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「…きみは…」
やがて、片桐が呟く。
「……きみは…わたしのことを心配してるの?」
信じられない、と表情が物語っている。
「心配するなんて、普通のことだぜ」
むしろ無茶しかしないお前にそんな感情を抱かないほうがおかしい。そう続けてやれば、片桐の顔から完全に笑顔が消えた。薄氷の瞳はゆらゆらと揺れて覚束ない。彼女のそんな表情は、初めて見た。もしかしたら今まで誰も見たことがないかもしれない。こんな状況にも関わらず、松田は呑気にも優越感に駆られた。
「帰ろうぜ」
幾分か冷静さを取り戻した松田は、さっさと医療道具を救急箱に入れる。あまり遅すぎたら皆が心配するかもしれない。この話はもう終わりだとばかりに踵を返せば、片桐は少し遅れて松田の後に続いた。
「キミって馬鹿なんだね」
「…は…はァ?!」
今までの会話で何でそうなる。思わず振り返れば、片桐はいつも通りの笑みを浮かべていた。
「てっめ……今までの話聞いてたのかよ!?」
「ああ聞いていたさ。キミはやはり、どうしようもない馬鹿正直な人間だということがよく分かったよ」
「まったく…」少し俯く片桐。
「――やりづらいな」
「あ゛?」
「そんな怒らないでくれたまえよ。褒めているんだから」
「いや褒めてねえだろ!!」
先程の彼女は幻想だったのだろうか。しおらしい片桐なんてどこにもいない。松田は狐につままれた気分になって、少し不愉快だった。
そんな時、松田の携帯電話が震えた。着信は萩原からだった。
「おう何だ」
<すぐに帰ってこい!>
「は?」
妙に慌てているし、一体何だ?片桐と顔を見合わせ「どうした」と電話越しに問う。
<……“あの”爆弾魔が、また挑戦状送りつけてきやがったぜ>
萩原の声は、僅かに震えていた。