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「まったく松田クンも酷いよねえ、まさか私が野鳥に対してそんなことするわけがないのに。そもそも焼き鳥にして美味しいのは鶏だけだよ」
「は、はは…(松田刑事が疑う気持ち、分からなくないぜ…)」
 工藤邸。江戸川コナンは沖矢昴と一緒に片桐の愚痴紛いな話に耳を傾けていた。彼女の部下である松田は中々に的を射た発言をしたと思うが、コナンは片桐にそれを言うつもりはなかった。沖矢も同じように頷くだけである。
「…何だい二人して。もしかして松田クンの気持ちが分かるとでも言いたいのかい?」
「そっそんなことないよ〜!ボクも焼き鳥なら鶏のほうが好きだなーって思っただけ!」
「フーン?」
 にや、と笑って見つめてくる片桐は、ぶっちゃけめちゃくちゃ怖い。彼女に見つめられたら全ての秘密が露見しそうな錯覚に陥てしまうのだ。普通の行動でもどこかボロが出ているんじゃないかと疑心暗鬼が生じる。本当に末恐ろしい人間だ、片桐夕は。
 するとそんな中、コナンのスマホに連絡がかかってきた。発信者の名前にコナンは思わず眉根を寄せる。
「ちょっとごめんね!」
 コナンは沖矢に目配せすると、片桐を置いてリビングを出た。次いで沖矢も後に続く。「ごゆっくり」と片桐は呑気に手を振っていた。
「ジェイムズさん、どうしたの?」
 廊下に出て電話を取る。発信者はFBI捜査官であり赤井秀一の直属の上司にあたる、ジェイムズ・ブラックであった。
<やあコナン君、今そこに沖矢君はいるかな?>
「うんいるよ。代わろうか?」
<お願いしよう>
「うん!…昴さん」
 かけてきた相手が自らの上司だということもあり、沖矢は眉根を寄せていた。確かにわざわざコナンのスマホを介して彼と連絡を取るだなんて面倒なこと、普通はしない。
「はい、お電話変わりました」
<ああ沖矢君、例の件なんだが…>
 ジェイムズの声はコナンにも届いている。(例の件…?)覚えがなかったので思わず首を傾げれば、沖矢が困ったように笑った。
<“彼女”、何者かに襲撃されて瀕死の重体だ>
「!」
<更に不幸にもその場に居合わせたジョディ君も撃たれた>
「ジョディ先生が!?」
 一体何の件なんだ。問い詰めるように沖矢を見上げるが、肝心の沖矢―否、赤井は顔色を変えずに「犯人の目星は」と訊ねた。
<不明だ。君を気をつけたまえ。相手は相当な手練だ。“彼女”の携帯端末を盗んでいった>
「…それでは貴方とのやり取りも露見するおそれがありますね」
<ああ。私も充分気をつけるつもりだ。今日はそれだけ伝えたくて連絡を入れた。それじゃあね、コナン君によろしく>
 そうしてジェイムズは電話を切った。成程、自分の端末から赤井に連絡を取れば、赤井が生きているという事実がどこからか漏れるかもしれない。彼はそれを恐れてわざわざコナンに連絡してきたのだ。
「ねえ赤井さん、“彼女”って?」
 答えてくれるよね?と目で訴えれば、ややあって赤井は口を開いた。
「…………水無伶奈だ」