※御手杵不在


とても綺麗な色の、ネイルを買った。
万屋で見つけて、一目惚れして。
それが綺麗な色だったのもあるけれど、きっとあの人の色に似ていたから。



「清光、いる…?」


「主?どうかした?」


「あの、その…」



普段お洒落なんて無縁だから、いつもお洒落な彼に頼もうと部屋まで来たものの、何となく気恥ずかしくてなかなか言えなくて。
私がもごもごしていると、清光が手元のネイルに気付いて指を指す。



「それ爪紅じゃん、買ったの?」


「あ、うん…万屋で見つけて、良いなって思って」



良いじゃん良いじゃん、と目を輝かせた清光。
私がそういうのに興味を持ったことが、きっと彼は嬉しかったのだろう。
主はもっと可愛くお洒落しなよ、と彼を選んだあの時から幾度となく言われてきたのだから。
俺が可愛く塗ってあげる、と彼に手招きされて私は小さく頷いた。
言われるがまま清光の前に座り、持っていた小瓶を渡すと、彼は手慣れたようにそれを振って蓋を開ける。
ふわりとネイル独特の匂いが鼻を掠めて、慣れない私は顔をしかめた。
清光がそっと右手を取ると、私の爪は1つずつ丁寧に老緑色に染まっていく。



「なんか、この色さ」


「うん」


「御手杵みたいな色だよね」



ある男士の名前が彼の口から出てきて、途端に身体中が熱くなったのがわかった。
それと同時に動揺し過ぎて、塗っている途中なのに手を引っ込めてしまったら、清光にとても怒られた。



「え、じゃあこれ買ったのってさ」


「い、言わないで!御手杵には、絶対…」


「わかったって、言わないから」



私は、御手杵が好きだ。
いつからかはもうわからないが、彼の優しさや笑顔に惹かれて気付いたらそうだった。
誰かを好きになったことがなかったし、ましてや刀剣男士の誰かを好きになるなんて思ってもなかったけれど。
この気持ちが嘘じゃないことは、私が1番良く知っている。
だって、好きな人が身に付けているものの色を選んでしまうくらいだ。
それが恋じゃないのなら、何だというのだろう。



「でもさ、御手杵はこういうの気付かないタイプだと思うけど」


「こういうの?」


「爪紅の色が自分と一緒なんて、気付かなさそうじゃん」



主はそれで良いの?と聞かれる。
それで良いと、私は答える。
だって、この気持ちを本人に伝える気もないし、伝わってほしいとも思っていないから。
きっと人間からそんな感情を向けられても、彼を困らせるだけだ。
そもそも、三名槍の付喪神とこんな大した力もない審神者では、到底釣り合わない。
それに、例え結ばれたとしても、私は必ず彼を置いていってしまう。
困らせたり、悲しませるようなことをするくらいなら、その想いが言えなくったって良い。
そう言うと目の前の彼は、なにそれめちゃくちゃ愛されてるじゃん、と不服そうに唇を尖らせた。



「出来たよ」


「ありがとう、清光」



凄く、綺麗。
流石、加州清光だ。
手の甲を顔に近付けて左右に傾けると、ネイルの艶が際立ち、老緑がより美しく見える。
それがとても嬉しくて、つい口元が緩んでいると、ねえ主、と清光に声をかけられた。



「今の主が、1番可愛いよ」


「清光が綺麗に塗ってくれたからかも」


「…そうじゃなくってさあ」



恋する女の子はこの世で1番可愛いの、と言われても、そんなの私には適用されないと思ってる。
爪の色1つで、そんなに人は変われない。
けれど。



「似合ってるかな、この色」


「悔しいけど、すっごくね」



大好きな彼の色が似合うというなら、可愛くなるのも悪くない。



十指老緑に色付く


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