シンオウ地方の、とある街。
オレが不思議な出会いをしてから、幾らか経った。
「すみませーん!」
いつものように人が来ないジムに退屈して配電盤を弄っていると、電力会社の作業員がやってきた。
最近は、近海で見つかった発電施設のお陰か、この街の電力供給量も大幅に増えて、全くと言っていいほど停電をさせていない。
いや、だから怒ったような顔をしていないのか。
「シルベの灯台の修繕工事をしていたら、床からこんなものが出てきまして」
「箱?」
「ええ、図面などが入っていたので定礎箱かなにかかと」
この街の物なので一先ずジムリーダーにお渡ししておきます、と言われてやたら重たい金属製の箱を受け取った。
定礎箱だなんて、そんなものあそこの灯台にあっただろうか。
その随分と古くさい箱は、古さの割にはしっかりとした作りで、製作者の技術力の高さが伺える。
「これ…」
バチンと留め具を外してその定礎箱を開けると、3つの物が入っていた。
かなり昔に書かれたと思われる図面。
神奥見聞録と書かれた古い冊子。
そして、箱の古さに似つかわしくない、四角い機械。
見覚えのあるその機械の裏を見れば、そこには自分が以前適当に貼ったエレキシールがあった。
「ナマエ…?」
慌てて図面を広げて見れば、今のこことは程遠いけれど、確かにこの街の図面だとわかった。
"太陽の町、ナギサムラ"
街の規模が少し変わっていたとしても、今もそう呼ばれているのはこの街だけ。
そしてもう1つの図面を広げれば、"シルベの灯明台"と書かれている。
どう見たって、シルベの灯台の元となる建物の設計図だ。
間違いない。
これは、遥か昔のシンオウの図面。
神奥見聞録と書かれた冊子は、ところどころ汚れていて読めない部分はあったが、どれもオレの記憶にある出来事ばかりが書いてある。
スマホで電話をたくさんかけた、だとか、レントラーの背中で眠ってしまった、だとか、そんなたわいもないことから、初めてデートに連れて行ってもらった感想なんかも書かれていて、読めば懐かしさと恥ずかしさが混ざり合う。
しかし、冊子のページが最後の方になると、内容は一変して風力発電や波力発電の原理を示唆するような図や文章が延々と書かれていた。
今でこそどちらも知られている発電方法だが、これが書かれたと思われる時代にはそんなものはないはずだ。
最近発見された古めかしい発電施設の謎も、これを見た後なら合点がいく。
こんなものを創れる昔の人間は、オレが知る限り1人しかいない。
「…ッフッフッフ、まさかここまでとは」
彼女の成し遂げた功績に、笑いが込み上げてくる。
初めは配線のやり方をたった1つ教えただけだったのに。
約束通り、未来を、街1つを本当に創ってしまったなんて。
君は、どこまでも面白い。
丁寧に1ページずつ冊子をめくり読み進めると、その後の彼女が息災であったことがわかり胸を撫で下ろす。
最後のページをめくって読み終えようとした時、これまでと違ってやけに丁寧に書かれた文が視界に入る。
"私の恋慕う未来の貴方は、笑っているだろうか"
その文字列に、思わず笑みが溢れた。
ああ、君が願った通り、オレは笑っているよ。
けれど、もしも君が今も隣にいてくれたなら。
「…もっと、笑っていられたさ」
時を越えて戻ってきた古びた手記とスマホに、ヒスイの想い人への愛おしさがより一層募った。
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