「……う……」

ぐらぐらする頭を押さえながら、リトラナは呻いた。どうやら頭を怪我しているらしく、頭を押さえた手がべっとりと血で汚れてしまった。
原因は分かる。先程の戦いで不意を突かれてしまい、頭を槍で貫かれてしまったのだ。幸い避けたが、かわし切れなかったのか頭に傷を負ってしまった。それだけではない、頭の治癒を優先していたら今までの傷の治癒も遅くなり始めている。リトラナはため息をつきながら、自分が辿り着いた森の地面に寝ころんだ。
いくら傷は治るとはいえ、痛みはある。もし見つかってもいいようにと人間の姿に化けていたのも裏目に出てしまった。疲れのせいかぼんやりと薄らぐ意識の中、リトラナは何十年ぶりかに「ヒト」の姿を見た気がした。







カルナは困っていた。
家から少し離れた場所にある森へ入ってみたら、見知らぬ女が倒れていたからである。頭からは血を流し、体のあちこちが傷や火傷だらけでぼろぼろだ。血で汚れている髪と顔と手。人によっては卒倒レベルのものである。
見捨てる、という選択肢はなかった。というか、ここで見捨てたら確実に死ぬレベルの怪我をしているのだ。見捨てるわけには行かない。――見捨てなくても死にそうなレベル、とも言えたが。
とにかくカルナは血塗れの女を背負い、森から一番近い場所にいる医者の元へ急いだ。その間に女が目を覚ますことはなく、医者の元に着いてからも目覚めることはなかった。

「どうして生きているのか分からない怪我だ。ところどころ治りかけているが、それにしたってぼろぼろだ。何をどうしたらこんな目に合うのか……可哀想に……」

医者は憐れむようにそう言った。
治療の際に汚れた顔や体を拭いていたのだが、女は驚くほどに美しい容貌をしていた。金色の髪と真っ白な肌。カルナも白い肌をしていたが、彼よりも少し健康的な色の色白さだった。
紙は濡らした布で吹いただけだが、ちゃんと洗えば本来の色を取り戻すことだろう。

「怪我は酷いものだが、治らないものではない。しばらく安静にしていれば大丈夫だろう」
「そうか」

カルナはほっと息をついた。これで死ぬようなことがあれば流石にいい気持にはならない。すやすやと寝ている女を見て、カルナは安心した。
医者が念の為何日かここで経過を見てみようと言ったので、カルナは去ることにした。目を覚ましたら何故あんな大怪我をしていたのか、どうしてあんな場所にいたのかを聞こう――そう思いながら。
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