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「馬鹿かお前は!?」
「そんなに怒鳴らないでくれ」
 松田は怒り心頭だった。中身がトランプだったとはいえ銃口を向けられるような状況に陥ったこともそうだが、片桐が自分に何も言わずにキッドを追ったことが一番気に食わなかった。
「そんなことよりもキミ、頬が少し切れてるよ」
「あ?こんなの大したモンじゃねえ…」
「絆創膏くらいは持ち合わせている。使いたまえ」
 はい、とポケットから差し出された絆創膏に、いまだ怒りが治まっていないものの松田は素直に受け取った。「で」片桐の声音は変わらない。

「何故助けた」

 目の前にいる片桐はいつもと変わらない奇妙な笑顔を浮かべて、いつもと変わらないあまり高低差がない声音で、そんな言葉を口にした。
 その質問の意味を、松田は汲み取ることができなかった。

「何故って……意味なんてねぇよ」

 警察官なら普通だろ、と続ける。
 すると、それは、ほんの一瞬きのことだった。ほんのちょっぴり、僅か、片桐の口角が下がった。本当に、いつも彼女の笑みを見ていても気づかないようなかすかな変化。松田はそれを敏感に感じ取った。
 (……………?)
 松田はその違和感を口に出したかったが、その違和感を適切に表現できる言葉を見つけられなかった。
「片桐さん、大丈夫ですか?松田刑事も」
 安室の声に漸く我に返る。松田は動揺を悟られないように頷き、今まで掴んでいた片桐の腕を離した。初めて触れたそこは、意外なことにちゃんとした筋肉がついていた。
「江戸川クン、キミは大丈夫かね?」
「うん。夕さんも無事みたいだし良かった」
「おいガキ、あんまりうろちょろするんじゃねえよ」
 この子供は並々ならぬ洞察力と行動力を兼ね備えているが、所詮子供である。取り返しのつかないことになったらどうするつもりなのか。誰かが止めてやらないといつか大変なことになりそうだ。
「松田クンは怖いねえ。………まあ確かに江戸川クン、キミは子供なんだから、目の届かないところへはあまり行かないでほしいな」
「えっあ…うん」
「……もし何か分かった時は一番に私に教えたまえ。こっそり抜け出そう。うるさい大人たちに気づかれないようにね」
「! うん!!」
「聞こえてんぞ片桐!!」
 止める気のない片桐に、ああこいつも好奇心旺盛な子供と変わりねえな、とがっくりした。