Sucreve
無知の知



土方さんと床問答する話。
但し夢主は床問答を知らない。








月が綺麗だから、と徳利と盃を盆に乗せ、縁側で月を見上げていた。ぎし、と床板の軋む音がして、見ればそこには土方さんが立っていた。湯上がりなのだろう、身体からは湯気が上っているし、着流し姿だ。
普段の洋装とは違ったかっこよさがあり、何を着ても似合うのだなと思った。
「晩酌か?」
「あ、はい……」
見つかってしまった、と肩を竦めるが土方さんは何を気にした風でもなく、隣に腰を下ろした。そうして「私にもくれ」と言った。
「でしたら盃お持ちしますね」
立ち上がろうとしたら手を引かれて止められる。
「此処にあるだろう」
そう土方さんが指したのは私が使っている盃だった。
「これは私が使っているので……」
「私が使っては何か問題があるのか?」
「……無い、ですけど……」
「ならいいだろう」
言いながら土方さんは盃を手にする。諦めて盃に酒を注いで差し上げた。
土方さんはゆっくりと盃に口をつけると息を吐く。たったそれだけの仕草がひどく素敵に見えて胸が高鳴った。
上下した喉も、盃を持つ長い指も、うっとりする程格好いいと思った。
「……そんなに見ても何も無いぞ」
「っ、す、すみません……」
凝視してしまっていたと慌てて視線を逸らす。すると土方さんは盃を置いた。空になっているので注ごうとしたが、出来なかった。土方さんに抱き寄せられたのだ。
「……っ」
その御歳からは想像も出来ない逞しい腕。
どきどきと心臓が鼓動を速める。おそるおそる土方さんに体重を預けると、ぽつりと言われた。
「……お前の処に馬はいるか?」
「へ?」
唐突な問い掛けに変な声で返してしまった。馬……?
意図が読めず困惑していると「知らんか」と優しい声で笑われた。途端、何故か恥ずかしくなり、「すみません」と俯く。
「構わん。ゆっくり教えてやろう……布団の中でな」
「!」
先の問いはそういうことに関わるものだったのだろうと、やっと理解した。
肩を抱かれたまま、顎に指を引っかけられて土方さんと視線を合わせられる。月を背に笑む土方さんは、やっぱりとても格好よかった。



終.


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