僕の拾ってきたそいつは、三日三晩眠り続けた。
僕が訓練でいない昼間は、族長の呼んできた医者が治療と傷の具合を確認している。
意外と傷の治りも早いようで、回復に向かっていると聞いた。
まぁ、最悪の事態になるよりは幾分マシだ。



「ん…」


「おや、ようやく目を覚ましたかい?もうおはようなんていう時間じゃあないよ」



4日目の晩にして、そいつはようやく目を覚ました。
灯りの下で僕が日課の弓の手入れをしながら声をかけると、そいつは布団からガバっと起き上がった。
枕元にキレイに並べておいた服と荷物をちらと横目に見ると、左手をスッと小刀に添えて、こちらを警戒しているのが背中越しにもわかる。
面白い。
少し、驚かしてやろうか。
僕の前に置いていた矢筒から一本矢を取り出し、向こうからは見えないようにそっと弓に添える。
振り向いた瞬間弓弦を引き、照準をそいつの額にピタリと合わせてやった。
そいつも僕の動きに瞬時に反応して立ち上がると、小刀を素早く鞘から引き抜き鋒を僕の喉元に向ける。
そいつの瞳は家の灯りが反射しているせいなのか、恐ろしいほどに鋭く、赤く光る。
少しからかってやるつもりが、眼力だけで僕をここまでゾクゾクさせるとは。
面白くなって、つい僕が一人笑い始めると、そいつは先程の同一人物とは思えないくらい、間抜けな顔をした。



「いいね、戦士としては申し分ない動きだよ」


「……、」


「でも、命の恩人に対してそれはあんまりじゃあないかい?」


「それは!申し訳ない…っ!」



短い唸り声をあげながら、そいつは布団の上に片膝を着いて右脇腹を押さえた。
腹の傷がまだ癒えていないくせに、そんな動きをするから。
いや、今のは僕がからかったからか。



「怪我人は大人しく布団でも被ってなよ」



聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、もう一度申し訳ない、と呟くと、そいつはさっきまでさんざん寝ていた布団にまた戻り、掛け布団を鼻まで隠れるほど引き上げた。



「君、あんなところで寝転がって、どういうつもりだったんだい?」


「…それは、」



僕が見つけてなきゃ今頃この世にはいないよ、と溜め息混じりにいうと、そいつはぽつりぽつりと事の経緯を話し始めた。
どうやら、僕の推測は正しかったようだ。
こいつが襲われたのは、魔物ではなくあのイーガ団とかいう連中。
魔物にしては、やられ方がどうにもおかしいと思っていた。
ゲルド地方の辺りで何やら集まって活動してるとかしてないとか、風のうわさで聞いたことはあったが、こんなところまで来ていたとは。
何をコソコソとやっているかなんて、僕が知ったことではないがわざわざご苦労なことだ。



「それで?見たところ、君は遺物の研究を熱心にしているようなシーカー族には見えないけど?」


「私にはそういった才はありません、ので…」



僕が少し意地の悪い言い方で聞くと、萎れたような声でそいつは答えた。
聞けば、こいつは村から貴重な古代パーツを盗まれとかで、村の長から取り返すよう任じられたそうだ。
そのためにカカリコ村から遥々犯人を追って、ここまでやってきたという。
だが、探しもののそれはゲルド地方のアジトまで持ち帰られていた挙げ句、すでに壊されてしまっていたらしい。
そして追い討ちをかけるかのようにあの雪山に追い込まれ、仲間に待ち伏せまでされて、あのザマだったと。



「…無駄足でした」


「まあそういうことだってあるさ、とりあえずさっさとその怪我を治したらどうだい?」



はぁ、とそいつは溜め息を付くとそうですね、と布団を被りなおし、また目を閉じた。
もう一度眠りについたことを横目で確認すると、僕は弓の手入れを再開した。




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