かわいいあの子は…(趙雲ダブルオーガンダム)

ネオワールドのハロを無事探し出し、劉備達の旅立ちを見送ってから何日か経った。
オレはと言うと、まだアルセーヌ師匠の店で厄介になっていた。
警察の誤解が解けたアルセーヌ師匠は警察公認のトレジャーハンターとして堂々と愛するハニー(お宝)をトレジャーハントする日々を送れるようになった。
昼間はアンティークショップ、夜はトレジャーハンターの二足の草鞋で忙しいが、師匠はとても楽しそうだった。
オレはそんな師匠に少しでも近づくために今日もこのアンティークショップで働いていた。
一通り仕事を終えて、額に伝う汗を拭いながら古い時計を見れば短針が1の字を少し過ぎていた。
時間が経つのを忘れるくらいに集中してたらしい。
と同時にオレは慌てて掃除用具を仕舞い込んで外に飛び出した。
今から出ればギリギリでっ…間に合う!

大急ぎでオレが駆け込んだのは小さなカフェ。
大きな通りから少し外れた道沿いにあるそのカフェは、ランチタイム限定でとびきり美味くて値段もお手頃なハンバーガーを提供してくれる。
オレが初めてネオワールドに来た時にたまたま立ち寄ってここで食べたハンバーガーの味は忘れられない。
それからは時間とお金があれば必ずと言っていいほど通うようになって、師匠に弟子入りしてからも通い続けた。

でも、オレがここまで熱心に通う本当の理由は…。

カフェのランチタイムは14時までだけど、ラストオーダーが13時半だから店を出た時間を考えると超ギリギリ。
バタン!とカフェの扉を開けて息を切らしながらカフェの時計を恐る恐る見た。
時計の長針は、まだ6の数字を差していなかった。

「よっしゃー!」

思わず叫んでしまった。
そんなオレを出迎えてくれたのはこのカフェの店員でオレがここに通う本当の理由。

「いらっしゃい趙雲。今日もギリギリ間に合ったね」

このカフェで働く女の子、アイリッシュだ。

「オーダーまだ出来るっ!?いつものランチセットで!」
「はいはい。マスター!」

そう言ってカウンターに消える彼女の背中を見送ってオレは近くの席に座った。
アイリッシュはネオワールドの大学に通う学生で、オレと同じくらいの女の子。
まだネオワールドの外へと出た事がなくて、たまに他のワールドから来るお客に外の話しを聞くのが楽しみらしい。
オレがこのカフェに初めて来た時も、「どこから来たの?」って気軽に話しかけてくれたし、彼女と打ち解けるのに時間は掛からなかった。
ランチタイムの時間にオレが来ると、アイリッシュもまかないをオレと同じテーブルで向かい合って食べながら、オレの故郷の話で盛り上がる。
他愛のない話を交えながらのランチタイムは、師匠のところで修行するオレにとってささやかな楽しみになった。

「それでオレが言ったんだ。「オレ達の手でショク・エリアを何としても守り抜くぞ!」って。そこからオレ達は自警団"ドラゴンズウォッチ"としてショク・エリアを守ってきたわけ!」
「すごいなぁ趙雲。私と年変わんないのに」
「だろだろ!幼馴染の劉備のピンチにも駆け付けて大活躍したんだぜ!」
「それ、前にも聞いたよ?確か自分も死にかけてた上に決戦で大遅刻しちゃって慌ててたって」
「え!?そうだったっけ…?」
「お酒入りのコーヒーを飲んだ時にポロッとこぼしてたよ」

そういえば…夕方から夜になるくらいの時間で一緒にいた時、 アイリッシュに酒の入った甘いコーヒーを勧められたことがあった。
夜のディナーで良く出されるドリンクでこれもこのカフェの名物らしい。
特別酒には弱くないはずなのに甘くて美味しかったから何杯も飲みまくって、会話もいつもより弾んだのは覚えてる。
アイリッシュに揺り起こされて気が付いた時にはもう閉店間際だった。
その日は師匠にお使いを頼まれてたのを思い出して…ヴィンテージへ帰ると師匠は特に怒ってなかったけど、次の日から1週間は修行が厳しかった。
やっぱり怒ってたんだと思う。
それよりもそんなへべれけ状態でアイリッシュに何を話しちゃったんだオレ。
話したい事は確かにたくさんあるけど話したくない恥ずかしい事もたくさんあって………!

