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「そういえば」
帰路、沖矢は片桐に話しかけた。
「あなた、裏の世界に精通しているんですか?」
「どうしてそんなことを訊くんだい」
片桐は表情を変えない。「いえ、先程『シャバにも中々なクズがいるらしいね』と言っていたので」“にも”ということは、シャバではないところの事情をよく知っているということだ。
「警察官なのだから知っていて当然だろう」
声は若干固かった。これ以上の踏み込みは許さない、ということだろうか。だが彼女の場合突っ込まないと情報を引き出せないかもしれない。もう少ししつこくしてみるか、と考えだところで「それより」と片桐が口を挟んだ。
「それよりキミはどうなんだい」
「はい?」
「あの高飛びに成功する話のことさ。ただの大学院生が何故あんなことを知っているんだい?」
「ああ、それはこの前テレビでやってたんですよ。尤も、少し前に見聞きしたものなんで数字が合っているかどうかに自信はありませんが」
話としては普通だろう。この国には警察に密着するテレビ番組があるし、情報源としては違和感ない。
「大学院生も暇なんだね」
「そうですね、暇です」
ここで良いよ、と片桐は脈絡なく述べる。阿笠邸が見える角で沖矢は車を停めた。警視庁まで送って行くと進言したが、自宅が目の前にあるのにそんなことをさせるわけにはいかないと断られてしまった。
「今度はコナン君と一緒に遊びに来てください。コーヒーくらいはお出ししますよ」
「ありがとう。ならサボり場としてキミの家をアテにさせてもらおうかな」
「いや、それはちょっと」
サボりを見過ごすわけにはいかない。沖矢の困り顔に片桐はおかしそうに笑った。
「そういえば工藤邸には幽霊がいるのかい?」
「………はい?」
「いやね、以前この道を通りかかった時にあそこの窓から視線を感じたんでね」
一瞬、沈黙。
「………ああ、もしかして宅配車にコナン君たちが閉じ込められた時ですか?あの時の視線は僕のものですよ」
「そうなのかい」
「ええ。なにやら騒がしかったので何事かと思いまして………」
でもコナン君たちに何もなくて良かったです、と述べれば片桐は変わらない笑顔のままそうだねと言った。
「今度工藤邸を訪問した時は、幽霊探しをしてみたいなあ」
「流石に家主の許可なしにあちこち調べるわけにはいきませんよ」
「そうだねえ、残念だねえ」
そう一言呟き、片桐は手を挙げた。「じゃあね」「ええ、さようなら」片桐は一度も振り返らなかった。