真白の夜明け
涙ながらに訴えるノボリさんの言葉一つ一つが心に刺さった。私の肩を掴む手はいつの間にか力が緩み、添えているだけ。その手はひどく震えていて、ノボリさんが悲しいくらい小さく見えた。
どれくらいそうしていただろう。私は深呼吸を一つして、言った。
「……ごめんなさい」
びくりとノボリさんが肩を揺らす。
「……それは、何に対する謝罪でございましょう」
「ノボリさんのことをわかってなかったなって」
「……」
「ごめんなさい。ノボリさんが辛かったのはわかってたはずなのに」
ふっとノボリさんの手が落ちる。自由になった手をそのままノボリさんの背に回すとひどく驚いた顔をされた。
「ずっと側にいるって約束したのに、破るところでした」
「…………」
ノボリさんの目に光が宿る。口角が、少しだけ上向いた。
「帰ったりなんかしません。ずっとノボリさんの側にいます」
「!」
ノボリさんは何かを言いたげに唇を揺らして、すぐに「本当で、ございますか……?」と震える声で言葉を紡ぐ。
「はい」
「…………」
離れたりしないという意志を込めてノボリさんの目を見た。大きな瞳に私が映っている。
おそるおそるというように私を抱き締めるノボリさん。最初は弱く、徐々に力がこもって強く抱き締められる。よかった、と小さく聞こえて、私まで泣きそうになった。これ程愛しい人と離れるなんて何故一瞬でも考えたのか。
ずっと側にいる。そう誓いながらノボリさんを強く抱き締め返した。
◆
「……それでは、出掛けて参ります」
「はい」
あれから後すぐに一緒に暮らすようになった。結果、殆どの時間を共に過ごしている。けれどノボリさん一人で出掛けることもある。そういう時、ノボリさんは決まって不安そうな顔をする。
「どこかに行ったりしないですから」
「……はい」
そう伝えてもやっぱり不安そうな表情。ほんの数時間でも、ノボリさんは帰って来て私を見ると至極安心したように息を吐くのだ。
その表情が愛おしく感じる一方、いつもこれでは申し訳ない気分にもなる。しかしやはりこればかりはどうしようも出来ない、と思い、ふとひらめいた。
「……あ、そうだ。じゃあアルセウス連れてってください」
「え……」
「アルセウスいなかったら帰れませんから。そうしたらノボリさんも不安じゃなくなるでしょう?ノボリさんが安心してくれるならいいんです」
はい、とボールを差し出すとノボリさんは目を丸くして、首を横に振った。
「そのお気持ちだけで充分でございます。……わたくしは愛されていますね」
「勿論!夕飯作って待ってますからね。早く帰って来てくださいね」
「勿論でございます。それでは、行って参ります」
「行ってらっしゃい」
よく晴れた青空の下、愛する人の笑顔を見送った。これからもこの幸せが続く事を信じて。
end.
- 2 -
*前次#
ページ: