「…ナマエ、表に出なよ」
「え?」
「俺が相手してやっからよ」
そうねえちゃんに言うと、驚いたような、困ったような顔をした。
あぁ、言い方が悪かったか。
強くなりたかったんだろ、と言い直すと、そうだけど、と歯切れの悪い返事をした。
「おじさんしまキングなのよ」
「そうなんですか…え?」
「なんだよ、そんな顔しちゃって」
しまキングってあのしまキングですか、と聞いてきたので、それ以外何があんだよ、と少しぶっきらぼうに答える。
ねえちゃんは意外、とでも言いたげな顔をしていた。
失礼しちゃうよ。
ホントにバトル出来ませんからね、と2回同じことを言って、ナマエは渋々俺に付いて交番の外に出てきた。
その言葉は正しくその通りで、本当に、バトルは出来なかった。
「…そりゃないよ」
「だから出来ないって言ったじゃないですか」
2回も言いましたけど、と膨れっ面をするねえちゃんに深い溜め息を吐く。
まさか、攻撃できる技を1つも覚えてないなんて。
何も出来ず、ペルシアンに散々玩具にされたポリゴンZは、もう勘弁してくれと言わんばかりに小さく鳴きながら、ねえちゃんの後ろに隠れた。
聞けばこのポリゴンZ、バトルのために連れているわけじゃないと言う。
こいつにはナマエの研究データが記録されており、謂わばデバイスの機能を備えているらしい。
言っておきますけど機密情報ですからね、と他言無用と俺に念を押した。
確かに、連れているポケモンにそんなものが入ってるとは思えないから、隠し場所としてはいいのかもしれない。
それにバトルをほとんどしたことがない、とナマエは恥ずかしそうに小さく呟いた。
小さい頃から神話とか科学とか、そんなことばっかりに夢中で、ちっとも戦わせることには興味がなかったようだ。
どんなにポケモンの知識があっても、どんなに技や相性を熟知していても、それをバトルに使うことはなかったと明かした。
「だから代表を、止められなかった…どんなに知識があったって意味なかったんです」
ねえちゃんは、自分の力のなさを嘲笑うようにへらっと笑った。
無理して笑っているのなんて、誰が見たってわかるっての。
「…今からでも遅くねぇよ」
そう言ってやると、それを聞いたねえちゃんは目を丸くした。
そしてその瞳は次第に濡れて、今にも涙が零れ落ちそうだった。
慰めるかのようにねえちゃんのポリゴンZは、胴体から離れ離れになった頭と、楕円形の尻尾のようなものを小刻みに振るい、鳴き声を上げる。
私に出来ますか、と小さく呟いたねえちゃんに、おじさんを誰だと思ってんの、と鼻で笑ってそっと頭に手を乗せる。
その言葉を聞くと、ナマエは何かを決心したように、涙で潤んだ瞳を拭った。
back / next
cover
top