いつものように、ヘブラ山での訓練を一通り終えて村へと帰る途中。
村までの帰路にあたる道にも異常がないか、見える範囲で見渡しながら村の方向へと飛んでいく。
それが、僕のお決まりのコースだ。
普段は特に何もなく村まで帰るが、この日は降雪も比較的少なく視界も良好だったからか、普段とはほんの少しだけ違う光景が上空から見えた。
ヘブラ山脈の登山口を少し超えた、カルーガ峠あたりにぽつんと、置き去りにされたように何かがあった。
魔物かなにかが群れでも逸れたか、と思い1度周囲を旋回し、背に背負うオオワシの弓を鉤爪で掴む。
だが、徐々に高度を落としてよく見れば周囲の白い雪が真っ赤に染まっていた。
「…シーカー族か、こんなところで」
魔物にでも襲われたか、なんて思いながら真っ白の雪の上にそっと降り立つ。
そいつが被っていたであろう、一族の特徴的な模様が描かれた笠は、縁も首紐も切られて地面に投げ出されていた。
右手の小刀はまだ手に握られていたが、もう片方の小刀は無力な左手からこぼれ落ちている。
よく観察すれば、魔物に襲われたにしては切り傷が多く、不自然な点がいくつかある。
「なにか訳でもありそうっていうのかい」
こんなところであと1時間も放っておけば、必ず手遅れになる。
いや、今は辛うじて息はあるが、連れて帰ったところでこのあと助かるかどうかもわからないけれど。
防具が汚れるのはあまりいい気はしないが、まだ息のあるやつを異種族であろうと見過ごすわけにも行かず、村まで連れ帰ろうと背中を貸した。
「…これは、かなり重症かと」
「やっぱりね」
腕のたつ医者を族長に呼んでもらったが、そいつですら険しい顔をした。
腕や足の切り傷はまぁ軽いとして、右脇腹に受けた傷が深すぎる。
それに倒れてから時間が経っていたのであろう、手足の凍傷も進行していたようだ。
「全力は尽くしますが…」
「仕方ないさ、どんな事情であれこんな軽装でヘブラ山に挑む方が悪いね」
ふん、とそっぽを向くと、医者はそれもそうですね、と苦笑いしながら治療を始めた。
- / next
cover
top