「ああああオレカッコ悪い…オレ、何か変な事言ってなかった!?」
「あの時…は、故郷の幼馴染さん達の事ぐらいで後は、何も」

アイリッシュの言葉にホッと胸を撫で下ろす。

「その人達の話してる趙雲、すごくうれしそうだったよ。あーあ、私も他のワールドに行ってみたいなぁ」

窓の外、背の高いビルの景色を眺めるアイリッシュ。

"いつか世界中を旅して回りたい"

彼女がいつか話してくれた自分の夢。
その夢を叶えるためにバイトしてお金を貯めていると言う事も教えてくれた。
外を眺める彼女の横顔が、とても綺麗で見惚れていたオレは突然アイリッシュが立ち上がったのに思わずわぁ!?と情けない声が出てしまった。

「決めた!私の世界旅行、記念すべき最初の目的地は趙雲の故郷キングダムワールドにする!」
「ええっ!?キングダムワールド!?」
「ゴ・エリアの空中都市にギ・エリアの最先端トリニティ技術、そしてショク・エリアのドラゴンズウォッチ!趙雲の話聞いてたら行きたくなっちゃった」
「いやアイリッシュ、ドラゴンズウォッチは自警団だし名物ってほどじゃあ…」
「そしたら案内してよね、趙雲?」

陽だまりのような笑顔がオレを照らす。
そんな可愛い笑顔で言われたら…オレは首を縦に振るしかなかった。



「ふむ…それでその後は普通に食事と会話を楽しんで帰った、と。それだけ仲睦まじいなら口説いてしまえばいいものを」

我が弟子ながらレディの扱いがなってないなとお気に入りのカップを口に運ぶアルセーヌ師匠。
今日の紅茶はベルガモットがほのかに香るアールグレイだ。

「く、くど!?確かにオレとアイリッシュは仲がいいけどまだ友達程度だし…」
「男と女の始まりに時など関係ないものさ。出逢った瞬間に恋に落ちる時もあれば、友人のような関係からゆっくりと恋を楽しむ事だってある。お前の場合は後者だったというだけで何もおかしな事はないのさ」
「し、師匠っ…!」

流石は師匠…恋愛面のアドバイスも大人でカッコ良い。
オレも師匠みたいな大人の男になりたいなぁ…そしたらアイリッシュに愛の言葉を囁くなんて簡単だろうに。
俯くオレを見かねたアルセーヌ師匠が少し考え込むような仕草をして、紙とペンを取った。
サラサラといくつか文字を書き連ねると、その紙をオレに差し出した。
もしかして口説き文句のカンペ…?
一体どんなカッコ良いセリフを書いたんだと、少し期待しながら受け取った紙には、師匠がよくティータイムに飲む茶葉のリストが書かれていた。
え、何でここで紅茶?

「実はお前の通い詰めているカフェは私も普段からお世話になっていてね、あそこのマスターが出しているオリジナルブレンドの茶葉は格別に美味しいからよく買っているんだよ。丁度今日飲んだ分で終わってしまったからこれから買いに行ってくれないか?」
「これからって…」

時計を見ればもうすぐ6時を示そうとしていた。
この時間帯はディナータイムが始まるからカフェは大混雑状態で店頭の会計だけでも時間がかかる。
会計が終わった頃にはもう夜遅くになるだろう。

「明日じゃダメなんですか?」
「明日の朝のティータイムに間に合わないだろう?それにこの時間ならそろそろ彼女の仕事は終わるはずだ」
「!」
「暗い夜道をレディ1人歩かせるのは大人の男にとってナンセンスだ。お前も男なら、愛しい彼女をエスコートしてあげなさい」
「っはい!行ってきます!」

紅茶のメモを握りしめてオレは外へ飛び出した。
彼女へ会いに行くために。



ネオワールドの夜は賑やかだ。
町の至る所に街灯があるから夜でも昼みたいに明るい。
でもアイリッシュの働くカフェは大通りより光の届かない路地裏に近いから夜になると真っ暗だ。
女の子1人だけだと不安だろうな。
最近は日の入りが早くなったから暗くなる前に上がれるように調整してもらってると、いつだったかアイリッシュが話してくれた。
カフェに近付く度に胸がドキドキうるさい。
走ってるだけじゃない、これは、きっと…。
あの角を曲がればカフェのある路地はもうすぐだって思った時、下品に笑うような声と女の子のいい争うが聞こえた。
おいおいおいこの声って…!

「そこどいて。今日は早く帰らないと見たい番組が終わっちゃうの」
「へへ冷てぇなぁ、ちょっとオレ達と遊んでくれたら帰してやるよ」
「まぁオレらのちょっとはかなり長いけどなぁ?」
「…っ!」
「おっと、ここで叫んだって誰も助けに来ないぜ?諦めてオレ達と来いよ!」
「やっ…!」

ガッ。

「……っセーフ!何とか間に合った!」

アイリッシュが下品な男に掴まれる直前、太い男の腕を横から鷲掴んだ。

「何だてめぇ!」
「…汚い手でアイリッシュに触んなよおっさん!」

ギリリと力を込めれば、痛みで腕を捩って男が一歩後ずさった。

「んだとこのガキ!」
「…あ!こいつよく見たらあの指名手配されてた悟空ってガキと一緒にいた奴だ!」
「何!?って事は…アニキの仇!ここで討たせてもらうぜ!」

先頭の男の声で他2人と同時にオレに襲い掛かってきた。

そして、数秒で撃沈した。

パンパンと手を払って積み上がったおっさんズの山。
オレ武器は師匠んトコ置いて来たから多少手こずるかと思ったけど、殴りかかったり蹴りかかってくるのを軽くかわして逆に投げ飛ばしたり足払いしたらあっさりと倒せた。
見た目がイカつい割に弱かったな〜。
仇が何とか言ってたけどまあいっか!

