3話
3話
「あなた、寝る前に私たちの分までお弁当作ったの?無理しなくていいのに」
「んえ?私じゃ……」
午前五時四十五分。寝ぼけた目をこすってリビングへ向かうと、父、母、私の分のお弁当が食卓テーブルの上に置かれていた。
確実にセイバーさんだ。料理できるってマジだったのか。良い匂いする。できない可能性を疑っていた自分に罪悪感が湧くレベル。
母は私の言葉を不思議に思ったのか首を傾げる。
こういうときはどうすればいいか。
「?あなたが作ったんじゃないの?」
「あ、いや、うん。私!頑張って作ったから美味しくできてたらいいな!!!」
ヤケクソである。今私は大嘘つきになった。
家族全員分の朝のお弁当まで作るなんてそんな、睡眠欲に勝てるわけが無い。こちとら親不孝では無いけど親孝行とまではいかない娘なのだ。
グラノーラをお皿に入れ牛乳を注いで右手に持ち、左手にはお弁当、口にはスプーンをくわえてバタバタと自分の部屋へ駆け込む。危ないでしょ、と母親の注意する声を聞き流してドアを閉める。
「セイバーさん!」
「後ろだよ」
「わっ」
シュン、とセイバーさんが私の後ろから現れる。なんかよく分からないけれど、サーヴァントってすごい。
「お弁当作ってくれたんだよね、ありがとう」
「自分から言い出したことだからね」
美味しそうだろ?とセイバーさんが笑う。今の口調、同級生みたいだ。いや、実際同い年くらいなのかもしれない。
その割には落ち着いているし、手早く朝食を口にかき込む私を見ても何も言わないのは正直助かった。
「さて、学校に行こうか」
「……セイバーさんも一緒に?」
「護衛だよ」
「ご、ごえい…」
私はお嬢様にでもなったのだろうか。こんなイケメンと……?などと思ってはいたが、「最悪死ぬからね」というセイバーさんの言葉で「お願いします」と即決せざるをえなかった。
「服は……大丈夫そうかな」
セイバーさんは上着を脱げば現代に馴染む格好をしている。タイにつけられた宝石がキラキラとしていることを除けば、別に気になることは無いだろう。
「宝石が気になる?」
「…あ、いや…」
別に特別キラキラしたものが好きなわけじゃなくて、いや嫌いではないけど、と弁解する私に、「分かってるよ」と微笑みながらセイバーさんはタイを外して、私に握らせた。
……握らせた?
「!?!?!??何してるんですか!?」
「え?いや、欲しいならあげようかなって…」
「こんな大きなものを!?」
「別に与えられたからつけてるだけで思い入れはないからね」
いやそれにしても、である。
ピンク色?いや、紫にも見えるそれが手の中で瞬く。まるでセイバーさんの瞳みたいだ。
「あ」
「?」
「気が付かなかったけれど、マスターの瞳に少し似ているね」
「私黒目ですけど!?」
「はは」
セイバーさんが「そうじゃないんだけどなあ」と言いながら、私の鞄を持ち上げる。あれ、まさか荷物持ちまでするつもりなのだろうか。
「セイバーさん!!!!そんなことしなくていいですから!!目立つので!!!」
「誰かいるのー!?」
「なんでもないよお母さん!!!」
「我がマスターは面白いなあ」
「面白がらないで…」
「ごめんね。じゃあ下で待ってるよ」
「下で…?……え?なんで窓開けて」
「しょっ」
「!??!?」
母に見つからないように、部屋の窓から飛び降りたセイバーさんに卒倒しかけながら、慌ただしく私は家を出ていった。