であったものを否定する。
女の頬を両手で包み込み、水に濡れた瞳を射貫いた。
「お前が愛したのは俺だろう、」
そうして、傷ついたような顔をしてみせるのである。
「あれは、お前を裏切ってまでお前を手に入れようとした男だ。そんなものに、一体どれほどの価値がある、」
怒りは過ぎ去り、悲しみだけが彼を包みこんだ。「きみ、」女の身体を抱きしめ、また腰を振って女の意識を己へと向かせようとする。強引に口付けをして、女の舌を舐めしゃぶりながら、また寝具を軋ませた。
お互いに絶頂を繰り返し、女が彼の言いなりになった頃、彼は満足した顔で女の頭を撫でた。唇を近づければ女はゆっくりと顔を寄せて、彼の口付けを受け入れた。小さな白い手を掬えば黒い指に細い指が絡められ、彼は望んでいたもののすべてを手に入れた。「愛している、」「はい、わたし、も、愛して、います、」「誰を?」「モラクスさまです、」「そうか、」問答のような掛け合いの中、彼は心の底から嬉しそうに、幸せそうに微笑んだ。
女の心を確かめるためか、何度もそれは続けられた。「お前の愛した相手は誰だ、」「モラクス、さま、です、」「……うん、うん、」頷き、嬉しそうに返事をする。彼がわざと唇の端に口付けると、女は自分から顔の位置をずらして彼の唇を啄んだ。引き締まった腰に脚を絡め、律動に対してよく喘ぐようになり、降り注ぐ声にひどく忠実になった。
「あう、う、あっ! あ……っ、く、う、っ」
「はあッ、……ぁ、ああ、……っ……! ぉ、……ッ、……っ」
優しく腰を打ちつけ、絶頂の快楽に揉まれ、既にぬかるみきったそこに白濁を流し込む。「ぐ、うう……っ!」熱された身体の中に押し込められていた劣情が、女の内側を満たした。「うあ、あ、っ」敏感になった襞は肉棹の脈動を感じ、それに合わせて膣内を収縮させた。精を搾り取られる感覚に、彼は喉を震わせる。「ッああ、……っぐ、おおぉ……っ」彼が幾度にも渡って受け続けた快楽の波は、女の中に精を何度打ち出そうとも薄れることはなかった。
強制的に与えられる快楽の応酬に、女の顔は真っ赤に染まり、頬は光る大粒の涙で彩られていた。快感の細波に小さく跳ねる身体は、彼の瞳にはどうしようもなく蠱惑的に映った。これをいつまでも己のそばに置いておきたい、決して離れていかないようこの身に縛り付けておきたい。「ッぁ、あ、ッ! ー……ッ、ー……!」この花の蜜ほどに甘い時間を終わらせたくないのか、彼は女の身体を揺さぶるのを止めず、恍惚とした表情のまま白い肢体を好きにした。無抵抗となった女に絡みつき、その肉体を嬲り尽くして、本当の愛を得た気になった。愛しているかと問えば、愛していると答えるのだから、疑うまでもない。虚な目に映り込む彼の姿は、凡人の中に棲む魔の形をしている。目的のためにどこまでも人らしくあろうとした、人ではないものの姿である。
二つの交わりはそれからも続き、女が限界を迎え意識を失った頃、彼は甘やかな幸福の中で、少しの間だけ眠りにつくことにした。金色の瞳を隠す瞼が降りる前、そこには彼がいつかの夜に望んだ世界が広がっていた。
ああ、夢のようだ。
ぼやける視界の中でそう唱えて、彼は今度こそ世界を閉じた。