あの日を境に、私の身体に異変が起きていた。身体というか、頭というか…

もちろん、あの日の記憶はすっかり抜け落ちてしまったのだが、その後の出来事を何もかも覚えてしまうようになったのだった。写真のように一瞬で…

医者はそれを"カメラアイ"と言った。記憶をなくした反動で覚えていなくちゃいけないという思いが作用したらしい。

「銀ちゃん、もう平気だよ」

「んなこたぁ、言ったってよお…」

「銀ちゃん、お父さんみたい」

「ああ?俺がそんなに老けてるって?」

「じゃあ、お兄ちゃん?」

「…」

どうも、銀ちゃんはお兄ちゃんという立ち位置に不満があるらしい。同じ攘夷志士だった、桂さんも高杉さんも坂本さんもお兄ちゃんって立ち位置なのに…。

そんなことも口に出せず、私達は私の家に向かっていた。銀ちゃんは万事屋を一緒にやりたかったみたいだが、私もいつまでもお世話になっていたくなかった。

「お茶でも飲んでく?あ、昨日作ったケーキがあるよ?」

「いや、いい」

いつもなら甘いものに食いついてくる銀ちゃんは今日は違かった。銀ちゃんは私の頭に手を乗せるとわしゃわしゃと髪を乱した。

「なんかあったら言うんだぞ」

そう言い残して、去っていく。明日からの仕事のことを言っているのだろうか、

「ありがとう、銀ちゃん」

もう、見えなくなった背中にそう呟いた。