ヒスイ地方の、とあるムラ。
私が不思議な旅をしてから、幾らかの月日が経った。
「…できた!」
完成した金属製の小さな箱を開ける。
共に暮らす2匹のポケモンが、私の声に反応し、各々中を覗き込もうとする。
まだなにも入ってないよ、と言うとオオニューラはつまらなそうに居間の座布団へ戻っていく。
マニューラはなにか気になるのか、私の作業机に小さく鋭い鉤爪を食い込ませ私を見上げる。
「定礎箱っていうらしいの、中に図面とか大切なものを入れて建物に埋め込むんだよ」
完成したムラの灯明台の下に埋めようと、それっぽく箱を作ってみた。
見た目も密閉性も、まあまあ良し。
金属加工にはまだあまり慣れてないけれど、上出来だ。
中に入れるものも、もう決めてある。
まずは、このムラと灯明台の設計図。
もちろん自分で設計して、描いたものだ。
次に、私が不思議な旅をした時に記していた団員レポート。
ボールペンという便利な筆を借りて書いたものだ。
このレポートには、このムラを創るための重要な技術が書き留めてあり、私が向こうで過ごした毎日も全て綴られている。
私にとってはかなり重要な書物だ。
最後に、私の宝物のスマホ。
もう随分と前から、電源が入らない。
その気になれば直せそうな気もするが、電源が入ったところで、もうあの人に繋がらないことは知っている。
作業机に広げた私の大切な3つのアイテムを、順番に入れていった。
サイズもぴったりで、我ながら凄いなと自画自賛する。
蓋を閉めようとすると、それを見ていたマニューラが不安そうに一声鳴いた。
どうしたの、と声を掛ければ、1番上に置いてあるスマホをじっと見つめている。
「大丈夫だよ、マニューラ」
マニューラをそっと撫でると、ごろごろ喉を鳴らした。
マニューラは、このスマホが私のとても大切なものだということを知っている。
だから本当にしまっていいのか、きっと心配してくれているんだろう。
「…それに、こうすればあの人が未来で私のことがわかるはずだから」
箱を閉めてバチンと留め具をかける。
ずしりとした重みがちょうどいい。
埋めに行こうか、とオオニューラとマニューラに声をかけると、2匹は嬉しそうに私の後ろをついて来た。
「よし、これで大丈夫」
灯明台側につけておいた、埋めるための窪みすらも箱にぴったりだ。
ヒスイのオオニューラとシンオウのマニューラに見守られながら、自作の定礎箱をすっぽりと収めて床の扉を閉めた。
私にやれることは、全部やった。
これで、貴方のいた街が、きっと前よりもずっと良くなるはず。
そうだと、信じたい。
灯明台の外へ出ると、爽やかな潮風がふわりと頬を撫でる。
今日の海は、凪いでいるようだ。
「…デンジさん、笑ってくれているかな」
私の心を表すように晴れ渡るヒスイの青空に、シンオウの想い人の幸せをそっと願った。
神奥浪漫見聞録
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