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 その後警察がコンビニに入り、現場検証が行われ犯人は現行犯逮捕された。一件落着かと思われたが、コナンはあることに気づいた。(おいおい…)片桐がずっとポケットに手を突っ込んでいる。いや、普段ならまったく問題ない。しかし今は違う。彼女は確か、ナイフを鷲掴んでいたではないか。
「ねーねー松田刑事!!」
「あ?」
「実はね、ボクが人質に取られた時、夕さんが犯人のナイフを握ってボクを傷つけないようにしてくれたんだ!でも夕さん、刃の部分を握ってたから血が出てたの!」
「なに!?」
 おそらく警察はナイフに付着していた血は一般人のものだと思い込んでいただろう。だから皆、気づくのが遅れたのである。
「片桐ッ!!」
 コンビニからいそいそと去ろうとしていた彼女を、松田が慌てて捕まえる。
 あとは彼に任せよう。コナンはひっそり笑った。



「ったく、何で隠すんだよ」
 近くの公園にある水道で、片桐の真っ赤な手を洗浄する。偶然にもパトカー内に救急箱があったのでそれで治療することにした。応急処置の心得くらい、松田にもある。
「こんなの自分でできるよ」
「うるせえ、怪我人がンなこと言ってんじゃねえ。治療は他人に任せておけば良いんだよ」
 水滴を拭き取り、消毒液を傷口にかけてから丁寧に包帯を巻いていく。すると人差し指の第二関節辺りにタコができていることに気づいた。確か彼女の利き手は右だったと記憶している。成程、銃の練習を相当積んできたと見受ける。意外とマジメらしい。
「もうこんな無茶するなよ」
「どうしてだい?」
 予想外の質問だった。「結果的に全員無事に助かったのだから、このくらいのリスクは許容範囲だろう」―――こいつ、本気で言っているのか?松田の胸に不快感が広がる。気づけば彼女の腕を思い切り掴んでいた。
「お前、自己犠牲もいい加減にしろよ」
「そんなつもりなんてないよ。ただ私は…」
「いくら民間人が無傷だろうがな、俺からすれば、お前が無事じゃなきゃ意味がねえんだよ」
 恥ずかしいことを言った。萩原が聞いていたら、多分、すごく笑われそうなセリフを口にした。だが、そんなことどうでもよかった。松田は今、自身を軽んじている片桐にかつてないほどに腹を立てていたから。
「こっちの気も知らねえでいつもいつも勝手にどっか行きやがって…今のところは命あって帰ってきてるがな!ずっとそうだって決まってるわけじゃねえだろ!それに怪我のことも言わずに…自分で手当てするだと?何でそこまで隠れようとすんだよ!」
「……、」
「ちったァ俺の目が届く範囲にいろ!!」