あれは、5年前くらい前の満月が輝く夜のことだった。


江戸で起こっている攘夷戦争も終結を目前としていた。攘夷志士も決して弱い訳では無いが、天人には及ばなかった。

私は12歳だったと思う。白夜叉と一緒に戦地を駆け巡っていた。


だが、あの日は静かで嵐の前の静けさとも思われた。私は神経を立てながら休めない休息を取っていた。何かの気配に気づき目を覚ました時にはもう遅かった。連日の疲労で深く眠りについてしまっていたようだ。

"考えるのはあとでいい…今はこの状況をどうにかしないと"

私の背後には天人、そして、首元にはナイフ。

「大人しくしてれば痛いことはしない」

「俺たちこの戦場に飽き飽きしてんだよ」

「お嬢ちゃんが少し手を貸してくれればいいからさ」

人型の天人だった…そして、人間…

"天人の手下に成り下がったか…"

「何する気?」

手元にない剣に向かって心の中で舌打ちした。男…しかも複数相手に丸腰は辛い。

「楽しいことだよ。こんな戦争忘れられるくらい」

そして、2人の男が私を押さえつけた。首元のナイフは刺さっているのだろう、チリチリと痛みが襲ってきていた。

「やめっーーーー」

声にならない叫び声が出た。口には布が詰め込まれ、両手両足は固定されている。そして、腹部を蹴られたのだ。

「お前に拒否権はねぇんだよ」




その後の出来事はあまり覚えていない。銀ちゃんに見つけてもらった時、私は記憶を無くしていたのだった。だが、部屋の中の状態と私の身体を見て彼は全てを察したらしい。

「ごめん、ごめんな」

「銀ちゃん…」

銀ちゃんは私を壊れ物を扱うかのように抱きしめたのだった。