「趙雲…」
「アイリッシュ!大丈夫か?どこか怪我してない?」
「うん。趙雲が駆けつけてくれたから大丈夫だよ」
「そっか…良かった」
「…ありがとう、趙雲。今日はちょっとカッコ良かったよ」

少し気恥ずかしそうに笑うアイリッシュに間に合って良かったという安堵と愛しさで顔が綻ぶ。
ああ、やっぱりオレはアイリッシュのことを…。
やっとわかったオレの気持ち、すぐにアイリッシュに伝えたいけどまた今度だな。
今日は彼女を家までちゃんと送って、また明日カフェに行こう。
オレはアイリッシュに手を伸ばした。

ガチャン。

…オレの手首にひんやりとしたものが巻き付いた。
アイリッシュの手って冷たいんだなとかそういう冷たさじゃなくて結構最近に感じたこの感触…まさかと思ってアイリッシュの目の前に出した手を見ると、銀色の手錠がオレに掛けられていた。

掛けたのはこのキャプテンシティの治安を守る正義の男、サージェントヴェルデバスターだった。

「ヴェルデバスターっ!?何でアンタがここに!?」
「それはこっちのセリフだ。あの一件で善良な男だと思っていたのに残念だ…。婦女暴行の現行犯で逮捕する!」
「待て待て待て待て!オレは襲われてるアイリッシュを助けたんだって!襲った奴らはオレがちょちょいとやっつけたし…」

ほらそこ、と手錠を掛けられた腕で必死に指を差したけどあのおっさんズはいつの間にか消えていて、残されていたのはここにいる3人だけだった。

「…言い訳は署で聞いてやる」
「だから違うんだってば!」
「趙雲の言ってることは本当だよ」
「何?」
「バイト終わりを待ち伏せされてたみたいなの。もし彼が駆け付けてくれなかったら、多分私は無事で済まなかった」
「しかしリッシュ…」
「かわいい姪っ子の言葉、信じてくれないの?」
「…分かった。君の言葉を信じよう。それに、彼は悪事に手を染めるような男ではないからな」

身の潔白を何とか証明しようと必死に主張するオレをアイリッシュはフォローしてくれた。
被害者の証言にヴェルデバスターの険しい顔が少し緩む。
彼女の証言を信じたヴェルデバスターはオレの手錠をようやく外してくれた。
はぁ〜アイリッシュがいてくれて助かっ…ん?

「め、い…?え、ちょっと待って。アイリッシュとヴェルデバスターってどういう…」
「あれ、言ってなかったっけ。この人はサー叔父さん。私のお母さんの弟さんなの」
「ええええええええーーーっ!!!?」

オレは絶叫した。
それはもうキャプテンシティ中に響くんじゃないかってくらい盛大に。
だってこんなに可愛いアイリッシュの叔父さんがヴェルデバスターだなんて信じられないだろ普通!

「叔父さん、趙雲と知り合いだったの?」
「ああ、仕事の関係でな…趙雲」
「は、はい!」
「今日はアイリッシュを助けてくれたこと、彼女の両親に代わって礼を言う。彼女は私が送って行くから君も帰ると良い」

そう言ってヴェルデバスターは明るい道の方へ歩いて行く。
駆け付けた時に乗って来たバイクがあるのだろう。
本当はオレがアイリッシュを送って上げたかったけど、相手は親戚、しかもヴェルデバスターだからどうしようもない。
あーあ、今日は師匠の紅茶を買って帰るだけか…。
足取り重くトボトボとカフェへ向かおうとしたその時、趙雲、とアイリッシュの呼ぶ声がしてそっちに振り返った。
と同時にオレの視界を埋め尽くすアイリッシュの綺麗な顔とオレの唇に当たる柔らかい感触。
ちゅ、と可愛らしい音が響いてアイリッシュが離れて行く。

「…また明日、待ってるからね」

バイバイと笑ったアイリッシュは足早にヴェルデバスターの待つバイクの方へ走って行った。
残されたオレはと言うと、今何が起こって何をされてしまったのか整理し切れないでいる。
振り向いた瞬間に近付いたアイリッシュのドアップの顔とオレの唇に触れた感触が頭から焼き付いて離れない。
最後の彼女のセリフが頭で何度も照れた顔と一緒にリピートされる。
ああもう、明日どんな顔で会えばいいんだよ!

「好きになり過ぎだろオレ…っ!」

さっきの1シーンがずっと頭の中を駆け巡ってまだまだ止まりそうにない。
オレはその場で愛しい彼女が頭から離れてくれるまで悶えるしかなかった。


かわいいあの子は……"戦慄のヴェルデバスター"の姪っ子でした☆


「彼女がヴェルデバスター君の姪っ子?もちろん知っていたよ。たまーにヴェルデバスター君もカフェへ訪れるからね」
「何で教えてくれなかったんですか!?」
「スリルを味わうのも私のような大人になるには必要なんだよ。しびれる展開だっただろう?」
「しびれるどころかジャスティスレールガン喰らった気分でしたよっ!!!」