Sucreve


2月14日の話






「あ、あの、時透さん、チョコ、よかったら、どうぞ」
いつも世話になっているから、だの他意は無い、だの用意しておいた言い訳を口にする小鉄の手にあったのは青色の包みだった。
無一郎はそれを片手で受け取り「ありがとう。僕もちゃんと用意してたよ」と赤色の包みを鞄から取り出した。
「えっ……」
小鉄は差し出されたそれにどう反応していいかわからず、手も視線も右往左往させた。まさかチョコレートが用意されているなんて思ってもみなかったのだ。
無一郎は「要らないの?」と包みを小鉄の手に握らせる。その行動に小鉄は困惑した。
「な、何で……」
「何でって……バレンタインなんだから、用意するに決まってるでしょ」
「あ、ありがとうございます……」
ともあれ、無一郎が自分の為に用意したということが嬉しくて、小鉄の表情が緩む。しかしすぐに包みに書かれたブランド名に驚愕した。
「ってコレめっちゃ高いとこのやつじゃないですか!?」
「そうでもないよ」
「高いよ!小学生からしたら高いよ!!」
「僕中学生だから」
「それでも高いですって!!え、ほ、本気ですか……」
本気でこんな、どこぞの社会人が本命に渡すようなチョコレートを自分に寄越したのかと小鉄は慌てる。小中学生がやり取りするものではないだろうと。そんな小鉄に無一郎は事も無げに言った。
「当たり前でしょ?むしろ何で僕が君の為に本気にならないと?」
「唐突に激重感情見せないでもらえます!?」
反射的に小鉄の口から出た言葉に無一郎は「これくらいで重いとか」と笑った。鼻で笑うような言い方だったものだから、小鉄は少しばかり苛ついたがそれを口にはしなかった。
直後、「…………重い男は嫌い?」とどこか泣きそうな顔で無一郎が呟いたのだ。そのあまりに切ない表情に小鉄は言葉を飲み込む。
「…………」
「嫌いなの……?」
「…………わかんないです、けど、…………時透さんにそこまで想われてるのは嫌じゃない、です」
浮かんだ想いを素直に告げる。無一郎は一瞬驚いた顔をして、すぐに口角を上げて満面の笑みを浮かべた。
「それなら両想いだね」
「は!?」
「違うの?」
きょとんとしたように小首を傾げる無一郎。それを否定したら無一郎はどんな反応を示すのか。きっといいことにはならないだろうと小鉄は察知して、「……違わないです」とその顔を赤らめながら言った。途端に無一郎は小鉄の腕を掴み、引き寄せた。
「それならよかった」
「!?」
「大切にするよ」
これから先、一生。嬉しそうな声で囁かれたそれに、小鉄は何も返すことは出来なかった。ただ動かせた腕を、そろりと無一郎の背に回して力を込めるのだった。


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