始まりの話
色々捏造ご都合主義。ノボリさんのキャラは崩壊。
次ページ以降は分岐した話です。
三つ目だけ妙に長い。
こちらの世界にやってきてどれくらい経っただろう。色々なことがあった。
行くあても何もなくいたらギンガ団という組織に入れてもらったり、ポケモンを調査する任務をおおせつかったりと思いの外時間は早く過ぎていく。
そんな日々の中で出会ったのはノボリという、私と同じくある日突然この世界にやってきた男の人だった。
ノボリさんはボロボロの黒いコートを纏い、少し破れた黒い帽子を被っていた。帽子の隙間から見える瞳はぎらぎらと光っていて、彼の意志の強さを感じた。
彼には記憶が無いという。ただ気がついたらこのヒスイという地に立っていたのだと。どこか自分に似た境遇に、最初に抱いたのは同情だった。
自分には記憶がある。この世界に来る前の。だから戻りたいだとか、本当なら今頃、だとか仮定の妄想が出来た。しかし彼、ノボリさんにはそれが出来ない。記憶が無いのだから元いた世界を恋うことなんて出来やしない。故に彼に対する最初の感情は同情でしかなかった。自分が何者かもわからず過ごすのは苦痛だろうと。
そんな彼と言葉を交わし、勝負を繰り返す内に他の人よりも親しくなった。その親しさは世間一般の“仲がいい”というものとは少し異なっていた。所謂男女の仲というものが近かった。
勿論明確に一線を越えたわけではない。ただ夜遅くまで勝負を繰り返したり、出先で偶然出会ってそのまま一つのテントで夜を明かしたりする内に他の人には言えない事を話すようになった。
それはやはりこの世界に対する不満。待遇が不満というわけではない。ただ、どうしても余所者であるという、言葉で言い表せない感覚が不満だった。居場所がどうしても見つけられないのだ。
ノボリさんもそれは同じだったようで、「お気持ち大変よくわかります」と深く頷いてくれた。例えよくしてくれる人がいても、ここにいていいと言われても、どこか上手くはまらないのだと。
きっとこの世界で私達にしかわからない、二人だけの感傷。それは同じ傷を負った者同士が身を寄せ合っているような、決して癒えない傷を舐め合っているようなものだった。
どうせこのまま元の世界に戻れないというなら、あなたと一生を終えるのも悪くないと思う。星空の下でぽつりと呟いた言葉を、ノボリさんは一瞬驚きつつもすぐに破顔して受け入れてくれた。「わたくしも同じ気持ちでございます」と柔らかな声を添えて。
「……本当、ですか……?」
「はい。……わたくし、あなたさまに惹かれておりました。ですがわたくしは記憶も無く、一体どこの人間かわからない。そんなわたくしがあなたさまに懸想しているなどとは言えないと、この想いを墓場まで持って行くつもりでした」
「そ、そこまで……」
「それほどまでに、わたくしはあなたさまを慕っているのです」
手を握られて、でも嫌ではなくて。嬉しさにノボリさんに抱きついたらノボリさんは珍しく耳まで真っ赤にしながら「……愛しております」とこれまたどうしようもなく優しい声で伝えてくれた。
「ずっと、一緒にいましょうね」
「ええ。勿論でございます」
胸の奥から溢れる感情は、とても暖かくて心地いい。こんなに幸せになっていいんだろうか。思わず出てきた言葉にノボリさんは「わたくしが幸せになるのですから、あなたさまも幸せになるべきでございます」と笑っていた。
◆
それは突然のことだった。ノボリさんと想いを伝え合った、ほんの数日後のことだった。
ノボリさんはキャプテンの仕事があるからと出掛けていて、私は宿舎にいた。もう少ししたら一緒に暮らそうということで今まで借りていた部屋の片付けをしていた。その時、アルセウスが言ったのだ。
「あなたを元の世界へ帰せるようになりました」
「……え?」
青天の霹靂とも言えるアルセウスの言葉を、一瞬理解出来なかった。
「帰せるって、それは、……え?」
困惑する私にアルセウスは元の世界に戻すだけの力が溜まっていなかったことや、自身の力だけでなくこの世界の力も必要になるのでなかなか時期が来なかった、というようなことを告げた。
「…………」
それじゃあ私は元の世界に帰れるのか。元の世界で、元いた場所で生きることが出来るようになるのか。
こちらの世界にやってきてからずっと願っていたことが叶う、とわかって、真っ先に思い出したのはノボリさんの存在だった。
「……じゃあ、ノボリさん、も……?」
「はい。彼も、元の世界に帰しましょう」
「…………」
あまりに突然のことで、私はアルセウスに返事が出来なかった。
「どうしました?すぐにでも、元の世界へ送りましょうか」
「…………」
アルセウスがそう言ったのとほぼ同時だった。がたん、と扉の方で物音がした。
「……っ、ノボリさん……」
ノボリさんの手には、空になったカゴがあって、足元にはきのみやキノコが転がっていた。
私が言葉を発するよりも先にノボリさんは部屋に上がってくる。その顔は見たことが無いくらいに険しいものだった。
「今の話は本当でございますか!?」
アルセウスの言葉はノボリさんにも聞こえていたらしい。ノボリさんは私の肩を掴み、叫ぶ。
「わたくしを、置いて行ってしまわれるのですか……っ」
今にも泣きそうな声と表情だった。私の肩を掴んだ手は白くなるくらい力がこもっていて、正直痛い。だけど振り解けない。
「ノボリさんも、元の世界に帰れるって……」
「……わたくしに記憶はございません。おぼろげな、記憶とは呼べない、もしかしたら妄想や思いこみかもしれないその程度のものでございます。本当に元の世界にわたくしの居場所は在るのでしょうか。わたくしは本当にその世界の住人なのでしょうか。記憶が無い事をいいように扱われているだけなのではないでしょうか」
「そ、んなこと……」
ないとは言えなかった。私はノボリさんの過去を知らない。言い淀むとノボリさんは畳み掛けるように言葉を続ける。
「わたくしがあなたさまと描いた未来は全て無かった事になるのですか。あなたさまにとってわたくしはその程度の存在だったのですか。…………また、わたくしは独りになってしまうのですか……っ」
悲痛な叫び。最早泣きそうな、ではなく実際にノボリさんの目からは涙が溢れていた。
何と言葉をかけていいのかわからず、私に縋りついて泣くノボリさんをただ見つめることしか出来なかった。
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