よろよろと後退りぐらりと身体が揺れると、ヌメルゴンはそのまま轟音と共に地面に倒れ込んだ。
その足元は何ヶ所も抉れ、元あった訓練場の形を留めていなかった。



「け、決着…」



おれは審判を頼まれていたはずなのに、情けない声しか出なかった。
それくらいには、このポケモン勝負に圧倒されていたから。
激闘の末に勝利したのは、ノボリさん。
あーあ、と肩を落とし溜め息を吐き出すナマエさんに、ノボリさんは手を差し伸べる。



「今日も負けちゃったか」


「いえ、僅かながらわたくし達がナマエを上回っただけです」



いつもそう言う、と口を尖らせ拗ねたように言うナマエさんに、ノボリさんは宥めるかのようにそっと背中に手を置く。
その時のノボリさんは、いつもと同じ顔つきをしていたはずなのに、とても優しく微笑んだように見えた。



「ちょっと、あんた!」


「げっ…隊長!あの、これは」


「言い訳するんじゃないよ!どうせまたあんた達は派手にやったんだろう!?」



上司に怒られる部下を見て、可笑しそうにふと笑ったノボリさんに声をかける。



「ノボリさんのあんなに本気を出した勝負、おれ見たことありませんでした」


「え?…ええ、まぁ」


「…?」



少しだけ、言いづらそうに言葉を詰まらせるノボリさん。
不思議に思って見ていればぱち、と視線が合い、ノボリさんは少し目を開くと観念した、と言うように小さく口を開く。



「その…妻には、負けられませんので」



そう言って、ノボリさんは被っている帽子の鍔を下げて俯いた。
ひとしきり怒られてきたナマエさんは、どうかしたの?とおれとノボリさんを交互に見る。
そうか、あの本気は、そういうことだったのか。



「…それはさておきテルさま」


「はい?」


「この後わたくし達はイモヅル亭で食事をして帰ります」



良かったらご一緒に如何です、と2人が並んでおれを見る。
そんなの、さっきの事を聞いたら。



「あー、おれ博士のところ行かなきゃいけないんでした!」


「そう?残念ね」



せっかくですけどすみません、と乾いた笑い声で誤魔化す。
そんな夫婦水入らずの食事、おれが居ていいわけもないし、気まずいに決まってる。
この人達はそんなこと、ちっとも考えてなんかいないのかもしれないけれど。
訓練場の門を潜って、笑いながらイモヅル亭へと向かう2人は、なんだかとても幸せそうだった。
だってこうして見ていると、あんな尋常じゃないポケモン勝負をする人達には見えなくて、ごく普通の夫婦だったから思わず溜め息が出てきてしまう。
警備隊としてムラを守って、訓練場でみんなにポケモン勝負を広めて。
好きな事をしながら、好きな人と一緒にこの地で暮らしている。
その幸せの意味を知るのは、おれにはまだ早そうだ。




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