案外移動の疲れでもあったのだろうか。
結局、あの後の記憶はあまりない。
身支度を済ませ、リビングに向おうと部屋の扉を開けると、コーヒーの良い香りが漂ってきた。
テーブルには、焼き立てのパン、湯気の立つスープ、細かく砕いたきのみがトッピングされたサラダと、美味しそうな朝食が既に並んでいる。
台所に立つ彼女の後で漂うランプラーが、僕に気付くとゆらゆらと揺れながら鳴いた。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「えぇ、とても」
朝食良かったらどうぞ、と勧められたので並べられたお皿の前に座ると、淹れたてのコーヒーが目の前に置かれる。
こんな朝食、いつぶりだろうか。
手を合わせいただきます、と呟くとナマエは僕の方を見ながら優しく微笑んだ。
「そういえば、こちらでは何かなさる予定ですか?」
「なにも…本当に友人の代わりに来ただけだから」
「そうですか…」
ナマエは先ほどの笑顔とは異なり、少し困ったように笑った。
そんな反応にもなるだろう、彼女は悪くない。
旅行なら、何かしらの目的を持って来てると思うのは普通だ。
あまりオススメできる観光地もありませんが、と話そうとしたところで彼女の口からその続きは出てこなかった。
きっと、気を使ってくれたのだろう。
「観光だけが旅ではないですから、立ち入ったことをお聞きしてすみません」
「いや、良いんです…今日はゆっくりしますから」
昨日もしただろう、と自分で言いたくなるぐらいだったが、適当に笑って誤魔化した。
そんな僕に対しても彼女は、変わらず笑顔を返してくれる。
「私はこれから巨人の寝床というところまできのみを取りに行ってきます、もし何かあれば村長さんを訪ねてください」
「わかりました、お気をつけて」
もこもこと防寒着を着込んで、大きなかごを抱えると彼女はそう言って出かけた。
ランプラーも僕に腕をひらひらと振ると、ナマエを追うようにドアの隙間からするりと出ていった。
朝食を済ませ、のんびりとコーヒーを一口飲みながら窓の外を見れば、出かけていった2人がまだ小さく見えた。
ランプラーが彼女の周りをぐるぐる回っている。
朝食の皿はそのままでいいと言われたが、どうせ何もしないんだ。
片付けるくらい手伝ったって良いだろう。
それが終わったら、そうだ、昨日駅で買った雑誌でも読むことにしよう。
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