05



夕焼けの日差しが心地よい日曜日。
窓から差し込むそれが病室をぽかぽかと暖めていた。

「また何か必要なものがあったら連絡してね。すぐ持ってくるから。ちゃんとご飯たべて寝るんだよ!」

帰り支度をしながらそうママに伝えると、『祐佳もちゃんと勉強するのよ。』と釘を刺された。もういっつも祐佳の事ばっかり、と思いつつ『は〜い。』と気怠げに返事をすると、ママがじとっとした視線で見てくる。
私は背筋を伸ばして、『はい!』と返事をし直した。

「じゃあ帰るね。また週末に来るから。」

そう言ってばいばいと手を振り、そっと病室の扉を閉めた。



ママが入院してはや一週間。庭の水やりをしている時に、段差に躓き足の骨を骨折してしまったのだ。お医者さんによると、全治四週間ほどで退院できるみたい。その間は私が病院へ通ってサポートをしている。

「(また帰ったら一人だ…寂しいなあ。)」

病院のエレベーターに乗り、一階のボタンを押す。狭い箱の中に一人になった途端そんな思いに飲み込まれる。パパは仕事で基本的に夜しか家にいない。歳の離れた頼れるお姉ちゃんも、結婚して今は別に暮らしているから、最近は家で一人の時間の方が多くなってしまった。

私は元来、何事も不器用で生活力も皆無なので、ママがいない家で洗濯・掃除・料理…その他様々な家事をこなすことが中々上手く出来なかった。仕事が忙しいパパは無理だし、自分がやらない限り家のことを進めてくれる人はいなくて、ママのすごさを改めて実感する。でも心配をかける訳にはいかないのでどうにか一人で奮闘していたが、この生活も一週間が経つ。自分の中で“寂しい”という気持ちが日に日に大きくなっていた。

「(今日の夜ご飯どうしようかなあ…。)」

そんな気持ちを紛らわすように、今日の夜ご飯は何にするか考える。すると途中の階でエレベーターが減速し始めた。乗ってくる人がいるのだろうと思い、ボタンパネルの前に立っていた私は開くボタンを押す。すると扉がすっと開き、同年代くらいの一人の男の子が入ってきた。その姿に目を見開き、思わず声を掛ける。


「とっ轟くん………!?」

「前田か……?」


そう、その男の子は轟くんだった。
驚きすぎて開いた口がふさがらない私は、閉まるボタンを押すのをすっかり忘れていて、そんな私を見かねて轟くんがすっとボタンを押してくれた。
そして扉は閉まり、この小さな空間に轟くんと二人だけになる。

「ほんとに偶然すぎるけど……偶然だね……」

驚きすぎて意味の分からない日本語を発する私に『ああ、そうだな。』と彼は答えてくれる。あまりにも偶然すぎるが、ここ近辺では一番大きい病院なので知り合いがいても不思議ではないのかもしれない。
そういえば、轟くんがエレベーターに乗ってきた階も、確か入院病棟だったはずだ。誰かご家族でも入院しているのだろうか。気になるけれど、そう気軽に聞いていい事なのかためらっていると、轟くんの方が口を開いた。

「見舞いか…?上の方、入院病棟だろ。」

「あ………うん、ママが足を骨折しちゃって入院してるから、お見舞いに来てるの。…………轟くんもお見舞い?」

「………ああ。俺もお母さんが入院してて、週末は見舞いに来てる。」

轟くんが質問してくれたので、つい私も彼に質問を返してしまった。
何故お母様が入院しているのか、言わなかったということはあまり話したくないことなのかもしれないと思い、そこは深入りしないでおく。お互い偶然にも親が入院していて、私が家に独りぼっちで寂しいように、もしかしたら轟くんも寂しかったりするのかなと、勝手に感情移入してしまった。

「お母さん、早く退院できるといいね。私もママがいなくて結構寂しいから………轟くんのお家にも早くお母さんが帰ってこられるといいなあ。」

「………………多分、時間はかかるとは思うけど、俺もそう思う。ありがとな。」

また、轟くんが笑った。保健室で見た表情とは少し違う、誰かを慈しむような優しい微笑み。きっとお母様のことを想っているのだろう。彼は存外、笑う人なのかもしれない。





2021/03