06
轟くんとそんな話をしているうちにエレベーターは一階へと到着する。
私は開くボタンを押して、轟くんにどうぞと促せば、彼は『悪いな。』とお礼を告げ先に出る。そして私が出ようとすると、扉が閉まらないように押さえていてくれた、彼はやっぱり優しい人だ。
「轟くん、電車…?」
「ああ、電車で来た。前田もか?」
「うん…!私も電車で来た!良かったら駅まで一緒に帰ろうよ。」
そう轟くんに尋ねると、『ああ。』と答えてくれる。内心、嬉しかった。今日はパパが出張で帰ってこないので、家に帰っても一人で黙々と家事をこなして、一人で夜ご飯を食べるしかなかったから。
「………ママがいないとね、うちの家ほとんど私一人で…………ちょっと一人の時間が多くなりすぎて、寂しいなあって思っちゃってたから、こうやって病院の帰り道で轟くんと話せて嬉しい。ありがとう。」
つい、思っていた事を口にしてしまう。最近は病院の帰り道に、そんな事ばかり考えてしまっていた。こんなに自分は寂しがりだっただろうか。
だからこそ、こうやって誰かと一緒にいられる時間は、今の私にとってすごく気持ちが落ち着くものだった。
「………………」
謎の沈黙。轟くんからの反応が無くて、何か気に障る事を言ってしまっただろうかと焦る。
突然こんな話をされて不快だったのかもしれないと思い、咄嗟に謝ろうとすると、それより一拍速く彼が口を開いた。
「…………病院来るの、たまに姉さんも一緒で。絶対とは言えねえが、週末に俺一人で来る時は、大体このくらいの時間なら、一緒に帰れる。」
真顔で淡々とそう話すから、中々頭に入ってこなかったが、つまりお見舞いの帰りにこうして一緒に帰ってくれる、ということだろうか。
………冷静に轟くんのかけてくれた言葉を理解すると気持ちがバタバタと暴れ出す。
「え………いいの…………??轟くんが大丈夫なら、祐佳は一緒にこうやっておしゃべりしながら帰れたら嬉しいけど……。」
彼の優しさについ舞い上がってしまったが、もしかしたら寂しいと話してしまったことで、無理に気を遣わせてしまったのかもしれないと思い、少し控えめな返事しか出来なかった。轟くんに答えを委ねるようで狡かっただろうか。
「別に俺は構わねえ。前田に任せる。」
真顔でサラッとそう言う轟くんからは、無理に気を遣って提案してきた訳ではないことが伝わってきて安心する。その純粋な優しさを感じつつ、私は素直に彼の言葉に甘えることにした。
「じゃっじゃあ………!来週も一緒に帰りたい、です……!」
「ああ、分かった。」
夕日が輝く道で、こちらを見ながらそう頷く轟くん。寂しさに飲み込まれていた病院の帰り道も、彼のおかげで色づいていくようだった。
*
その後、出久くんとの小中時代のエピソードや、A組の授業の話を聴いていたら、あっという間に駅に到着してしまった。楽しい時間はあっという間。悲しいことに、轟くんと私は電車が逆方向だったので、また来週お見舞いに来たとき連絡がとれるよう、連絡先を交換して駅でお別れをした。
「(轟くん今日はたくさんありがとう!家で一人ぼっちだから、轟くんとお話し出来てすごく元気でたよ。私にも何か出来ることがあったら遠慮せず教えてね。また学校でも会ったらよろしくね。)」
電車に揺られながら、轟くんへの初LINEの文章を考える。
これで良いだろうか。今日はお世話になりすぎてしまったので、なかなか言葉が纏まら無い。
しかし、このままだと一生お礼を伝えることが出来そうに無いので、この内容で送信してしまった。すると返事にドキドキする間もなく、すぐに既読がつき簡潔な返事が返ってきた。
「(来週も週末は俺一人で見舞いに行くから一緒に帰れる。)」
『一緒に帰れる』という言葉がまだまだ嬉しくて、なんだかむず痒い。そういえば、さらっと言われたが轟くん、お姉さんがいるのか。私と同じだ。なんだか彼とは共通点が多い。
「(分かった!教えてくれてありがとう。また来週帰る時に連絡するね。そういえば祐佳もお姉ちゃんいるよ、一緒だね。)」
そう送るとまたすぐに既読はついたが、返事は来なかった。
あまりLINEを続けるタイプではないのかなと思い、スマホの画面を閉じる。
「(夕日が綺麗だなあ…。)」
昨日も同じ景色を見ていたはずなのに、心の中が『寂しい』でいっぱいだったからか、なにも感じなくて。
でも今、この景色を綺麗だと思えるのは、間違いなく彼のおかげだ。
また来週轟くんと何を話そう、そう考える私の心の中はどこか躍っていて、車内に差し込む夕日のような暖かさで満ちていた。
2021/03