※十指老緑続き
御手杵と万屋に行ってきて、と主からメモを渡された。
俺が?御手杵と?
主が一緒に行けば良いじゃん。
それ口にすると主は、これから第三部隊の戦評定だから、と申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせる。
第三部隊?安定のとこじゃん。
別に主がいなくったって、と思ったところでその続きを考えることをやめた。
だって、それを言ってもこの人は多分買い物に行かない。
自分のことよりも、これから戦場に赴く男士達のことを絶対に優先する。
うちの主はそういう人だ。
ま、そういうとこが良いんだけど。
任せて、とメモを受け取り、三名槍の一本を部屋まで呼びに行った。
「これで全部か?」
「あー、ちょっと待って…」
両手に荷物を持つ御手杵に聞かれて、主から預かったメモを今一度確認する。
買っていないもの、あとは髪留めか。
どうせいつも使ってる、黒くてなにも付いていないやつのことだ。
あれ、全っ然可愛くないんだよね。
主は可愛いんだからもっとお洒落すれば良いって、ずっと言っているのに。
この際だから、とびきり可愛くてお洒落なものを買っていってやろう。
そんなことを考えながら、あとは主の髪留めかな、と言うと彼は素直にわかったと返事をした。
「それにするのか?」
「可愛いし主に似合いそうでしょ」
「そうかあ?」
色とりどりの髪飾りの中から、俺が手に取った老緑の髪留めを見て、御手杵は首を傾げる。
「俺はこっちの方が良いと思うけど」
「なんで?」
「んー、よくわかんねぇけど…俺は赤って感じがするんだよなあ」
鮮やかな赤色の髪留めを指差しながらそう言った御手杵と目が合うと、彼はあっと目を見開く。
そして、あんたとよく一緒に良くいるからかもな、とその槍は笑った。
その時、俺の中で何かがぷちんと千切れたような気がした。
「…あのさ」
主の爪紅、何色か知ってる?
急に俺が意味のわからない質問をするから、御手杵はポカンとする。
「緑色なんだ、そう、ちょうど御手杵の服みたいな色してんの」
ふーん、と大して興味がなさそうな返事をした槍を見ていると、段々いたたまれない気持ちになってくる。
ほら、やっぱりあんなのじゃ全然伝わんないよ。
主からは言うなって言われているけど、俺はこんな状況で黙ってなんかいられなかった。
「御手杵が好きだから緑色を選んだ、って言ってたとしたら…どう思う?」
その言葉を聞いた御手杵が驚いたような顔をしたと思えば、珍しく口ごもる。
「そりゃあ嬉しい、けどさ…」
そんなの偶然だろ、とばつが悪そうに赤く染まった頬を掻いた。
その様子を見た俺は、気付く。
ねえ、主の言ってたこと、間違ってる。
あんたの気持ち、三名槍が一本に向けたって困ることなんて何もないじゃん。
「はいはい、初期刀の俺が言うんだから主は緑が似合うんですー」
「うえー…ホントかあ?」
なあ、とか、おーいとか呼びかける槍を無視して俺はさっさと会計を済ませる。
可愛い髪留めも買えたし、わかったこともある。
あとは。
「それ、主に渡しておいて」
「俺が?そういうのはあんたが行った方が…」
「良いから!御手杵が行ってきて、それと、俺が選んだとか言わないでよね」
なんでだよぉ、と文句を言う御手杵の右手から荷物を取り上げて、さっき買った主の髪留めを押し付けた。
初めは困ったような顔をしていたくせに、それを見つめて少し嬉しそうに笑ったの、俺知ってるからね。
だから主には、鮮やかな赤色なんかじゃなくて。
渋くて深い緑色が、よく似合う。
赤褪せて、緑染まる
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