女はヒトに憧れた。
何故なら、女にはヒトという人物が輝いて見えたからだ。
一人では出来ないことも、二人や三人で――時にはもっと多くの人と手を取り合い、困難な問題や試練に立ち向かう姿は自分には到底真似できないものであったから。
一人で過ごし、一人で戦い、――きっと一人で死ぬ自分にはあまりにも眩しく見えて、そして羨ましかった。
自分には出来ないことをしてのける人間達が羨ましくて、眩しく思えたから憧れてしまった。
化け物である女には有り得ない話なのに。誰かの隣に立つことも、誰かと共に暮らすことも、平穏に日々を過ごすことも、有り得るはずがなくて――そして何より、それは自分自身の否定にも繋がっていた。

ヴリトラ。
神々の復讐のためだけに作り出された創造物。
復讐の道具であり、破壊を振りまくだけの存在が、平穏に暮らすことなどできようか。万が一できたとしても、「復讐のために戦う」という己が使命を放棄していることになる。
――別に、己が使命を放棄することを恐れていたわけではないけれど。
ただ、他にやることがなかった。
人間の真似事をしようにも、そのすべを知らなかった。

だから殺す。
だから壊す。
ただただ殺し、ただただ壊す。
それだけが自分の証明。
それだけが自分の役割。
それだけが自分の――――。

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