アドベントを切って

もうすぐ十二月を迎えるセントシュタインの城下町では、来たる月に向けクリスマス用の商品が並ぶようになった。家族連れの親を狙っているであろう財団サンタクロースが提供するおもちゃ類は、特に目立つように配置されていた。

まだ子どものいないインテも、いずれは財団Sの思惑通りおもちゃを買わなければならない時期が来ると思うと、今は他人事ではあるが商人は本当に賢いと思う。


「あの、雑貨屋さんに寄ってもいいですか?」

今日は非番の日だったので、インテはルルーと一緒に買い出しに外へ出た。日頃の食料から冬を乗り切るための便利グッズまで多様な物資を買い揃えたものだ。
必要な物はおよそ買ってしまったし、何よりルルーがお願い事をするのは珍しい。特に断る理由もなかったため、インテは「いいよ」と承諾のむねを伝える。

「何か買いたいものがあるのか?」

ルルーと同棲するようになってだいたい一ヶ月が経過したが、実のところ彼女の趣味嗜好は把握出来ていない部分が大きい。まずルルーの普段着がロリータと呼ばれる服であることを知ったのも最近である。

「もうすぐ十二月でしょう?アドベンカレンダーを買おうと思いまして」
「アドベントカレンダー?」

手頃な雑貨屋を見つけたので手を繋いだまま、店内へ入る。声のトーンからインテがアドベントカードなるものを知らないと察したのだろう、ルルーはざっくりと説明してくれた。

「ベクセリアでは十二月になるとアドベントカレンダーと呼ばれるカレンダーを家庭に置くんです。クリスマスまでの日にちが窓に書いてあって、毎日一つずつ窓を開けるんです。全ての窓が開けばクリスマスが来た、ということになります」
「それは初めてきく風習だな。少なくとも俺の近所ではなかった」
セントシュタインは領土の大きな国家だ。地区によって若干の文化の違いがあるため、他の地区ではアドベントカレンダーなるものが存在しているのかもしれない。
少なくともインテの家ではクリスマスを待つことはせず(待ったのはサンタクロースからのプレゼントくらいだ)、イブと当日に祝う程度だった。

「そうなんですね……。じゃあこの辺りの店には置いてないかもしれません」
残念そうに言うルルー。店の中を回って見たが、あるのは来年のカレンダーだけだ。

「ベクセリアに行けばどの店にもあるのか?」
「はい、多分……。ベクセリアではどの家庭にも一つは置いてあるものなので」
「近くに道具屋があったからキメラの翼を買おう。俺も君もベクセリアには行ったことがあるから使えるだろう」
ルルーに「いいんですか?」と問われ、つい釣られて「いいんですよ」と敬語で返せば、彼女のツボに入ったのか、ルルーは笑った。






ここ二、三年は学院を卒業するのに忙しかったり女神の果実を探していたりと、アドベントカレンダーをめくるのは久しぶりだ。そう語るルルー以上にインテは窓を開けることにハマった。最初の数日はルルーが窓を開けていたが、時々二人で開けることもあるものの、今では専らインテが開けているくらいだ。

アドベントカレンダーにも色んな種類があるらしく、窓の中にキャンディなどの小さなお菓子が入っているもの、窓の中にストーリー仕立ての絵が描かれて全部開けることで全貌が見渡せる仕様となっているもの、様々らしい。
ルルーのチョイスで今年はストーリー仕立てのアドベントカレンダーを選んだが、来年はお菓子の入ったカレンダーもいいかもしれない。

そうやってアドベントをするうちに、気付いたらクリスマス目前ととなった。


「インテさんにも気に入ってもらえて良かったです」
「意外と大人でも楽しめるものだな」
明日はいよいよクリスマスイブだ。ちょうど遅番の日でもあったので、今日はゆっくり夕食を取っている。

「ちなみにケイトが住んでいる街ではアドベントカレンダーではなくアドベントケーキがあるみたいです。まだ低学年で忙しくなかった頃、二人でケーキを作って、食べながらクリスマスを待っていました」
「俺は……。子どもの頃はサンタクロースを捕まえようと罠をしかけたこともあったな。それで親父が罠にかかって、サンタクロースの正体を知った」
「まぁ!」
「俺の家はサンタクロースの正体を知った者にプレゼントは届かない家だったから次の年からはプレゼントが来なくなったな」

聖天の使いとも言われているサンタクロース。あの頃はどうしてもサンタクロースに会いたくて引き止めるためにやったことだったし、まさか次の年から姉よりも早くプレゼントが届かなくなるとは思いもしなかった。ほろ苦い少年時代の思い出である。

「じゃあ、またサンタさんを信じましょう。信じればプレゼントもきっと届きますよ」
「まるでリディアみたいな物言いだな」
「天使様だって本当にいたんですよ?もしかしたらサンタさんだっているかもしれません」
「その天使様もフタを開けてみればとんだじゃじゃ馬だったが……。そうだな、俺たちが想像している以上にチャラいサンタクロースが存在していた、ということもありえなくはないか」

こうして空想のサンタクロースについて語り合っているが、インテもルルーも、サンタが実在しないことは理解している。

子どもの頃、あれだけ信じていたサンタクロースはいなかった。
群像崇拝だと思っていた天使は実在したが、結局は消えてしまった。

それでも世界は回っていくし、いずれ真実を知るとしても子どもはサンタを信じている。それに、天使に関わらなかった者たちは未だに天使を信じている。


「明日はイブですね」
「明日は遅番だから帰ってくる頃にはもうクリスマスになっているだろうな」
「アドベントカレンダー、取っておきますね。起きたら一緒に開けましょう」

テーブルの上に置かれたアドベントカレンダーは、数多の窓がすでに開いた。


最後の一つはまだ閉じている。





おしまい


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Honey au Laitめぐさんからいただきました。フリーという言葉は見逃しません←
クリスマスとかいう恋人のためのイベントでインルルが見られてとても嬉しいです。二人の幸せそうな同棲生活を垣間見ることが出来てこっちまで心が温まりますね。
アドベントカレンダーという存在を今年初めて知った冬生(※社会人)でした。クリスマスまで一日ずつカレンダーの窓を開けるインルルがかわいすぎてもうね……! アドベントカレンダーにハマるインテさんをルルーちゃんが微笑ましく見守ってたんだろうなと思うともう胸キュンも良いところですよ! そういう控えめながらも想いはしっかり通じ合ってる感がインルルの魅力だと思っています← とっても素敵!
めぐさん、クリスマスなインルルをありがとうございました!
ALICE+