chapter1‐04

ソロ達は、客間のような部屋に案内された。突然の訪問にも関わらず整然とした部屋の様子に、普段からキッチリと片付けられていることが分かる。建物自体が古いのか、古い年季物の家具も相まって、どこか重々しい雰囲気がある。
そんな空間で、マーニャは完全に寛いでいた。

――どーしたもんかしらねぇ。

その口ぶりはカラリとしていて、まるで今晩の夕食に迷っているかのような軽い口ぶりだったが、当然ながら事態は明らかに悪い。
分かっているのかいないのか――いや、分かっていると思いたい――マーニャは、持ち前の気楽さ全開でこれからのことについて二人に言うともなく呟いた。


「今はどうやってこの森から抜け出すかよね〜。このままじゃ私達も失踪したって噂になっちゃうし」


そう言って、ソファの背もたれによりかかるマーニャ。縁起でもないが、確かにこのままでは自分達が新たな犠牲者として名を連ねることになりかねない。


「おかしいわね、占いではこの森を通り抜けるべきと示されていたはずなのだけれど……すみませんわ、ソロ」


ほぅ、と息をついたミネアは申し訳なさそうにソロを見る。


「いや、ミネアが謝ることじゃないよ。森に入ることを決めたのは俺なんだから」


恐ろしい魔物が潜むと思われた森にいたのは、その対局とも思える少女が一人だけ。自分と同い年くらいだろうか。


(それにしても、あの子は一体……)


森に住んでいるらしい少女。同居人もいるらしいが、それにしたって、どうしてこのような森の奥深くに――。
そこまで考えて、ソロは自分の故郷も深い森の中にあったことを思い出した。


「ソロ、どうしたのよ? そんな難しい顔して」


「え?」


何事かを考え込み、押し黙ったソロの変化にマーニャが気付いた。
何でもない、と首を振れば今の状況について思い悩んでいたと思われたようで、マーニャは気にするなとでも言うように手をヒラヒラとはためかせた。


「ま、こうなっちゃったのはもう考えたって仕方ないじゃない? エトワールとかいう子のツテで無事に森から出られることを願いましょ」


少女の名はエトワールと言った。銀髪と金色の瞳が印象的で、どこか儚げな印象を受ける。


「姉さんは楽観的過ぎると思うんだけど……」


「アンタ達が難しく考えすぎなのよ」


マーニャはそう言って呆れたように肩を竦めたが、対するミネアは諦めたように溜め息をついていた。日常的に妹が姉に振り回されているらしいことが窺える。


「それにしてもさ、こーんな森の奥に、こーんな立派なお屋敷があって、しかも住人がいるだなんて……あの子ってば随分訳アリっぽいわよね」


あの子、とはこの屋敷にいた女の子のことだろう。ソロも似たようなことを考えていた。
今、この古い屋敷には少女以外に人間のいる気配がしない。たまたま外に出ているだけかもしれないが、家族もここにいるのだろうか。同居人がいるようなことは言っていたが、どちらにせよ少女がここで暮らしていることに対する違和感は拭えない。
それに、人間への拒絶反応も引っ掛かる。見る限り、少女自身も間違いなく人間であるはずだというのに。そして、人を遠ざけるかのように森の奥でひっそりと暮らしている。
――何か、訳がないはずがない。


「そうかもしれないけれど……親切にしてくださったのに、下手に詮索しても良いものか……」


占うにしても、他人を勝手に占うのはいくらなんでも気が引ける。
及び腰のミネアに、マーニャは今度こそ本当に呆れたように腕を組んでうんざりと声を上げた。


「アンタは、すーぐそうやってよそよそしくする。そりゃ気遣いも大事かもしれないけど、こっちから踏み込まなきゃ縮まる距離も縮まらないわよ?」


マーニャの言葉にも一理あるが、ズケズケと他人の領域に土足で踏み込んでしまうのは問題があるし、その踏み込んで良いのか悪いのかという境界線を見定めることも難しい。
それにしても、本当にこの姉妹は正反対な性格をしている。双子なのに――容姿までそっくりだというのに、どうしてなのだろうか。
生命の不思議をソロがしみじみと感じていると、部屋の扉が開いた。先程の少女がやって来たのだ。


「言い忘れていたけれど、オリヴィオが帰ってくるの、もしかしたら夜になるかもしれないわ」


それでも大丈夫かしら、と首を傾げる。かわいらしい仕草だったが、つっけんどんな物言いと仏頂面で台無しだ。
夜になろうが何だろうが、今のところ森に詳しい人がいなければ森に迷ったままという現状は変わらない。それまでは、ありがたく休ませてもらうことにした一行であった。










(訳アリ少女)
04(終)




――――
マーニャ姉さんはマイペース。
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