プロポーズの話 その後
注>以前書いた
プロポーズの話の続きです。
「あ?お前太った?」
ぴしり。
そんな効果音がつきそうな程ぴたり、と私の体が固まる。そんな私を他所に蘭は機嫌が良さそうに私の腰に手を回し自分の方に引き寄せる。あまりの事に衝撃から立ち直れず、されるがままの私を蘭は膝の上に背を向けるように座らせてふにふに、とお腹を揉み始めた。それによって止まっていた時間が動き出す。
「や!め!て!!!」
がば、と立ち上がり蘭の手が届かない所まで大きく後退する。蘭は無駄に手が長いので思っていたよりも距離が遠くなった。
「何逃げてんの?」
こてん、と首を傾げるあざとい様子にくっ、と唇を噛む。耐えるのだ私...。こんな仕草に負けてはいけない。絶対わかっててやってるんだから...。
「おら、来いよ〜。」
緩く私を迎えるように手を向けてくる蘭に思わず近寄りそうになる。いや、絆されるな。太った?最近あんまり体重計乗ってなかったけどやっぱり太ってた?食べ過ぎてた自覚はある。でも見ただけで分かるほど?
「お〜い。」
心ここに在らずな私に声をかけ続ける蘭を無視して体重計の置いてある脱衣所に向かう。向き合う時が来たのかもしれない...。ごくり、と唾を飲みながらそっと体重計に足を乗せる。お願い嘘だと言って。
「......。」
数字は嘘をつかない。身につけてる衣装の重さを多めに見積って引いたとしても最後に測った時より2kgは増えてる。あまりのショックに体重計を降り、そのままズルズルと座り込む。
「おいって、無視すんなよー。」
傷つくだろー?といいながら座り込んだ私を後ろから蘭が抱きしめてくる。
「そっとしておいて...。わたしは傷心中なの...。」
「ウケんね。」
わらったような声音で蘭が返事をする。顔を見なくてもわかる。絶対あのいじめっ子みたいな顔してわらってるんだ...。
「なんで2kgの違いなんてわかるの...。」
「あー?毎日見てんだから分かるだろ。」
毎日見てるから分かんないんだよ。大雑把な癖に(比較対象竜胆)なんでそんなこと気づくの。
「...決めた、ダイエットする。」
「ハ?」
「ダイエットする!!蘭も協力してよね!?」
がば、と振り返り蘭を睨む。だって私が太ったのは蘭にだって原因あるんだから!
「もう帰り際にケーキとかシュークリームとか買ってこないで!出来れば目の前でたべるのもやめて!!」
「は〜?ワガママ言うなよな。」
「ワガママじゃない!大体毎日毎日なんでそんなに買ってくるの〜!」
2週間ほど前から急に蘭が甘味を手土産に帰ってくるようになった。最初は後ろめたいことがあるのかと浮気を疑ったが特にその痕跡もなく。私の分と蘭の分を1つずつ買ってくるので食後のデザートにしていた。だが、蘭は毎回半分ほど食べたくらいで甘いの飽きたと言い出し私に食べさせていた。わざわざ手ずから。何度も飽きるなら買うのを辞めるように言ったのに聞く耳を持たず。まぁ、蘭が人の話を聞かないのはいつもの事だが。結局毎度毎度買ってくるそれに手をつけていったのだった。食べるものに罪はないし、残すのは私のポリシーが許さない。しかも日に日に買ってくるものが高級店になっていった。なんにも並ばないと買えないようなやつとか。これは食べなきゃでしょう。その結果がこの数字な訳だが...。
「あ〜?お前も美味しそうに食ってたじゃん。」
「それとこれとは話が別じゃん...。」
「てか、太らせるためだしなー?」
「ハ?」
私の間抜け面を見て蘭がすげぇ顔と笑う。いや、なんて?
「抱き心地もうちょい柔い方が好みだかんな。あともうちょっと肉つけような。」
そう笑って私の腿あたりをふにふにと揉む不埒な手を摘む。
「そ、そんな理由で...?」
「大事だろ〜。てか痛ぇんだけど」
「いやいやいや、......。あの、私今後ウエディングドレス着る予定あるんですけど?」
そういえば蘭は知ってるけど?と平然と答える
「俺の花嫁さんだもんな♡」
「その花嫁さん見苦しくして楽しい?」
「楽しい♡」
結婚やめようかな...。思わずそんなふうに思った私は悪くないと思う。まじでなんなんだこの人。
「てか、言うほど見苦しくねぇじゃん。」
「蘭は身内に結構甘々じゃん〜。他の人に笑われちゃうよ。」
「そしたらオレがボコボコにしてやんよ。」
「いや、そういう事じゃないんだ。」
太らせるの辞めれば済む話なんだよ...。はぁ、とため息をついて蘭の顔を両手で包む。
「お?なに、チューしてくれんの?」
「違う。あのね、蘭が良くても私が嫌なの。結婚式だよ?人生でいちばん綺麗な姿で蘭の隣にいたいじゃん?」
こんな恥ずかしい台詞言わせないでよ、と顔を真っ赤にしながら蘭に訴えると今まで笑っていた蘭がす、と表情が抜けて真顔になる。
「え。なにこわ...、んっ。」
急に蘭に言葉を奪われる。唇を重ねたかと思うとそのまま蘭の舌が私の舌に絡まり水音が響く。いつまで経っても蘭とのキスになれない私はくたりと腰を抜かして蘭に持たれかかる。そんな私を蘭は両手で抱きしめて唇を離した。
「なんか最近カワイイこと言い過ぎじゃねぇ?」
少し拗ねたような声音で蘭が告げる。私の頭に蘭が顎を乗せて来るので頭が少し重い。
「覚悟決めたからね...。」
「今更な。」
はぁ、とため息を吐いた蘭が私の体を持ち上げる。
「わ、なに!?」
「まぁ、かわいいハナヨメサンにオレも協力しようと思って♡」
「はい!?」
嫌な予感がする。私を抱えた蘭はそのまま脱衣所を出てベッドルームに向かう。
「ねぇ、ちょっと!!」
私の反論にはいはいと生返事を返して蘭が私をベッドに放り投げる。
「蘭?まさかなんだけど。」
「オレ、優し〜からな。」
ニコニコ、と笑って蘭が私に覆い被さる。
「な、な、」
「あ〜あ、こんな優しいダンナそうそういないだろ〜な。」
んじゃ、がんばろ〜な♡と笑う蘭の瞳はその優しげな言葉と裏腹に獰猛な獣のようで私は白旗をあげて身を委ねるしかなかったのである。
2021/06/25
2021/08/31 修正