いつものように、ジムへ向かう途中だった。
ナギサの街特有のソーラーパネルの歩道を歩きながら、ふと海の方へ視線を移す。
今日も天気が良いな、なんてどうでも良いことを考えていると、海岸に何か落ちているのが見えた。
最初は、流木かなにかが流れ着いているだけだと思っていた。
でもよく見れば見るほど、ただの漂流物には見えなくなってきて、仕方なく来た道を戻る。
その漂流物を目の前にして、オレは今日1番驚くことになる。
だって、流れ着いていたのは、人間だったから。
「君、大丈夫…?」
そう声を掛けると、その人は徐ろに顔を上げた。
だが、じっとこちらを見上げて、身動き一つしない。
「…ギンナンさん?」
「誰?…オレはデンジだけど」
オレと誰かを、間違えているようだった。
似てる人が知り合いにでもいるのだろうか。
それにしても、彼女は変わった紫色の服を着ていた。
今時こんな服を、わざわざ着てるやつなんているのかと思った。
正直、ミオの図書館の文献くらいでしか見たことがない。
まじまじと観察していると、どこの人ですか、と唐突に聞かれて驚く。
オレのことも、知らないのか。
自分で言うのも何だが、それなりに有名な方だと思っていたのに。
「ナギサジムのジムリーダーだ」
「その…なぎさじむのじむりーだーというのは、どういうことをされているのですか?」
「ジムリーダー、知らないのか?」
さらに驚かされた。
今時、ジムリーダーを知らないやつがいるのか。
シンオウにいる人間なら、老若男女知っていると思っていた。
まさかオレがジムリーダーの説明を今更一からする日が来るなんて、と思いながら一通り説明をする。
「ポケモンじむ…りーぐ…?」
「…まさかそれも知らないのか?」
目の前の彼女は、首を振った。
嘘だろ、ポケモンジムもリーグも知らないって。
今時そんなやつが本当にいるのか、いや、いたけれど。
頭を抱えてると、その子は辺りをキョロキョロ見渡してとても驚いたような顔をした。
驚いたような顔をしたいのはこっちだ。
「ここは…何処ですか…」
「ナギサシティってさっきも言っただろ」
うっかり、呆れて溜め息を吐き出した。
一体何なんだ。
それともこれは記憶喪失とか、そういうもっと深刻なやつだろうか。
確かに格好を見れば、海水でべたべたになっているから、航海の途中で難破にでも遭ったと考えられなくはない。
それなら、シンオウのリーグを知らなくても頷ける。
最近近くでそんな事故があったとは聞いてないが、もしもそうなら放っておくのも気が引けた。
さっきから目を擦って、今にも泣き出しそうな顔をしている彼女を、このままにしておくほどオレも非情じゃない。
「…事情はよくわからないが、とりあえずナギサジムに来るといい」
「え…」
彼女の両手を取って、すっと立ち上がらせた。
その姿を見て、今の彼女に必要そうなものがうちのジムに揃っているか考えを巡らす。
シャワーは、ジムにあるから良いだろう。
タオルも、まだ洗ったばかりのものが残っていたはずだ。
服は自分の予備しかないから、オーバに買って来させよう。
すぐにポケットから取り出したスマホで、オーバの電話番号をタップする。
「オーバか、トバリのゆびをふるでレディースの服買って来てくれ、金は後から…」
"は!?女物の服?なんでオレがおまえの女の服なんか買いに行かなきゃなんねーんだよ!"
「は?違う、海で人を拾った…いや、良いから買ってこい」
オーバのデカい声に、耳がやられそうになる前に電話を切った。
後で文句は言われそうだが、まあ買って来てくれるだろう。
ふと後ろを振り返ると、浜辺で出会った彼女は服の裾を握りしめてこちらを睨んでいた。
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