Sucreve

Jealousy








「…………」
「インゴ、重い」
「……………………」
重いと一言言っただけで力が強くなった。この野郎。
「何がそんな不満なの」
「…………」
何を聞いても何も言わない。さっきからずっとこんな調子である。
ライモンから一ヶ月の研修に来ていたサブウェイマスターを見送り、帰宅した途端インゴに抱きつかれた。背後からがっしりと。
そうしてこれである。私に抱きついたまま動かない。抱きつく力が強まるくらいである。
「インゴ?」
「…………」
離してと言っても聞いてはくれない。座りたいんだけど。
「あー……ベッド行く?」
聞くと頭が揺れて、ぐいぐい押された。歩けということらしい。しょうがねぇなと歩いてベッドルームへ行き、インゴの腕を掴んだまま無理矢理横になった。ら仰向けにされて何故かより強く抱きつかれた。
「待って苦しい何で」
「……………………」
「インゴ。何か言って。でないと叩くよ」
「…………」
「もしくは抓る」
「……………………嫌です」
「じゃあ言って」
再三の要求にインゴがぼそぼそと喋る。
「……あなたは、わたくしのもの、です」
「は?」
いきなりどうしたと思ったら堰を切ったようにインゴの口からつらつら言葉が出てきた。
「サブウェイマスターの方が好きなんですかわたくしよりあいつらの方がいいとそう言うのですかあなたはわたくしの恋人なのに他の男の方がいいんですかわたくしでは力不足ですか」
「何の話」
放っておくと更にわけがわからなくなりそうだったので止めた。何言ってるのこの子。
「何でそんな発想になったの」
「…………あなたがノボリを見る目が優しかったから」
「は?」
「……………………」
「何?何て?私が?」
どうにも聞き取れなかったので聞き返すとインゴは半分キレたように「あなたがあんなに優しい目でノボリを見ていたから!!」と叫んだ。
「だからわたくしよりノボリの方が!…………いい、のかと、思っ、て……」
最初の勢いはどこへやら。急にその蒼い目から大粒の涙を零し始めたインゴ。ほたぼたと涙を落としている。これはまずいやつだなと判断して、インゴを抱き締めた。
「とりあえず落ち着いて」
「ぅ、ぅう……っ!」
「いい子いい子」
とんとんと背中を叩くと「…………ぅ、嫌です、捨てないで」と涙ながらに訴えられる。
「何でそうなるの。捨てないから」
「本当、に?」
「当たり前でしょ。ノボリさん達はインゴの同僚?取引先?何て言うのか、そういう大切な人達でしょ?」
「大切ではないです。大切なのはあなただけです」
「そういう大切じゃなくてさ……。……私の対応が悪いとかでインゴの立場が悪くなったりしたら嫌なの。だから丁寧にしてたの」
「…………」
「インゴは私の恋人でしょ?大切な恋人の為に頑張ってたのよ。これでも」
「……は、い」
「うん。わかってくれた?」
「…………はい」
すんすんとしゃくり上げながら頷いて、インゴは私の胸元に顔を埋める。ゆるゆる頭を撫でてやると心地よさそうに「もっとしてください」と言われたので仕方ないなと撫でる。ついでにこれ以上インゴが不安にならないようにと言葉を重ねた。
「ちゃんとインゴのこと好きだから、そんなに不安にならないで?」
「……はい」
一際強く私を抱きしめて、満足したらしい。顔を上げたインゴはうっすらと笑みを浮かべていた。
「落ち着いた?」
「……キスしてくれたら落ち着きます」
「落ち着いたね」
「落ち着いてません」
「よかったねー落ち着いたねー」
「落ち着いてません」
「じゃあちょっと早いけど寝ようか。おやすみ」
「嫌です。……あなたが足りない」
熱のこもった瞳が私を射抜く。
……これ以上はぐらかせないなと諦めて腕をインゴの首に回せば、至極嬉しそうなインゴにキスされるのだった。



end.




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